美濃加茂市長汚職事件の真実 5


任意同行の車内のテレビ局からの電話で今何が起きているのかを悟った私は、とにかく情報収集を図った。

2月のN氏の逮捕時の任意同行とはと同じ知った顔もいたが、明らかに前回とは空気が異なっていた。

恰幅のいい「フジシロ」という刑事は前回の家宅捜査にも参加しており、さらには前回の取調べでも同席していた。

その時は共通のプレイしていたゲーム「ドラゴンクエストX」の話で盛り上がり、どこか砕けたイメージのある刑事だった。

年齢は私と同世代っぽく、とはいえ自分より年下の上司の下で僅かながら苛立ちが垣間見える男だった。

「フジシロさん最近ドラクエやってます?」と声をかけると

「まぁ今はその話は」と怪訝そうな顔をしていた。

明らかに前回とは全く別の空気だ。

「藤井がNから金貰ってたんですか?」

「それは署に付いてから聞くから」

「今メディアから電話があってそう言ってたんですよ。僕の知らない所で貰ってたってことですよね?」


言いたがらない人間から情報を得る為には、こちらが多くを語り、その表情を読み取ることが得策だ。

藤代は明らかに動揺していたが、それ以上に「詳しくは理解していない(伝えられていない)」事も読み取れた。

(という事は捜査の親玉は前回事情聴取をしたアイツか)

とこの車内にはこれ以上は情報がないと情報収集作業を打ち切った。


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藤井は厳しい取り調べに耐えられる奴ではないな。

こんな事で俺と藤井の計画は頓挫してしまうのか・・

なぜ俺に言わなかったのだろう・・

Nの逮捕後すぐに会いたがったのは探りを入れる為だったのか?

むしろその時に相談してくれればよかったのに・・


とりあえずどうやって藤井を救えばいいか・・

こうやって俺を同時に引っ張っている事に絶対何か意味があるはずだ。

とにかく情報収集だな。

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「一本電話入れていいですか?」

「いや、それはちょっとやめてくれ」

「すぐに終わるんですか?それならいいですけど、僕も仕事の予定があるので連絡をしないと」

「わかった、手短に。後この話は言わないでよ」


と了解を得たので電話をかけた


「もしもし」

「タカミネさん聞きましたか?」

「あのさぁ、今日の約束少し遅くなるからまた時間わかったら電話するわ。その時例の件詳しく聞きたいからまとめといて」

「ああ、、わかりました、、また連絡してください」


当然その日は何も予定はなく親しい記者にフェイクの電話をした。

『取り調べ終わったら連絡するから情報収集しておけ』

というメッセージは多分伝わっただろう。


「もう一本かけまーす」

藤代はダメダメという素振りをしたが、構わずかけた。

「〇〇さーん朝早くすみません。特に問題ないですか?」

「いや、何もないけど。何かあった?」

「それならいいです。じゃあ」


電話を切ると藤代は「それはダメだろ」

と不満そうな顔をしていた。

私は「ですよねー」と馬鹿にしたような笑いを浮かべて返した。


2本目の電話は、私が面倒を見ていた議員で、

「美濃加茂市長汚職事件の真実 3」

https://note.com/dsplab2011/n/ncfec2edb68a3


でふれた「N氏から金を渡されたことのある議員」だ。


この一見意味の無さそうな2本の電話には大きな意味があり、またそれを悟られないようなテクニックが潜んでいる。

1本目の電話で問題ないと油断させておいて(実は1本目の電話が肝心なのだが)相手が警戒するであろう相手に、立て続けに次の電話をかける事で、一瞬なら話せると思い電話をかけた。


と同時に1本目の電話への警戒を薄める事も画策した。


なぜこのような小細工をしたかと言うと、この後私の電話は押収され、「誰に電話をかけたのか」を調べられる。

議員への電話が印象付いていれば、それはわかっているのでわざわざ印象の薄い電話までは調べないであろうと思った。


また議員への電話でこの議員は逮捕はおろか、身柄拘束、事情聴取すらされていないことがわかった。


これで登場人物は「タカミネ」「藤井」「N氏」の3人に絞られた。


(これらの私の立ち振る舞いは「美濃加茂市長汚職事件の真実 4」https://note.com/dsplab2011/n/n7d7966f04e1d

を読んでいる人なら「ニヤッ」っと楽しめるポイントだろう)


愛知県警本部に近づくと「タカミネさん隠れてもらっていいですか?」

「え?なんで?僕は別になにも悪いことはやってないから気にししませんよ。ピースサインでもしましょうか?」

つまらない冗談に愛想笑いのひとつも見せず
「いや、捜査の都合でタカミネさん見られたくないので」


ますます怪しい話だ。

先程電話した記者も私の任意同行を知らないようだし、「とにかくタカミネを隠したい」という事は強調されてきた。


外から見られないように頭を低くした状態で県警本部に入ったが、確かに社内に対して焚かれたフラッシュは事の重大さ語っていた。


県警本部に入ると建物内は改装中で迷路のようになっていた。

角を曲がる度に「タカミネさん、ちょっと待ってください」と制され、刑事がその先に誰もいない事を確認して次の角まで走るといった、24のジャックバウアーよろしくな移動方法だった。
多分署に詰めている記者や、それらにリークしかねない職員まで警戒した行動だろう。

そんなスリルも楽しみながら、ひとつの部屋に通された。

「ポケットの中出してください」

フジシロは明らかに先程までとは違った、守られた場所での安心感で調子に乗った威圧的な態度だった。

「は?なんでですか?僕はなんかの容疑者なんですか?」

「いや、形式的なものなんで」

私はポケットから携帯電話を出しながら

「って言って前回ずいぶん長く携帯電話没収したじゃないですか。これその時に新しく契約した奴だから何にもないですよ」

「これを押収する意味がないのはわかっているので形式上だから。できるだけ早く返すようにするから」

「でもこっちのPHSは議員から渡されているものなので議員に確認してください」

というと

「じゃあそっちはいいわ。iPhoneの方だけ預からせて」

と明らかな嫌がらせ、または後の交換条件にする為の押収であることがわかった。


(これは厄介だな・・警察とやりあうことになるのか・・)

と覚悟を決め普段より浅めに足を投げ出す形で椅子に座るファイティングポーズで取り調べは始まった。

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