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新規事業開発のプロセスをデザインする|Business Design Talk Vol.01 [EVENT]

先日、Takramで行われた「Business Design Talk Vol.01」に参加してきました。定員40名のチケットは即完売だったみたいですが、運よくチケットを手に入れたので、参加できなかった方のためにもメモを共有させてもらいます。(後々正式な記事も出るようです)

本イベントは、博報堂の岩嵜さんとTakramの佐々木さん主催で、2018年3月にお二人の対談という形でVol.00が開催されました。今回はゲストを招いて行うVol.01ということで、QUANTUMの井上さんと3名での対談でした。

はじめの30分で井上さんから話題提供があり、残り90分は会場の質疑にお三方が答える形でのセッションとなりました。この記事では、後半の質疑の内容をまとめてます。(以下、敬称略)


● イベント概要
https://businessdesigntalk01.peatix.com

● 前回の記事
前編:https://bizzine.jp/article/detail/2681
後編:https://bizzine.jp/article/detail/2682


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【メモ】


Q. 新規事業開発における実行or撤退はどのように判断すべきか


井上:

全プロジェクトに共通する撤退基準はないが、各プロジェクトの撤退基準を予め設計しておくことが大切。チェックポイントとしてステージゲートを決めておく。例えば、ゲート1はユーザーテストの実施、ゲート2は実際に市場に出すタイミングなど。そこで期待した反応が得られなかった場合や設定した目標を達成できなかった場合は潔く撤退する。

社内にオーナーシップを持てる人材(=パッションガイ)がいない場合も難しい。過去には、新規事業と全く関係のない部署の社員が自ら企画を持ってきて新規事業を立ち上げ成功した例もある。情熱をもってドライブできる人材がいないと、なかなかうまくいかない。


岩嵜:

予め「失敗のデザイン」をしておくことが大切。大企業では新規事業を立ち上げる場合も、成功が前提とされてしまう。そもそも失敗を受け入れる土壌が整っていないことが多く、そのような状況では新規事業にチャレンジしづらい。


佐々木:

新規事業開発はほぼ100%失敗するもの。シリコンバレーのオールスターでチームを作ったとしても、失敗する可能性は十分にある。それをまずクライアントや経営層に理解してもらうため、Apple / Amazon / Googleの「失敗事業リスト」を見せる(意外に多い)

また、新規事業のローンチの前に必ず「死亡前死因分析」を行うようにしている。そうすると失敗が前提となるので、失敗しても責められづらくなる(=失敗のデザイン)。また、失敗した場合も事前に対策を検討しているため、迅速に対処できる。



Q. 新規事業開発を実行するために、社内の諸問題(=壁)を突破するには


井上:

社内で過去に「失敗した事業(ローンチできなかった事業)」と「成功した事業(ローンチできた事業)」を聞いてみる。そうすると、知財の問題をクリアできなくてローンチできなかった、成功したのは単に社長と仲良かっただけ、のような話がでてくる。そうすると、その企業においてどうすれば社内の壁を突破できるか、ポイントが見えてくる。


岩嵜:

最近は、創り方(=プロジェクトの進め方)からリデザインすることが多い。予め"このプロジェクトは従来とは異なる方法論で進める”という前提にしてしまう。古典的な企業には、古典的なステージゲートが設けられているので、普通にやろうとするとそこで止まってしまう。ステージゲートすらもリデザインしてしまい、意思決定の方法や承認の通し方すら変えてしまうと格段にやりやすくなる。


井上:

とりあえずやってみるというのも大切。ルール上ダメなこともあるが、そこはパッションで押し切ってしまう。それでキャリアがダメになったという人は聞いたことがないので意外となんとかなる。


岩嵜:

スープストックトーキョーの遠山正道さん曰く、「聞いちゃいけない問題」というのが世の中には存在する。聞かれたら立場的にNOとしか言えないこと、そういう問題はもう聞かずに水面下で進めてしまった方がよい。



Q. 新規事業開発を外部のコンサル会社に依頼するには、どのように社内を説得すべきか


井上:

名目上、「研修」や「コンサルティング」など、その企業で承認されやすいプロジェクトの形態をとってしまうことが多い(すでに予算が確保されていて、過去に契約した実績があるもの)。ただ新規事業を立ち上げるためには、最終的には「共同事業」にする必要があるので、そこは事前に口約束はしておく。


岩嵜:

「研修」という名目にしつつ、中身はガチのワークショップにすることも多い。そこででたアイデアを役員にもっていったり、最終プレゼンの場に役員を呼んだりすると意外と通ったりする。



Q. 新規事業開発におけるチームビルディング(=カルチャーづくり)のコツは


井上:

最初にビジョン、ミッションを明文化して、共通認識をもてるようにする。ただ、人が増えるとカルチャーを批判する人もでてくるので、そういうときは1対1で飲みに行ったり、QUANTUMのオフィスに招待して働き方を見学してもらったりして、新規事業立ち上げの空気感を肌で感じてもらうようにしている。チームビルディングのための「合宿」を行うこともある。


岩嵜:

何のためにその事業を行うのか(=Why)をチーム内で共有し、また上位意思決定者とも共有するようにしている。日本人の経営者層は、その部分をきちんと説明すると意外とわかってくれることが多い。


佐々木:

プロジェクト立ち上げのタイミングで必ず行う儀式が3つある。1つめは、キックオフの日に全員で焼肉に行くこと。2つめは、キックオフの自己紹介で小さな秘密を暴露してもらうこと(これが焼肉で話のネタになる)。3つめは、1対1でインタビューすること。そこでは、その会社に入った理由 / この仕事に対するモチベーションなどを聞く。新規事業の立ち上げは逆風にさらされるもの、それを乗り越えるためには人として信頼し支え合える関係性を構築しておく必要がある。



Q. 新規事業開発で、鳥瞰と虫瞰を行き来するには


井上:

鳥瞰 / 虫瞰どちらにも寄りすぎないよう意識しておく必要がある。全体戦略の担当であっても、ユーザーインタビューも何人かは同行するなど。どっちかに寄りそうになったとき、それに気付いて戻すことが大切。(=どちらかに寄ってないか日々意識することが大切

テスラの場合は、電気自動車の生産が目的ではなく、持続可能なエネルギー社会の実現を目的としている。電気自動車のためだけには割に合わない高コストのモーターも、将来的には電気自動車以外に展開するビジョンがあるため、あえて開発している。短期的にはベストでない選択がとれるのは、きちんと長期的な戦略をもっているため。(=重要な意思決定の際にどちらの目も持つことが大切


岩嵜:

どちらかというと、鳥瞰から虫瞰に向かう方がやりやすい。広告代理店は、ビックピクチャを描くのが得意な人が多い。ただ同時にディティールに興味がない人も多い。世の中をどう変えるかだけでなく、そのためには何が必要かまで落とし込める人材が求められる。逆に事業会社はボトムアップで進めるケースが多いのでは。ボトムアップからはじめる場合は、ある程度の段階で視点を変え、ビックピクチャも描くようにした方がよい。


佐々木:

鳥瞰 / 虫瞰の行き来のイメージをしてもらうために、イームズの「Powers of Ten」の動画を見てもらうことが多い。



Q. 新規事業開発で、外部のコンサル会社が抜けた後も自走する組織をつくるには


井上:

リーダーシップをとれる人材を育てておく必要がある。部署ごとにターゲットを決め、リーダーシップをとって社内を"教育できるよう教育しておく"。バッションガイを育てるためには、インターナルブランディングに力を入れることも有効。社内報などを通じて、バッションガイが評価される仕組みを作れるとモチベーションに繋がりやすい。


佐々木:

やらないといけないことを「業務ルーティン」としてビルドインしてしまう。例えば、おもしろネタを集めて週1の定例会で発表するなど。ルールさえ作ってしまうとそれを守り続けるのは日本の企業は割と得意。



Q. 社内で新規事業のアイデアを提案しても、大きな利益が見込めないと却下されることが多い


井上:

例え入り口の利益は小さくても、将来的には大きくなるビジョンをしっかりもっておくのが大切。例えばUberもはじめはただのリムジンの配車サービスだった。利益以外を目的とする場合は、例えば「ブランディングのため」だけだと漠然としており説得力に欠けるので、「新規事業開発の仕組みづくりのため」「人材育成のため」など、その企業で通りやすい説明のアプローチをとるとよい。


佐々木:

実際にそのような相談を受けることも多いが、本当に事業規模が小さいものが多い。なので、批判している側を批判するのでなく、まずは自己批判的に自分のアイデアを見つめ直してもよいのでは。



Q. ビジネスデザイナーの定義とは、そして今後どのように発展していくか


井上:

ビジネスデザイナーはプロフェッショナル達を繋ぎ合わせる役割を担っている。時代の大きな転換点において、プロフェッショナルの特殊性をどこまでアップデートできるか(読み換えられるか)が重要になってくる。


佐々木:

ビジネスデザイナーは、時代の変化に合わせてビジネスやテクノロジーなど、様々なインプットを行っていかなければならない。それを楽しめるドM性が必要。5年後、10年後に世界がどうなっているかに対する根元的な好奇心があるか


岩嵜:

ビジネスデザインをするためにはビジネス教養だけでなく、クリエイティブ教養も必要。最近のカンファレンスで「AIの進化」の話をすると、次に「人間らしさ / 人間にしかできないこと」の話になり、次に「哲学 / 文学」の話になっていく。ビジネスに軸はありつつも、そういった教養も身につけておかなければいけない。古典的な教養が実は現代の事象にもあてはまったりする。

Facebookのポール・アダムスは、コミュニティとは何かを人類史を遡ってリサーチしている。モビリティサービスのWhimは、歴史におけるモビリティの変化を100年単位で捉え、自社のサービスがどのような役割を担うかを位置付けている。虫瞰としてABテストなどももちろん重要だが、合わせてこのような鳥瞰をもっておく必要がある。

またこの文脈においては、経済学と心理学の融合である「行動経済学」の重要性は今後ますます増していく。合理性やモダニズムを超えた人間理解が21世紀のビジネスデザインにおいては求められるのではないか。


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【まとめ】


● 新規事業開発はプロセスのデザインが大切である


新規事業開発を成功させることはもちろん大変だが、それ以前に新規事業を立ち上げること自体がそもそも大変で、ローンチまでにいくつもの障壁が存在する。それらを乗り越えるためには、プロセス自体をデザインしていく必要があるが、すべてのプロジェクトに共通する正解など存在しないことを改めて痛感した。


■ 失敗しないために

・失敗のデザインをしておく
・撤退基準を設定しておく
・失敗事業リストを見せる
・死亡前死因分析を行う

社内の壁を突破するために
・過去の成功事例の要因を調べておく
・契約しやすいプロジェクト形態をとる
・パッションで押し切る
・聞いちゃいけない問題は聞かない

チームビルディングのために
・新規事業開発の雰囲気を肌で感じてもらう
・事業の目的(=Why)をチーム内で共通認識を持つ
・密なコミュニケーションで信頼関係を築く

組織を自走させるために
・バッションガイを教育する
・業務ルーティンとしてビルドインする

事業を成功させるために
・鳥瞰と虫瞰を行き来する
・将来を見据えた大きなビジョンを描く
・自己批判的に事業を見つめ直す



● ビジネスデザイナーには多様な力が求められる


事業の中身をつくる力はもちろん大切だが、上記のようにプロセス自体をデザインする力も同じくらい(もしくはそれ以上に)大切だと感じた。また、ビジネス / デザインの知識だけでなく、その歴史的背景や基礎教養、それらの根底にある人間の心理や欲求に対する理解までもが求められている。


■  
スキル / マインドセット
・プロセスをデザインする力
・プロフェッショナルを繋ぎ合わせる力
・社会の変容に対する根元的な好奇心
・ビジネス教養とクリエイティブ教養
・哲学 / 文学 / 行動経済学等を通じた人間理解

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