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「楽天モバイル」の米倉涼子さんの声は、本当にうるさいのか? 『配信映えするマスタリング入門』の著者が「ラウドネス」の秘密を解説!

 せっかくつくった楽曲がネットで聴くとしょぼい音に…そんなDTM初心者の悩みに応え、YouTubeやSpotify、Apple Musicでも迫力のある音にするためのテクニックと基本知識をまとめた『配信映えするマスタリング入門』が9/30に発売されます。
 今回、本書の著者であるチェスター・ビーティーさんに、ネット上で「音量が大きいのでは?」と、話題になっている本CMについて、ラウドネス基準の視点から語っていただきました。(編集部 稲葉)

音が大きいのではと話題の楽天モバイルのCM

楽天よりもソフトバンクの方が音量は大きい。
 CMがうるさい問題の解決策として、広告業界の音楽制作の現場では、10年以上前から「ラウドネス」という音の指標を設けて、その基準を守らないCMは放送されないようになりました。
 この「ラウドネス基準」は、Spotify、Apple Musicなどのサブスクリプションの音楽配信サービスにも適用され、各配信サービスによって異なる数値で運用されています。
 本の中でも詳しく書きましたが、一言で言うと ラウドネスとは、「人の感じる音の大きさ」のことです。音の大きさというと、音量を示すデシベル(dB)という単位が有名ですが(騒音規制法などは、デシベルで定められている)、同じ音量でも、1980年代に作られた歌謡曲は音を小さく感じ、2000年代のヒップホップは音を大きく感じたりしますよね。この人の感じる音の大きさを測るのに最適なのが「ラウドネス」(LUFSという単位で表します)なのです。
 こうした数値を計るメーターがありまして、それで、ソフトバンクのCMと楽天のCMを計測した結果が下記になります。どちらも同じラウドネス値(LUFS-24.2)で放送されていることがわかります。そして、デシベルで比べると、楽天より、ソフトバンクの方が大きいです。

楽天モバイル 
LUFS -24.2
TP  -13.9dBTP
PLR 10.3dB

ソフトバンク
LUFS -24.2
TP -6.4dBTP
PLR 17.8dB

ソフトバンク CM 5Gってドラえもん?「登場」篇

赤ちゃんの声に近い米倉涼子さんの声
 「ラウドネス基準を守り、なるべく配信で映える音にするにはどうしたらよいか」が本書のテーマなのですが、ラウドネス数値が同じでも迫力がある音にするテクニックはあります。もちろん、人間の聴力についても深い理解が必要です。たとえば、人の耳は周波数によって「感じる」音圧レベルが違うという性質があります。
 人がもっとも反応しやすい周波数帯は、ずばり赤ちゃんの泣き声(2〜4kHz)です。CMの周波数を調べてみると、米倉涼子さんの声のトップが2〜4kHz、楽天モバイルと叫ぶところが4kHz。もっとも人間が敏感に聞き取る周波数で、CMのインパクトとなる音を出しているのです。
 各配信サービスのラウドネスはこのような性質についても「K特性フィルター」などをかけて、音量が他より大きく感じないように補正しているのですが(逆に言うと高域の音量を下げないとラウドネス基準に適さないとも言える)、ラウドネス基準が万能というわけではありません。本CMでは他にもラウドネス基準を満たしつつ音が他のCMよりも目立つようなテクニックは使われているのでしょう。そうしたテクニックについてはまたどこかでお話できればと思います。もちろん「うるさい」と感じられては本末転倒ですが。

※今回、ラウドネス値の測定に使用したTC ELECTRONIC社のラウドネスメーターの画面がこちら。ここからさらに多くの情報が読み取れます。各数値の見方なども『配信映えするマスタリング入門』で解説しています。

画像1

楽天モバイルCMの測定画面

画像2

ソフトバンクCMの測定画面

チェスター・ビーティー(Chester Beatty)
音楽制作プロデューサー/エンジニア。1990年代ごろよりドイツの名門レーベルTRESORやBpitch Control、Turbo Recordingsより作品をリリース。BBCのJohn Peel Sessionに選ばれるなどワールドワイドな活動をおこなう。現在はSONY、YAMAHA、トヨタ自動車などの広告音楽を制作する会社=ラダ・プロダクションを共同経営。日本レコーディングエンジニア協会(JAREC)理事。ラウドネス規制が重要視されるCM音楽や配信、MAの現場でのミックス、マスタリングを得意とする。

配信映えするマスタリング入門
YouTube、Spotify、Apple Musicにアップする前に知ってほしいテクニック
チェスター・ビーティー 著
四六判/並製/176ページ
ISBN978-4-86647-127-3

<目次>
1章 タテのラインで整える
1 配信用にDAWをカスタマイズ
2 はじめてのマスタリング
3 最適なファイル形式でファイナルマスターを作る
4 リミッターはなるべく使わない
 初級編まとめ
5 ミキサーの仕組みを知る
6 プロも使用するマスタリングセット
7 トゥルーピークリミッターでエラー回避
8 コンプレッサーの使い方
9 適切なダイナミックレンジをキープする
 上級編まとめ Spotify用マスタリング パート1

2章 ヨコのラインで整える
10 配信用マスタリングは「ボーカル」と「コーデック」を意識する
11 5つのプラグインをセットアップ
12 EQの種類と使い方
13 カットしながら低域を整える 前段EQ編
14 アップしながら低域を整える 後段EQ編
15 高域はボーカルの抜け感を意識する
16 配信映えする高域はディエッサーで
17 マルチバンドコンプレッサーは必要なところだけ使う
18 仕上げのローパスフィルター
 2章まとめ Spotify用マスタリング パート2

3章  立体的に整える
19 M/S処理で音像を調整する
20 ステレオアジャストとは広がりを制御すること
21 力強いシャープな低域に
22 ボーカルをくっきりとさせるには?
23 楽曲スタイルによるボーカルのポイント
24 高域に奥行きをつけ、立体感のある楽曲に仕上げる
25 配信の規定値に注意してコンプレッサーで締める
3章まとめ Spotify用マスタリング パート3
あとがき 音楽はファーマットにつれ

コラム
・ダイナミックレンジと、ダイナミックレンジを整えるエフェクト
・スタートとエンドのちょっとした工夫
・ラウドネスってなに?
・配信サービス別のラウドネス値とコーデック
・ラウドネスメーター、まずはこの5つ
・もっておいて損はしないPULTEC EQのユニークな使い方
・各メーターの数値で注目すべきポイント

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