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ジャポニスム―世界を魅了した浮世絵 (千葉市美術館)

先月、千葉市美術館で開催していた展覧会「ジャポニズム - 世界を魅了した浮世絵」に行ってきた。

千葉市美術館は、日本人なら誰でも見たことがあるであろう、葛飾北斎の「富嶽三十六景 神奈川沖浪裏」や歌川国芳の「相馬の古内裏」といった作品を所蔵している。ここにあったのか。

歌川国芳「相馬の古内裏」

今回の展覧会では、所蔵作品をはじめとする日本画と、それに影響を受けた海外アーティストの作品が展示されていた。

日本が鎖国を解いてから、海外の人も浮世絵を目にするようになっていく。そして多くのアーティストが浮世絵にインスパイアされて、自分たちでもその技巧を取り入れた創作をするようになった。ゴッホやモネが日本画から影響を受けたというのは有名だけど、彼ら以外の西洋画家の作品にも、明らかに日本画からの影響を受けている作品がたくさんあった。

浮世絵の何がそんなに海外のアーティストの心に響いたのだろうかと思っていたのだが、展示されている作品を見て、その気持ちが少し分かったような気がした。

日本画には見えているものをリアルに描こうという意図がほとんど感じられないように思う。普通、絵を描こうとしたら、できるだけ忠実に対象物を写しとってみたいと思うのが自然じゃないだろうか。人物画でも、静物画でも、風景画でも、まずは写実的な描き方を追求するものだと思う。その上で、別の表現に移っていったりはするだろうけれども、誰でも一度は通る道のような気がする。それなのに、日本の絵画はそうした試みを最初からしていなさそうなのが興味深い。リアルに描きたくなる気持ちというのは文化によって程度が異なっていて、一種の先入観に過ぎないのかもしれないと思った。もしかすると西洋の画家たちも、そういうところに自分たちとは全く異なる価値観を感じて影響を受けたのかもしれない。

リアリティを追求しないこととも関係するけど、日本画の構図はとてもユニークだ。たとえば、鳥になったかのように空から見下ろす視点で描かれた絵画がいくつもある。言われてみれば西洋画でこんな視点を設定して描いている作品というのはほとんど見たことがなかった気がする。

歌川広重「名所江戸百景 深川洲崎十万坪」

建物の中を上から覗き込むような構図の作品もたくさんある。これも視点が普通じゃない上に、本来は屋根があって見えないはずだということも完全に無視している。日本人は源氏物語絵巻の挿絵とかで慣れ親しんでいるからそのユニークさを意識することもないけど、初めて見る人にはとても斬新に映るに違いない。

源氏物語絵巻 葵 巻二


日本の画家は目の前に見えているものを描くよりもイメージの世界を絵にすることを志向していたのかなと思った。現実世界に縛られない自由な発想に、西洋のアーティストたちが魅力を感じたのがジャポニズムだったのだろう。

そして、葛飾北斎の「富嶽三十六景 神奈川沖浪裏」。

葛飾北斎「富嶽三十六景 神奈川沖浪裏」

何度も見たことがあったけれど改めて実物を前にして圧倒された。あまりにも大きくて厳しい自然の恐ろしさと、それに成す術がない人間たちと、その様子を後ろからただ静かに見守っている富士山。カオスな状況なのに一種の完璧さのようなものを感じた。



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