#8 ボーナス支給後の離職者

昨年末にボーナス支給を終えて、離職者が出るかな、と思っていたらやはり1名、退職したいと申し出た。「先生、ちょっとお話があるのですが」というセリフを聞くと、ほぼ100%、退職の意向表明である。

今回はまだ1名しか出てきていないが、恐ろしいのは離職の連鎖である、つまり、一斉退職になると組織として積み上げてきた自律性や自走性が失われてしまって、またゼロから組織を構築しなければならない苦行となってしまう。しかし、退職の意向表明があれば私は引き止めることはしない。引き止めたとしても、一度下がったモチベーションを保つことはできないだろうし、そもそもこの組織に身を置きたくないから退職の意向を表明してるわけであって、重要なポストかもしれないけれど、そういう人には潔く送り出してあげている。引き止めることにも気を使うし、体力を使う。そんなことに時間を使うのであれば前向きに違う人材を探そうという気持ちの切り替えをしたほうがいいと個人的には思っている。

うちのクリニックはまだ組織として小さいので、メンバーひとりひとりのキャラクターが全面に出ている。ただ、こういう小さい組織からスケールを拡大するにあたっては、申し訳ないけれど人員を入れ替えていかなければならない。企業もそうだけれど、企業の成長フェーズによって最適な人材というのはやはりあって、小さい組織のときには属人的な要素の強い人材がその人の個性によって企業を成長させるかもしれないけれども、その成長というのはいつしか限界がきてしまう。その限界を突破するためには、それぞれのスタッフの個性を消し去り、マニュアル化し、上層部の意向に沿った動きを忠実に達成するスタッフを揃えることになると考えている。

同じ仕事をし続けるということにはその仕事についてなんでも答えることができるというメリットがあるかもしれないけれど、マンネリ化や新しい思考が生まれてこないというデメリットもある。私が在籍していた金融業界の人材の流動性は高いので、新しい考え方がどんどん外部から人ともに入ってくる。そして、給料面や仕事の内容的に満足しなければそういう人材は次の職場へ移っていく。確かに看護師は自分の置かれた環境によって転職を繰り返しているかもしれないけれど、そのときに新しい考え方などを次に活かせていない気がしている。医療はこうあるべきであるという思考が固定されている人材が小さいクリニックに応募してくる方が多い。何か新しいことを提案しても、それは「普通ではない」と否定されることから始まり、新しいことができない。これはやはり年齢的なものもあるだろうと思っているので、若い人材も積極的に採用しようと試みている。

属人的な組織から、没個性的な組織に変容を遂げることで、目標をなんとしても達成する大きな組織に、小さい組織から脱皮することができるかが鍵になると考えている。大きな組織で、没個性的になると、重要な人材という存在感が薄れてきて、人材を代替することが可能となってくる。これは大企業が成し遂げている組織であって、重要と思われる人物が離職したとしても会社組織というのは何一つ変わらないという事実に反映されている。「君にやめてもらっては会社が困る」と言われて、退職を慰留されることは大きな組織としての会社としてはの損失はほとんどなく、ただ直属の上司に尻拭いや後輩に残された仕事がまわってきて面倒くさいだけである。実際、私も「やめられると業務が回らなくなる」と言われていたけど、3か月後にその後のことを後輩に聞いてみても、何ら問題なく業務が遂行されているという事実に、自分の存在価値は会社の中では小さいものなんだな、ということを社会人3年目で実感し、それ以来、会社という組織というのはどんな重要な人材を失ったとしてもそれを埋め合わせるリソースを持ち合わせているのだということを痛感している。

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開業医のつぶやきです。ゴリゴリの経営をしているわけではなく、流れに流されている経営をしています。

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