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我は石を抱きて泣く #呑みながら書きました
我は石を抱きておうおう泣く。粉々に砕け散った石のかけらを抱いて、夜空の月を仰いで泣く。
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昔、昔、わたしのお父さんは、それはりっぱな、頑丈な橋をつくりました。わたしが大きくなって初めて一人で橋を渡ろうとした時、お父さんは、目を回して驚きました。
痩せ細って痛々しいほど目の大きくなったお父さんは、かわいい花を、大波が飲み込んでしまうのではないかって、喉を締め付けるような恐怖で夢中で橋を、叩き壊しました。
橋はたくさんの石のカケラとなって、わたしとお父さんを襲いました。お父さんの手は、血だらけです。もう、向こう側に行くことはできません。
わたしは泣きました。それから、眠りました。
わたしは眠ります、夜眠ります、昼も眠ります、ごうごう、いびきをかいて眠ります。
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悪い人は、この世にいるのでしょうか。中島らもが「悪い人はおらん。いるのは、間違った人間だけだ」と言っていました。だけど、何が間違っているのか、何が間違ってないのか、わかりません。わかっているのは、たくさんのものを、この手であやめてきた、ということだけです。
海は死にますか 山は死にますか
風はどうですか 空もそうですか
さだまさしが歌っています。わかりません。死んだと思えば死んだことになるし、眠っていると思えば、眠っています。だって、そんなこと、誰にもわからないから。誰かが決めることでもないから。ただあるのは、わたしの両腕が抱えている、たくさんの石のかけらだけ。
どこで、どうやって拾ったのかわからない。なぜ離さないの。なぜ放さないの。なぜ話さないの。
言わないで言わないで言わないで言わないで言わないで言わないで言わないで言わないで謂わないで岩内で岩魚いで異和ないて言わないでいないでいないのです
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大人になったら、忘れなきゃいけないのでしょうか。ガラクタのようなゴツゴツした石は、捨てなきゃいけないのでしょうか。
石を詰め込みすぎると、心が破れます。案の定、心は、すぐに破れました。心が破れる前に、重たい石、先の尖った石は、捨てなければならなかった。だけど、もしかしたらそれは、とっても綺麗なものかもしれなかったから、わたしはたくさんたくさん石を詰め込んで、心を引きずってよたよた歩いたのです。
魔法を信じていました。ただの石ころを宝石にする、やさしい魔術を。
やがて袋が破れて、中から出てきたのは、本当に灰色の、ただの石ころでした。みんなは笑いました。わたしも笑いました。
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海は笑いますか 山は笑いますか
夜はどうですか 月もそうですか
わかりません。笑っているように見えて、笑っていないこともあります。眠っているように見えて、眠っていないこともあります。
目に見えないものが、見えることがあります。目に見えるはずのものが、見えないこともあります。
あれから、たくさんの石は、どこかに置き去りにして、歩き続けたはずでした。それでも、気がつくと握っている、抱えている。握りしめている。わかっているのは、また、何かを、どこかで、壊し、あやめたということだけです。
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わたしは眠ります、夜眠ります、昼も眠ります、ごうごう、いびきをかいて眠ります。
わずかな生命(いのち)の
きらめきを信じていいですか
言葉で見えない 望みといったものを
去る人があれば 来る人もあって
欠けてゆく月も やがて満ちて来る
なりわいの中で
月明かりの夜。
我は石を抱きておうおう泣く。
粉々に砕け散った石のかけらを抱いて、夜空の月を仰いで泣く。
………
こちらの企画に参加させていただきました。ありがとうございます。
【参考・引用文献】
・歌『防人の詩』(さだまさし)
・詩『海と太陽』(小川未明)
・中島らも『ベイビーさん~あるいは笑う曲馬団~』
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