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街風 episode.10.2 〜ゴキゲンな女神〜
「ただいま休憩から戻りましたー!」
マナミさんは元気よく休憩から戻ってきた。今日の夜に前の会社の同僚と会う事については、今日を迎えるまでに何回もマナミさんから聞いていた。その同僚と会うのがよっぽど楽しみなのか遠足や修学旅行が近づく小学生みたいに毎日ソワソワしていた。昨日もいきなり休憩時間をズラしてほしいと言われたので事情を聞いてみたら、その元同僚ことアオイさんという人に“秘密の美味しいサンドウィッチ”を食べさせに行きたいとのことだった。相変わらずマナミさんにはノリと僕の関係を秘密にしているので、マナミさんは僕が秘密のサンドウィッチについて知っているとは思ってもいないだろう。それにしても、仲良い常連さんやたまにやってくるマナミさんの知り合いにもノリのお店の事は言わなかったのに、今日会うアオイさんを連れて行ったということは、マナミさんが相当心を許している証拠だろう。今日はお昼休憩に行く前からご機嫌の鼻唄が聞こえていた。さらにその背中からもウキウキしているのが伝わってくる。
「ダイスケさん!聞いてくださいよ!」
仕事の手を止めることなくマナミさんが笑顔で話しかけてきた。どうやら、アオイさんは以前よりも笑顔で幸せそうだったらしい。核心部分についてはこの後の夜の会で続きを聞けるそうな。短い昼休憩だから仕方ないけれども、話をお預けにされたマナミさんは久し振りに会えた喜び以上に続きを早く聞きたくて疼いているようにも見える。アオイさんって人はきっと過去から抜け出す事ができたんだな。俺はいつまでずっとこうしたままいるんだろうか…。
「ダイスケさん?」
「ああ、ごめんごめん。」
うっかり手を止めてボーッとしてしまった。マナミさんは話を続けてくれて、それからもずっとアオイさんとマナミさんの話を聞いた。いつもの時間よりも少し早いけれど、マナミさんと2人で閉店準備を始めた。マナミさんが奥のレジカウンターで締め処理をして、僕は店頭に並べた花々を順番にしまっていった。最後の鉢を運ぼうと持ち上げた時、何処からか声が聞こえた。
「(もう…貴方の道を進むべきよ…)」
その声にハッとして辺りを見回した。その声は間違いなくカナエの声だった。僕は必死に店の前の人混みを見渡したがやはりカナエの姿はあるはずもない。
「どうかしましたか?」
マナミさんが心配して店先まで出てきた。
「ううん。なんでもない。」
僕はそう答えるといつも通り閉店準備を続けた。
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