映画感想②『ラテン・アメリカの旅』

こんチワワ。毎日投稿2日目です。

『ラテン・アメリカの旅』

昨日に引き続き、ディズニー映画です。と言っても、『ラテン・アメリカの旅(原題:Saludos Amigos)』は最新の映画ではなく、1942年公開のクラシック映画になります。

この映画は『Lake Titicaca』、『Pedro』、『El Gaucho Goofy』、『Aquarela do Brasil』の4つの短編を繋ぎ合わせた中編映画になります。全編上映時間は45分ほど。

物語は当時のディズニー・スタジオスタッフが飛行機に乗り込み南米へと飛び立つ所から始まります。作中では「ラテン・アメリカへアニメーションのネタを探しに…」といったナレーションが流れますが、これは半分正解で半分間違いですね。

まず、この映画を見る前に、当時の社会背景をおさえておかないと面白くないんです。何故なら、この映画はアメリカが善隣政策のためにディズニーに財政支援をして作ってもらった国策映画だから。時は第二次世界大戦。当時のアメリカ、基アメリカのアニメーション業界はヨーロッパへの輸出ができず財政難に陥っていました。また、ナチス・ドイツ、日本、イタリアの枢軸国が徐々に勢力を強めてきており、ヨーロッパ市場は既に占領されています。このままでは、アメリカに侵攻してくるのも時間の問題です。そこで、当時の大統領フランクリン・ローズベルトは善隣政策と称し、南米への”友好的な”外交を始めます。そこで彼が目をつけたのがディズニー・スタジオでした。ラテン・アメリカでもディズニー映画は人気を博していたためです。まずは、南米を人気のアニメーションのモデルにすることで、自分たちは友好的であると示したかったんですね。かくして、ディズニー一行はラテン・アメリカへと旅立つのでした。

映画を見たことがある人は分かると思うのですが、『ラテン・アメリカの旅』はかなり教訓的な内容なんですよね。喩えるなら、社会の授業で見る教育ビデオのような雰囲気です。全体を通してナレーションがラテン・アメリカの文化や風俗を説明しながら物語は進んでいきます。クラシックディズニー特有のナレーションとキャラクターのコントのような掛け合いもあります。また、時たま挟まれる実写映像もより一層教育ビデオ的な雰囲気を醸し出してます。

このようなアニメーション映画なので、社会背景が分かってないと少々退屈だと感じてしまいます。

ですが、アニメーションとしてはかなりの完成度を誇っています。例えば、3番目の『El Gaucho Goofy』では、アニメーションがスローモーションになれば音声もスローになり、反対に倍速になれば同じように音声も早送りになるシュールかつ笑える手法がとられています。また、4番目『Aquarela do Brasil』では、サンバの軽快なリズムに合わせてスタッフが描く水彩画が軽やかに動き出します。バナナが鳥になったり、食虫植物がドナルドになったり、メタモルフォーゼの要領で私たちを楽しませてくれます。ちなみに、『Aquarela do Brasil』とは「ブラジルの水彩画」を意味し、この年のリオのカーニバルの音楽のタイトルでした。(だからスタッフが始めに描く絵画の種類も水彩画なんですね)

実は、この作品の主人公は紛れもなくドナルド・ダック(当時ドナルドはミッキーよりも出演数が多く国策映画には必ず登場していた人気者)なのですが、ここでもう一羽新しい鳥が登場します。

それが、ホセ・キャリオカです。

ホセは画像右の緑のヤツなんですが、ドナルド急にブサ顔晒してて草。事故画じゃん。

スタッフが南米で出会った緑色のオウムをモチーフに擬人化されたキャラクターで、実際にブラジル、リオ・デジャネイロ出身の陽気なヤツです。ドナルドにブラジルを案内したり、サンバを教えたり紳士的な面もあれば、握手しようとしたドナルドにハグをする嫌にフレンドリーな面もあります。ポルトガル語(ブラジルの公用語)を話し、得意気にサンバを演奏する彼はブラジルのご当地キャラクターと言っても過言ではありません。

ホセに名刺を渡されたドナルドがお返しにスペードのAのカードを渡すのですが、そこには「DONALD DUCK HOLLYWOOD」と書かれており、これはドナルドが超人気スターであることを表わしているんですよね。反対に、ホセはブラジルのスターとなるという暗示でしょうか。

また、先ほど主人公はドナルド・ダックと言いましたが、彼は4つある短編の中の2つにしか登場しません。はじまりの物語『Lake Titicaca』とホセが登場する『Aquarela do Brasil』です。

『Lake Titicaca』は名の通りティティカカ湖の話であり、ティティカカ湖のほとりで暮らす南米の人々の暮らしをドナルドは観光客として追っていきます。その土地の文化や暮らしぶりを物珍しそうに写真に収めるドナルド。その姿は、典型的なアメリカ人旅行客の姿として描かれています。ここでのドナルドは観光客という立場でありながらも、いつものドジや失敗は健在です。ドナヲタ(ドナルド推しのディズニーヲタク)としては可愛いので最高ですね。ちなみに、この当時のドナルドのセーラー服のリボンって赤じゃなくて黒だったんですね。かっこよくてすこなんだが……。

残りの『Pedro』と『El Gaucho Goofy』にドナルドは登場しません。

そもそも、『Pedro』にはお馴染みのディズニーキャラクターは一切登場せず、ウスパヤタ峠(チリ中部とアルゼンチンのメンドサ地方を結ぶアンデス山脈越えの峠)を舞台に、ペドロという名の小さな飛行機の男の子が主人公となっています。体調不良で配達ができない両親に代わって、ペドロが仕事に奮闘する姿を描いています。

『El Gaucho Goofy』には名の通りグーフィーが登場し、ラテン・アメリカ版カウボーイ「ガウチョ」に変身します。グーフィーもドジキャラとして描かれているので、微妙に馬を乗りこなすことができないドタバタが笑いを誘います。教育的な内容も忘れておらず、グーフィーはガウチョの服装をナレーションが説明しながら着せられたり、アサードという文化的な食事を食べたり、タンゴとカントリーダンスを踊ったりしています。

社会的背景から生まれた『ラテン・アメリカの旅』。ドナルド・ダックは今でもディズニービッグ5の一員であり、ホセ・キャリオカは知る人ぞ知る人気キャラになっています。ホセを知っていればディズニーオタクと名乗ってもいいという1つのラインにもなっているほどですね。

ディズニー映画のキラキラした感じが嫌!という人でも見やすい映画の1つではあるかなと思います。また、アニメーション技術は素晴らしく、今見ても惚れ惚れするほどです。カラフルな色彩に軽やかに動くキャラクターは観客を一気に映画の中に引き込んでくれます。これが作製されたのが1942年、第二次世界大戦真っ只中だというのが信じられね~~~です。

ちなみに日本でカラーのアニメーションができたのは1958年です。『白蛇伝』という長編アニメーションが日本初のカラーアニメーションらしいですよ。1965年にはテレビ初カラーアニメーション『ジャングル大帝』の放送が始まりました。

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