ある小説家の秘書日記(3)
某月某日
先生、とある出版社からインタビューを受ける。
インタビュー記事を読ませてもらう。
読者さんから質問も募集してたらしい。
ナイスな質問があった。
「男性キャラもいいけど、先生の小説は〇〇とか××とか女性キャラが魅力的です。彼女たちにモデルはいるんですか?」
なんていい質問だ!
ええ、いますよいますよ。モデル。
八割増しぐらい美人で可愛く賢く描かれてるけどね。もはや別人レベルだけどね。
先生の回答は……
「特にいません」
がーーーーーーーーん。
秘書、激しく抗議。
「〇〇も××も私がモデルよね?△△なんて私の名前(旧姓)まで使ってるよね?」
先生をポカポカ叩く。
先生はあれこれ理由を話してくれる。
なんかいろいろ言ってるけど、要は……
恥ずかしいんだね(笑)
某月某日
先生の原稿を読む。
先生は……
天才だ!
なんで、こんなものが書けるんだろうか。
先生の頭はいったいどうなっているんだろうか。
ちょっと覗きたい。
プロとアマチュアには大きな壁があるなぁと感じた。
小説を書く気でいっぱいだった秘書、急に怖気づく。
秘書に、この壁は超えられるんだろうか。
仮に超えてプロになれたとしても、先生のように小説を書き続け、何冊も本を出し、何年も小説家であり続けるなんて……ダメだ。
もはや想像すらできない。
先生はやっぱりすごい。
某月某日
某出版社のBさんがいらっしゃる。先生と打ち合わせ。
前回、もう仕事がいっぱいいっぱいで書けそうにないと判断し、雑誌掲載から書き下ろしに変更してもらったのだが、やはり雑誌掲載にしたいとのこと。
先生、了承。
Bさん、本当にご迷惑をかけて申し訳ないです。
先生、次の〆切は死守ですよ。
某月某日
ゲラ直しをしていた先生、ふーーーーっと大きなため息。
「何度も何度も読んでるから、面白いのか面白くないのかわからなくなってきた」
うわぁ。わかるわかる。
これ小説を書いたことがある人なら、絶対一度は経験したことあるんじゃないかな。
少なくとも私はよくあります。
最初は「いいもの書けた!」って興奮してるのに、推敲してたら「あれ?あんまり面白くないな。っていうか、これダメよね」ってなるやつ。
この落差の激しいことよ(笑)
そうか、先生でもそんなことあるのか、と妙に嬉しくなる。
嬉しくなってごめんなさい。
でも、先生、大丈夫よ。それ、とても面白いです。