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Music Pairing #001 Life by The Cardigans with Weekend's Breakfast

 天気が良い週末のブランチにはこのアルバムがぴったりだ。
あまり手間暇かけるのも面倒で、でもコンビニやファーストフードはちょっと、と思いつつ、なにか材料が残っていないかなと冷蔵庫を覗く。そこには、半分使いかけのベーコン、これまた使いかけのソーセージ、卵が3つ、かろうじて残っている。おとといサラダ用に掃除してちぎったサニーレタスののこりもあった。野菜室の奥には黒くなり始めているマッシュルームも。これだけあればそれなりにちょうど良いブランチができそうだ。そういえば10枚切りの食パンも半分くらい残っていたっけ。

 ちょっとアメリカのクラシックな朝食っぽくなりそうだなと思いながら、コーヒーを淹れるための水をケトルに入れスイッチを入れ、お気に入りのSTUMPTOWNのエチオピアの豆を測ってからミルを回しながら、アンプとターンテーブルの電源も入れてレコードを聴く準備をする。

 こんな日は少しノスタルジックな、あまり刺激が強すぎない聴き慣れた音がいいな。レコード棚の前に行き、昔よく聴いていたけど最近あまり聴いていないようなレコードをなんとなくいくつかみつけ、その中で今日の気分にあいそうな盤を取り出す。

 これは高校生の終わりか、浪人時代か、もう記憶が曖昧だけれど、渋谷のWAVEクアトロ店でスウェディッシュポップのコーナーがあった頃にデビューアルバムを買って凄く気に入ったんだよな。それからすぐにこのセカンド?編集盤が出て。先行シングルの1曲目「Carnival」は渋谷ではあちこちでかかっていた記憶がある。その頃、あまりにも好きで聴きすぎて2000年代に入ってからはほとんど積極的に聴くことはなくなってしまったんだけど。こんな天気の良い休日に合いそうな気がする。久しぶりに聴いてみるか。

 青いサンタクロースみたいな衣装を着たニーナのジャケットからレコードを取り出しターンテーブルに置いて針を落とし、挽いた豆にお湯を少しだけ注ぎ蒸らし始めると、

 ああ、、これはやはり素晴らしい。アタマの「Carnival」のオルガンが入ってくるところからもうエモい。そしてノスタルジーがたまらない。今これを初めて聴いたらいったいいつ作られた曲なのかわからないかもしれない。たまに拳がはいるボーカルも、後の作品への伏線かと今なら思える。
このはじけるポップさのなかにもどこか切ない空気が拭い去れないこの感じが休日のお昼前にバッチリだ。

ソファーに腰を下ろしてじっくり聴きたくなる感情を押し殺して、コーヒーを淹れて、ベーコンとソーセージをフライパンで焼き始める。卵はボウルに入れて溶く。トースターを取り出してパンを2枚投入して、落とし終わったコーヒーをマグカップへ注ぐ。

 2曲目、そうだったこういうながれだった、「Gordon's Gardenparty」は少しだけ落ち着いた、でも適度にハネのあるビートがここちよい曲だ。ベースも効いていて心地よい。ポイントで入ってくるピアノも絶妙だ。

 コーヒーの注がれたマグカップをもって、ステレオセットの前のソファーに座る。ベーコンとソーセージはパチパチと音を立てているが、もう少し放っておいても大丈夫そうだなと思いながら、ジャケット裏のクレジットをざっとみる。プロデューサーとしてトーレ・ヨハンセンの名前がある。

 3曲目「Daddy's Car」は前の曲と同じくらいの店舗だけど、もう少しだけギターが主張していてこみ上げ系の曲だ。しかしここまでクオリティが高すぎる。

そう、90年代のスウェディッシュポップといえばトーレ・ヨハンセン抜きでは語れないほど当時のシーンの最重要人物だったんだよな。

ベーコンとソーセージの様子をみにキッチンにもどり、いったんそれらをお皿にとりだし、溶いておいた卵をフライパンに流し込む。

 あ、次が「Sick & Tired」だったのか。この4曲目は、デビューアルバムの1曲目で、当時この曲でThe Cardigansに恋をしてしまったのだった。思っていたよりかなりアコースティックなつくりだったんだなと改めて思いながら、フライパンの中で少しずつ火が入ってきた卵を菜箸でかき混ぜながら適当にスクランブルにする。塩胡椒を少しだけ振ってさっきのベーコンとソーセージのお皿の空いている部分にそれをのせ、ケチャップをきゅっと皿の端に出す。まだ空いている皿の他の部分にサニーレタスをのせ、トーストにはバターを少し多めに塗ってから同じ皿にのっけてソファーへ座る。

 スピーカーからはすでに次の「Tomorrow」の心地よいヴィブラフォンの音が流れてきている。この曲もポップだけれど憂いのある良い曲だ。感想のベースにホーンとか謎に決まりすぎている。
 そしてまたファーストアルバムからの「Rise & Shine」。アップテンポでこれも良い曲だ。でもどこか影が残るメロディーが凄く効いていて、ただポップで明るいだけではないところにキュンとするのだ。

 最初にサニーレタスをあらかた食べてしまってから、ソーセージとスクランブルエッグをケチャップに少しつけながら頬張る。うん、この感じ!ちょうど良い!
A面最後の「Beautiful One」はゆったりとしっとりとした曲で、ハープシコードが効いていてヨーロッパのノスタルジーを感じさせる。ベーコンとスクランブルエッグも食べつつ、トーストにかじりつく。バター多めで良かった。コーヒーで流し込みながらレコードを裏返して針を落とす。

 「Traveling With Charley」か。少し変わった劇中歌みたいな感じで、これまたいつの時代かよくわからないがノスタルジックだ。なんて思いながら皿にあった食べ物は半分くらい平らげている。
次の「Fine」が流れてきて、また少しテンポがあがる。しかしどこか一枚雲がかかったような突き抜けきらない明るさのようなメロディがいいなぁと、口を動かしながら考えているともうほとんど皿の上に食べ物は残っていない。トーストでケチャップや肉汁を拭き取って仕上げる。なんと心地よいブランチ!

 そんなタイミングでファーストにも入っていた一番お気に入りの曲が流れ始める。「Celia Inside」だ。音数は少ないが、アコースティックギターのつま弾きで始まり、ドラムとウッドベース(?)がグルーヴィーな、そして抑えの効いたボーカルもいいゆったりとした曲だ。ホーンが所々さりげなく差し込まれる感じも絶妙で、この曲を好きな理由のひとつだ。この曲は昔からすごく好きだな。そして、なんとコーヒーと相性の良いことか!

 最高だ、ともいながら曲が終わり、一気に違うテンションで次の曲が始まる。Rise & ShineのB面収録だったか、「Hey! Get Out of My Way」という曲だ。少しロック度が上がり、エレキギターもしっかり使われているけれど、可愛らしいアレンジがされていることもあり激しさはあまり感じない。

 そこからラスト前「After All..」。この曲は当時も今も飛ばしてしまう感じだな。何回トライしてもはまらない曲もやはりある、という良い例だ。

最後の曲「Sabbath Bloody Sabbath」になる頃にはコーヒーもほぼ飲み干していて、このもの悲しい曲調にもひっぱられてか、ああ、この幸せな時間もこれで終わるのか、と少し寂しさを感じている。でも、梅雨入り前のこんな気持ちよい時期にこんなブランチとこんな素晴らしいアルバムで幸せな時間を過ごせたのだから今日も良い一日になるに違いない。

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