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【日本を救う道】なぜ今、政治は「現役世代」を救わねばならないか

 我が国における2つの差し迫った危機。止まらない少子高齢化と、20年以上続く長期経済低迷、、、それらは社会保障不安やさらなる経済不安を生み出しています。しかし、それを解決できる唯一の存在であるはずの「政治」はそれを未だに解決していません。解決する気概があるのかも不明です。

残念ながら、その原因の最も大きなものは「世論」がそれを求めていないということでしょう。危機感がないのです。前回、私は少子高齢化・人口減少の問題を取り上げ、もっと危機感を持つべきだということを訴えました。

さて、今回私が焦点を当てるのが「現役世代」。日本の将来を考える上で、あるいは現状を見つめる上で、この「現役世代」への注目は必須です。というのも、この日本という国において、この世代は「大黒柱」的存在だからです。この「現役世代」が良い状況なら日本は良い状況になるし、悪い状況なら大黒柱が崩れて日本は不安定になるといえます。私は、先ほど述べた日本における2つの危機を引き起こしているのは、この現役世代に対する日本の政策、いわば大黒柱を修繕しようという政策が足りていないからだと考えています。どういうことでしょうか。まず現役世代がなぜ日本の大黒柱といえるのか、そこには3つの理由があります。

①現役世代は社会保障を支える

第1に、現役世代は日本の社会保障システムのかなめと言えるからです。
日本の社会保障は「社会保険方式」をとっています。これは、労働者の働いて得た収入から一定割合(一部定額)を「保険料」として国ないし関連機関に納めてもらい、集めた保険料収入から、必要な時に、必要としている人に分配する仕組みです。年金や医療保険、介護保険など、日本の社会保障はほとんどこの「社会保険方式」で行われています。
もちろん、集めた保険料で足りないときは税金が使われます。しかし、現状、その割合は高くなく、我が国の社会保障システムは、社会保険料収入に依存しているのです。
(※世界には、年金や医療などの社会保障を保険料ではなく全て税金で運営している国もあります。こうした社会保障システムは「税方式」と呼ばれます。)

先ほど述べたように、この社会保険の保険料は「労働者の収入から一定割合を納めてもらう」ものです。よって、働く人の収入によって制度が成り立っている。働き始めてから定年を迎えるまでの、働く現役世代が社会保障を支えているのです。

こうしたシステムであるため、現役世代の人口が相対的に減少したり(少子高齢化の進行や定年後再雇用の鈍化など)、働くことを諦める人が出てきたり(引きこもりや育児離職、介護離職の発生など)、現役世代の収入が減少すれば(低賃金化や非正規化)、我が国の社会保障システムは大きく安定性・持続可能性を失うのです。後ほど詳しく触れますが、残念ながら、我が国ではそれらが現実のものとなってしまっています。

②現役世代は日本経済を支える

第2に、現役世代は日本経済の支え手でもあるからです。
下にあるのは日本のGDPの内訳です。

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※資料:内閣府「国民経済計算」

意外に思う人も多いかもしれません。日本のGDPの多くは「個人消費」(家計最終消費支出とも)が占めています。各個人がモノを買う、サービスを利用するなどといった「消費」が日本の経済を支えています。輸出が日本経済を支えていると思いこんでいる人が多いようですね。実は消費も大事なんです。(※よって、日本経済を効果的に成長させたいのであれば、この個人消費を成長させてゆけば良いということになります。しかし、残念ながら現行の政府の経済政策はこの点について注目しているとは言えません。)

さて、この「消費」に注目したとき、この多くを現役世代が支えていることがわかります。
下のグラフは年代別の消費支出額の平均です。

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※資料:総務省「家計調査報告」

消費支出は年齢を重ねるごとに増加します。これは賃金が年齢を重ねるごとに増加するからです。そして、50代でピークを迎えた消費支出はその後に急減します。そして、定年後は平均を大きく下回る傾向が見てとれます。このように、現役世代はその年齢によって差はあれど、活発な消費で日本の経済の軸となっているのです。

よって、この現役世代がそもそも減少したり、あるいは、消費意欲や可処分所得を減らせば、日本経済には深刻な悪影響が生じます。(※先ほども述べましたが、残念ながら現在の日本はそういった状況にあります。)

③現役世代は次の世代の日本を作る

第3に、現役世代は次の世代の日本を支える存在でもある子どもたちを生み、育てるからです。
少数、例外があるのかもしれませんが、それをできるのは現役世代に該当する年代の方々だけです。生物学的な話ですから、ここでは詳細の説明は省きます。

さて、国立社会保障・人口問題研究所の調査によると、子どもを希望する数まで持てていない夫婦に対するアンケートで「子育てや教育にお金がかかりすぎるから」という回答が66%に達しました。近年、現役世代の経済状況と出生率には相関がみられており、収入などの経済状況が悪化すれば出生率は下がります。

この関係を強く示しているのが「第3次ベビーブーム」が来なかったということです。日本では終戦直後「第1次ベビーブーム」が起こりました。社会の安定と戦場に出ていた人々の復員により、多くの子どもが生まれました。その後、その子どもたちが大人になって子どもを生んで「第2次ベビーブーム」が起こりました。しかし、その時生まれた子どもたちは「第3次ベビーブーム」を起こしませんでした。バブル崩壊や労働規制緩和による雇用の非正規化(労働の不安定化・低賃金化)の時期と、彼ら彼女らが20代をむかえる時期が重なってしまったのです。それが一時的なものであれば、その後に経済が回復してから結婚・出産に至れば良いのですが、ご存知のようにデフレによる「失われた20年」と言われる経済の長期低迷は今も続いています。その結果、生涯結婚できない、あるいは子どもが欲しくても持てない人たちが増加。「第3次ベビーブーム」はついに起こりませんでしたし、出生率は低迷したままなのです。

以上の3点が現役世代が我が国や国民生活の大黒柱たる所以です。これを見ているあなたは現役世代かもしれませんし、そうではないかもしれません。しかし、あなたがどの世代であれ、現役世代によってあなたの年金や医療といった保険は支えられ、経済は成り立ち、将来の日本も支えられるのです。逆に言えば、現役世代が苦境に立たされれば、あなたがどの世代であれ大きな悪影響を受けると言えます。困ったら海外に移住できるほどの莫大な資産と学識の持ち主なら話は別ですが。

疲弊する現役世代

さて、こんなにも日本を支えている現役世代ですが、その直面する現状は厳しさを増しています。徐々に雇用環境や所得環境が悪化しているのです。

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上のグラフは団塊の世代から、いわゆる「ゆとり世代」まで、各世代ごとの賃金の伸び率(年齢を重ねるごとに賃金がどの程度上がるか)を示したグラフです。標準労働者を対象としています。標準労働者とは学校卒業後に直ちに企業に就職し、同一企業に継続勤務している労働者です。多くは正規雇用と考えられます。男女ともに、下の世代になればなるほど賃金の伸びは鈍化しています。賃金が上がりにくくなっているのです。

とはいえ、その差はグラフで見るとさほど無いようにみえます。しかし、実態はもっと深刻です。

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上のグラフは各世代ごとの世帯収入を表しています。概ね、下の世代ほど大きく世帯収入は少なくなっています。昔より今の方が圧倒的に現役世代は収入を得にくくなっているのです。なぜこうなってしまったのか。そのカギを握るのが「非正規雇用者の増加」です。

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非正規雇用は増加し若者の賃金は抑えられた

上のグラフは各世代ごとの非正規雇用で働く人の割合です。同じ30代前半の時でも、下の世代ほど非正規雇用で働く人の割合は高くなっています。非正規雇用は正規と異なり、賃金が低いほか、キャリアを積めないため、年齢を重ねても賃金が上がりません。そのため、若い世代の非正規雇用割合が増えることによって、若い世代の世帯年収が徐々に低下しているのです。正規雇用でも収入が低下しているのはそれに引っ張られた結果とも言われています。さらに、現役世代の直面している問題は非正規化・低賃金化だけではありません。そもそも働かない人が増えているのです。

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上のグラフは現役世代の男性の非労働力人口比率。いわば就労しておらず、就労する意欲もない人の世代別の割合です。この人たちは完全失業率の計算の時にも母数から排除されます。失業率は近年改善していますが実際には非正規雇用や、こうした非労働力人口が増加した結果とも言えます。この非労働力人口の多くは「引きこもり」が占めています。

「自己責任」では片づけられない引きこもり問題

彼らはなぜ引きこもりになってしまうのでしょうか。連合の調査によると多くは失業が原因であることがわかっています。でも、なぜ若い世代ほど多いのでしょうか。

ここで非正規の問題と話がつながります。非正規雇用の特徴の一つとして「失業しやすい」という事があげられます。しかし、現状、失業者に対する支援は諸外国と比べてあまり充実していません。また、非正規雇用の多くに雇用保険が適用されていないとの指摘もあります。不安定な雇用体系の中で失業し、公的な支援も十分に受けられないまま仕事に復帰できない。そんな人たちが「引きこもり」という状況に陥っているのです。かつては正規雇用が中心で基本的に一生涯、特定の企業に努めることが普通でした。そうした状況では失業者に対する支援が不十分でもそもそも失業する人がほとんどいないんですから問題ありません。その後非正規雇用が増えて、失業しやすい社会になっても、社会保障システムはそれに対応できなかった。その結果が引きこもりの増加なのです。

進まぬ現役世代の救済 このままでは日本は滅ぶ

こうした、若い世代の非正規化、引きこもり化によって、全体的な賃金低迷は引き起こされ、消費が喚起されない事による経済の低迷や社会保障不安、出生率の低迷は引き起こされました。また、非正規雇用や引きこもりは「厚生年金が適用されにくい」「親の年金収入に依存している」などの弊害があり、老後生活を生活保護に頼らざるを得ない危険性があります。現状、非正規や引きこもりが急増した後の世代はまだ老後を迎えていませんが、日本の社会保障システムにおける大きな将来リスクとも言えます。

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さて、これまで現役世代という存在がいかに我が国や私たち国民を支えているか、そして、それが今、いかに危機的状況に直面しているかを確認してきました。現役世代、特に若い世代の非正規化や引きこもり化、あるいは低賃金化を止め、消費を促進し、子育てをしやすい環境を作る。これを一体で行わなければ、少子高齢化・人口減少、経済の長期低迷といった問題は解決できません。しかし、現状、それを十分に理解したような政策はとられていません。

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※資料:「九州医事研究会ニュース」より転載

このままでは日本は衰退と崩壊の道をたどることになるでしょう。そうなれば、悪影響を受けるのは現役世代だけではありません。お年寄りから子どもたち、そしてその先の将来の人々までみんなです。手遅れになる前に、我々はここに向き合わなければなりません。

では、どうしたらいいのか。
次回は具体的な政策について考えたいと思います。

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