米国アーティストビザ取得の経緯
これはDubstepというジャンルの音楽プロデューサー/DJとして活動する私DubscribeがアメリカでDJをするためにアーティストビザを取得した際の経緯とそこで得た情報を記したものです。
アーティストビザについて調べていく中で、知り合いのDJにアーティストビザについて知りがっている人がいる、インターネットにはアーティストビザについての情報が少ない、ということに気づき、この記事を執筆しようと思いました。
以下の内容は「このようにすればアーティストビザを取得することができる」というものではなく、あくまで私の経験と私が得た情報です。
1. 国内弁護士と相談
2022年4月中旬ごろ、ある日突然Lost Lands Music Festival(以下Lost Lands)から出演オファーが届きました。
Lost Lands とは毎年9月にアメリカのオハイオ州で開催される世界最大規模のDubstepフェスです。Dubstepとはダンスミュージック/EDMのジャンルの一つで、主にBass(低音)を強調した音楽です。
この写真は私が撮影した今年のLost Landsの様子と、念願のLost Lands出演に浮かれる私です。
Lost Lands出演のためにはアメリカのビザが必要なのかLost Lands運営に問い合わせたところ、「必要だ」と回答が来たため、アメリカのビザ取得について調べ始めました。
まずはGoogle検索で見つけたビザ申請を取り扱っている4つの国内弁護士事務所に問い合わせメールを送り、そのうち1つと面談による相談、1つとメールによる相談を行いました。
なお、相談の前にどの種類のビザの申請をすべきかの判断と、ビザ取得の可能性の判断のために、私の音楽活動や実績の説明、メディア掲載情報、渡米歴、家族情報、犯罪歴(なし)、収入などの情報を国内弁護士に提出しました。
以下、相談結果のまとめです。
アメリカで音楽活動をする場合に関係するビザは主に以下の3つとのことです。
・Bビザ
・Pビザ
・Oビザ
Bビザは90日を超えてアメリカに滞在が必要な観光目的または商用のためのビザです。Bビザは、ミュージシャンについてはレコーディングなど表に出ない活動を行うことは認められますが、有償で公衆の前でパフォーマンスすることには適用されないため、私はこれには該当しないとのことでした。
Pビザは、グループがアメリカで活動する際にそのグループのメンバー個人に適用されるビザであるため、私はこれには該当しない、とのことでした。
Oビザは科学、芸術、教育、ビジネス、スポーツなどの分野で優れた業績をあげた人に適用されるビザであり、アメリカでイベントに出演するためにはこのOビザが必要になります。
よって、私がアメリカでDJをするためにはこのOビザ(以下、アーティストビザ)を取得する必要がある、とのことでした。
国内弁護士との面談では、アーティストビザ申請のためには以下の書類や資料を米国移民局に提出してビザ申請手続きを行う必要があると説明されました。
・ポートフォリオ(知名度や実績を証明する自己紹介文)
・国際的な賞の受賞の証明(1または2つ)
・日本国内の賞の受賞の証明(1または2つ)
・申請者の活動分野において著名な推薦人による推薦状(10通:推薦人10人分)
・国内外のメディアに掲載された証明
・コンクールなどで審査員を務めた場合、その証明
・申請者が他のアーティストより高いギャラをもらっていることの証明(契約書、請求書など)
ポートフォリオと推薦状については、書き方の指南、添削、翻訳は国内弁護士が行うが基本的に書くのは私である、とのことでした。
アーティストビザはアーティストが個人で申請することはできず、申請者は組織、会社、団体、エージェンシー、マネジメント会社などアーティストの雇用主やスポンサーである必要があります。よって、アーティストは自分の雇用主やスポンサーになってくれる団体を探す必要があります(アーティストがどこかの会社等に所属している場合にはその会社等を申請者とすればいいようです)。
その雇用主も以下の書類を米国移民局に提出することが要求されます。
・その雇用主がアーティストを雇用し、サポートするということを証明する書類(雇用条件などを含む)
・アーティストビザ取得以降のその雇用主の元でのアーティストのアメリカでの活動スケジュール
・請願フォーム(ビザ申請書類)にサイン
国内弁護士の検討の結論、以下の理由で私のアーティストビザ取得は難しい、という結論に至りました。
・メディアの掲載数が少ない
・知名度、実績が足りない
・音楽による収入が十分ではない
私の感想としては「まあそうだろうな…。提出が必要な書類の条件全然満たしてないし…」と納得するものでした。
ただし、アーティストビザ取得のためには上述の書類や資料を全て提出する必要はなく、米国移民局はアーティストビザを認めるか否かを提出された書類や資料に基づいて「総合的に判断」するそうです。
したがって、上述の書類のどれか一つでも足りない場合には即アーティストビザは認められない、ということではありません。
「総合的に判断」なので、国内弁護士の説明では極端な例として、受賞履歴やメディア掲載の記事がほぼ無くても推薦状が最強(レディガガやジャスティン・ビーバーなど世界のトップスターの推薦状など)である場合、アーティストビザが認められるかもしれない、とのことでした。
ただし、ポートフォリオ、推薦状を提出しない例は過去にはなかったとのことです(これらは最低限提出が必要なものと考えてよさそうです)。
音楽による収入については、特に「音楽による年収が○万円以上」などの明確な基準はなく、音楽で高い収入を得ていることは必須の条件ではないそうです。ただし、音楽による収入が多ければそれも実績の証明の1つになるので、収入は多ければ多いほどいい、ということでした。
推薦状を書いてもらう推薦人は著名であればあるほどよいため、可能な限り著名な人にお願いすべきとのことでした。
相談の際、アーティストビザ取得にかかる費用の見積もりをもらいました。
費用合計:115万円
その内訳は、
国内弁護士費用:58万円
提携米国弁護士費用:15万円
米国移民局への納付金額:42万円
ポートフォリオと推薦状を私が日本語で書いた場合、それを米国移民局に提出するためには英語に翻訳する必要があるのですが、国内弁護士の事務所に翻訳を依頼した場合、上記見積の他に翻訳料が別途発生するとのことでした。
ちなみに、国内弁護士との面談(コロナでオンラインでしたが)は1時間4万円でした。その国内弁護士は過去にダンサー、画家、ネイルアーティストなどのアーティストビザ取得の依頼を受任し、取得成功の実績もあるとのことでした。
国内弁護士の経験上、アーティストビザの取得には早くて3~4ヶ月かかり、長引くと半年~1年くらいかかる場合もあるとのことでした。その期間はほぼ提出書類の準備に費やされます。準備が整い、申請が完了した後は通常15日以内に結果が出ます(これはプレミアムサービスというものを利用した場合であり、後ほど説明します)。
Lost Landsの開催日が9月23日であるため、5月のゴールデンウィーク開けの時点で残された期間は約4ヶ月半です。すぐにアーティストビザ取得に向けて動き始めても間に合うかどうかいうギリギリのラインだとのことでした。
上述の国内弁護士による検討結果、見積もり、時間的にギリギリ、という現実を総合的に判断して、私はアーティストビザの取得を諦めることにしました。5月のゴールデンウィーク開け直後にその旨を国内弁護士に連絡しました。
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