見出し画像

おばばちゃんの記憶 殴り書き


保育園に通うまで毎日のように私の子守りをしてくれたことも、おばばちゃんがおんぶして育ててくれた最後の世代は私と私と同い年のはとこだったことも、よく一緒に家の周りの草取りをしたことも、その時におばばちゃんは「タンポポは抜かないで残しておくんだよ」と言ったことも、80超えてもピンピンしてて自転車乗って転んで家族みんなに怒られてたことも、シルバーカーの椅子のとこに保育園に上がる前の私を乗せて毎日散歩してくれたことも、私が大きくなって逆におばばちゃんを乗せて歩くと怖がったことも、シルバーカーは緑と深緑のチェック柄だったことも、私のはじめてのおつかいの時おばばちゃんは近所の小さい商店で私を待ってくれていたことも、まだお金の計算ができない私の代わりに小銭を計算してくれたことも、汚れた黄色いブラインドも、2人で一緒に帰ったことも、その商店でよくお菓子とアイスを買ってくれたことも、それが黒猫の10円ガムとキュービーロップとレモンサクレだったことも、私はレモンサクレが好きだったからはとこが買う桃太郎アイスよりサクレの方が10円高いのに毎回買ってくれてたことも、はとこがガムを紙に出さないで飲み込むのをいつも叱ってたことも、そうやってはとこが叱られるのは私がおばばちゃんにチクってたからってことも、はとこと2人でおばばちゃんのベッドをトランポリンにして遊んでやりすぎると怒られたことも、叔母が作った派手な枕を使ってて今思えばチェ・ゲバラが柄の中に書いてあったことも、しわしわの胸が見えそうなくらいダルダルなババシャツ着てたことも、ちょっとだけ薄くなってきてたけど綺麗な白髪だったことも、額の真ん中に大きめのイボがあったことも、歳のわりにはちゃんと自分の歯が残ってたことも、方言と声も、手の震えも、骨張った手は私の母にも遺伝したことも、平べったい足は曾孫の私にまで遺伝したことも、従兄弟と結婚したから入籍しても名字が変わらなかったことも、母と叔母が拾ってきたネコに懐かれてたことも、ネコに唐木三大名木から取った「紫檀」「黒檀」「鉄刀木」ていう変わった名前をつけたことも、祖父にまあるく剪定された庭のキャラボクの根元に入って遊んでると「毒があるから実を食べてはいけない」と教えてくれたことも、いつも座ってたリビングの六角形の椅子の柄も、家族が仕事から帰ってくる前に夕食の下拵えをしていたことも、キッチンの高さが合わなくて床にまな板置いて野菜切ってたことも、リビングの座卓で大きなお皿いっぱいにおいなりさん作ったことも、おいなりさんの作り方はおばばちゃんが教えてくれたことも、実はのり塩味のポテチがけっこう好きなことも、いとこたちが大きくなったら「近所の商店でお菓子買ってきていいよ」ってたまにお小遣いを持たせてたことも、散歩の途中で毎回お地蔵様にお参りすることも、お地蔵様の首にはハワイのレイみたいな明るい色の花輪がかけられていたことも、ちゃんと落ち着いて手を合わせないと嗜められたことも、夕方になるといつも一緒に洗濯物を畳んだことも、洗濯物の畳み方はおばばちゃんから教わったことも、そのくせ私より雑に畳んでたことも、私の方が背が高くなると私が物干し竿から洗濯物を取り込む係になったことも、物干し竿にずいき干してて洗濯物取り込むたびに干し加減を確認してたことも、保育園の頃トイレに行くときおばばちゃんについてきてもらってたことも、おばばちゃんがトイレの時は私が扉の前から話しかけてたことも、そのとき「おばばちゃんいま何歳?」ってしきりに聞いてたのに毎回ちょっとずつ違う返答だったことも、向かいの同い年くらいのおばあちゃんと仲が良かったことも、若い頃は近くのお屋敷のお手伝いに行っていてオシャレにパイプのタバコなんか吸ってたらしいことも、奉公に行った上野の飴屋さんで二・二六事件の兵隊さんの足音聞いたってよく話してたことも、お祭りの日に狐につままれた話も、赤い靴履いてた女の子の歌で怖がらせようとしてきたことも、そのときいつも小さかったいとこが最後の音程間違えて高く歌うと笑ってたことも、仕事を終えた母が私を迎えに来る時間には寄り付きで2人でコーヒー淹れて待ってたことも、三つ指ついてお出迎えしてみたことも、母が若い頃お見合いでショートカットが好みじゃないって断ってきた相手のことひどく嫌ったらしいことも、寄り付きの奥の部屋が自室だったことも、いつもどこか威厳があってシャンとしていたことも、お風呂掃除の磨き方に厳しいことも、シャワーで流したときに光らないところは何度も磨き直しさせられたことも、夏に履いてたズボンの色も、いつも定位置に座って大きいポットからお茶淹れてたことも、定位置はストーブに近い座卓の左端だったことも、夕食のときたまに小さいグラスでビール飲んでたことも、「少しくらいお酒飲んだ方が骨にいい」って言ってたことも、「長寿祝いはやるな」って言ってたことも、赤ちゃんだった私の手がもみじの葉っぱみたいで「もみじちゃん」って呼んでたらしいことも、一時期大正琴にハマってたことも、遊びに行くたびに一緒に弾いて教えてくれたことも、小学生の頃大正琴を弾いてて「荒城の月」を知らないって言ったら驚いてたことも、私はあんまり上手く弾けるようにならなかったことも、クローゼットの中に大正琴しまってたことも、私がピックを穴に落とすと「取るのが大変だ」ってちょっと怒ることも、だから私にはべっこう柄のカッコいいピックじゃなくて白いペラペラのピックを使わせたがったことも、末のいとこが弦を張ったり緩めたりして遊ぶのを困って見ていたことも、テレビを見るのが好きだったことも、私が反抗期でちょっと物に当たったことを知ってても怒らないでいてくれたことも、泣き虫の私の背中をいつもさすってくれてたことも、おばばちゃんはおばばちゃんだけの匂いがしたことも、全部全部ずっーと覚えてたいよ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?