帰れたら

昔好きだった場所にまた来ていた。

桜が散り始めた春になっても、まだ朝晩は少し肌寒い。自転車にまたがって向かった。


そこにはかつての私にとっての安心感があった。
音楽を聴いて少し離れた桜林を眺めながら、ぼーっとしていた。その間、音楽も桜も特別認識していなかった。

人気(ひとけ)が無くて好きだったあの場所も、今では裏には老人ホームが出来て少し明るく、一人きりの気分にもなりづらくなっている。

あの頃、いる間数時間は使っていたワイヤレスヘッドホンも、今ではすっかりフル充電したのが少し使うと切れるようになっている。

明日も働く。それに、長居するには冷える。『また来よう』と思いながらそこを後にした。


昔、好きだった場所は今では変わっている。
それでも人と違って、嫌いにはならないものでもあるのだな、帰り道に自転車をこぎながら、そんなことを思っていた。


でも、とも思いながら。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?