『月刊DiGG』9月号 -HIPHOP 31曲を一挙レビュー紹介('20/9/1〜9/30)-
『週刊DiGG』で最新HIPHOPを7〜8曲紹介しているのですが、まとめて読みたいというニーズがあるかも…?と思い、『週刊DiGG』#2〜6を再編集して一部加筆。『月刊DiGG』という形で発行することにしました。
9月に公開されたMV31本のレビューを一挙にドドンと紹介します。数年後には資料として使えるよう、1曲にまつわるストーリーも記載しています。
今この時代の空気感と驚きを、時間軸でパッケージ。プレイリストを先に聴いて、気に入った曲のみレビューを読むもよし、曲を聴きながらレビューを読むもよし、14000文字あるので、自分のペースで味わって下さい。
⬇︎この記事と連動したプレイリスト
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1|MuKuRo / Show me ya LOVE|
2020/09/02 公開
唾奇を中心とする沖縄のクルー604に所属する MuKuRo が、LIVEでお馴染みの曲を遂にリリース!
日本人離れした筋肉質な発声が彼の魅力で、さらに、しなやかさと色気がある。その歌声と英語のリリックから、US HIPHOPを聴いている気分になっていたら、日本語も入り混じるのでハッとさせられます。
ビートメーカー illmore による左右に揺さぶるシンセベースのスケール感との相性がいい。曲のスピード感とは裏腹に、リリックではゆったりとした沖縄タイムも描かれていて、音楽でも、言語でもリリックでも揺さぶるトリップ感にヤラレます。
⬇︎2週間後、MVに出演していたCHICO CARLITOとTOCCHIがバースを蹴ったREMIXが公開されました。こちらも合わせてチェックです。
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2|TERRA the McFLY / 幸 sachi |
2020/09/01 公開
ー 日常にある些細な幸せ ー
休日の昼下がり、何気に手にとったギターを爪弾いたようなビートメーカー・ucによるトラック。鎌倉のクルーS.P.Cの TERRA the McFLY は、日常の平凡さを壊さぬように淡々とラップしています。
その中で見つける些細な幸せに、人生を本当に楽しむってこういう事だよな。その積み重ねしかないよなと改めて気づかされます。
もしかしたら鎌倉という歴史ある土地柄が、そう思わせてくれるのかもしれません。
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3|S.A.D Force / 自殺|
2020/09/01 公開
「自殺」というショッキングなテーマを歌うのは、メロディを大切にする大阪のラッパーS.A.D Force 。
自身も一度は“死”を選択したというだけあって、その経験から出る「グローブの紐」「胸に包丁」などのワードや、心の葛藤はリアル。
でも「死ぬのが怖かったんだ」と告白し、人並み以上に“生きること”を実感する。ちなみにこの曲が収録されたEPのタイトルは「生」。
同じ思いでいる人をなんとかしてあげたいと、苦しみにより添う一曲。
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4|Hys plasma / Roll Boy|
020/09/03 公開
ロック、HIPHOPと、属しているようでどこにも属してない。ジャンルに縛られない表現が自由さを感じる Hys plasma(ヒスプラズマ) 。
HIPHOPの音源をドラムでcoverするドラマーだけあって、(説明が難しいのでこちらを見て!)
「バンドだと"Red hot chili peppers"、HIPHOPだと"post malone"に影響を受けた」というのも頷けるアーティスト。
この曲は、ハードなロック調だった前MVから一変してメロディアス。湾岸線を風を感じながら走っているような爽快さがある。一筋縄ではいかない節回しが個性的で、心に引っかかる。
1曲ごとに表現を変えており、どんな道を切り拓くいてくれるか。これから楽しみなアーティスト。
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5|東海喰種 / Shall We Smoke|
2020/09/05 公開
ーヘビー級な曲はお好きですか?ー
東京喰種ならぬ東海喰種(トウカイグール)は、梵頭、BASE、CROWN-D (クラウンディ)の3MCで構成されており、梵頭は“HIKIGANE SOUND”、BASEは“JET CITY PEOPLE”、CROWN-Dは“DRAMASICK”というクルーを率いています。
曲は、ビートメーカー・ティーイコールツーによるお経を取り入れた珍しい構成ですが、湿っぽくならず力強いBoomBapなっています。ブッといベースが、力技で首を揺らします。そして丸くならない、いい意味で荒削りなラップが曲とマッチしズシっと重い迫力があります。
実は、お経にメッセージが込められていて、線香の煙で巻かれたような感じ。見た目怖そうなのにユーモアがある所が、なんとも憎めなくていいですよね。女性は、母性本能がくすぐられると思います。
ラッパーSIMON JAPが3人をインタビューし、今まで活動が止まっていた理由、近況などが語られた動画⬇︎
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6|maki from ASAHI feat. Castro beats / 32日目|
2020/09/09 公開
大阪のHIPHOPバンド ASAHI のVocal / MCである maki のソロ作品。引越しをして新しい場所で過ごす。そんな期待や寂しさが描かれています。
リリックに「ゲオに返却」「ウォークマン」「コインランドリー」などを入れることで、半径5キロ圏内の、すぐに手が届きそうな生活が垣間見えます。ゆえにmakiさんが近所に歩いてそうで、愛嬌のある声がより身近に感じられます。
引越しして距離が遠くなった分だけ、誰かに思い馳せる。気持ち飛ばすイメージが、曲に解放感を生み出していますね。
この曲が気に入った人は、ぜひバンドASAHIも聴いてみて下さい。えっ、こんなカッコいいの!?って驚くと思います。私のオススメは、『PHENOMENON』という曲です。
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7|ELIAS × MANTIS / Ghetto Science|
2020/09/10 公開
ー “見せる韻”と“聴かせる韻” ー
北海道から福岡へと活動拠点を移したラッパーELIAS(エリアス)、福岡の親不孝通りを拠点に活動するビートメーカーMANTIS(マンティス)のジョイント作品。
注目して欲しいのは、ELIAS(エリアス)がストイックに韻を重ねるフローです。
MCバトルで、韻をふむカッコよさを知った人が多いと思います。バトルでは会場を盛り上げるため、韻を強調することが多いです。でもこの曲では韻を強調するようなことはなく、流れるように韻をつづっています。
“見せる韻”と“聴かせる韻”、この違いが分かってもらえるのではないでしょうか。
この曲には日々、感覚を研ぎ澄ましているから感じる静けがあり、静と動が入り混じることで感情が何層も折り重なっています。派手さはないですが、渋さがあります。
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8|PETZ / Enemies|
2020/09/11 公開
ー早く行きたければ1人で行け 遠くへ行きたければみんなで行けー
(アフリカのことわざ)
東京のクルーYENTOWNに所属する PETZ 。2019年9月に発売した1stアルバム『COSMOS』以来、約1年ぶりの新曲は、できるだけシンプルな言葉を選び、静寂なトーンで始まります。
バース部分での静寂さからフックでは一転。神聖なシンセが大波のようなうねりを作り、ドラマチックな展開を見せています。「俺」という一人称ではなく、「俺ら」という複数人称を使っているところにクルーの好調ぶりが伺えるます。
私の中でYENTOWNは2020年、量といい、質といい、話題性といい、優勝だと思っています(まだ9月ですが…)。なので、クルー全員で、我々の想像をはるかに越えた、遠く地点にたどり着くのでは?そんな予感を感じさせます。
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9|J'Da Skit & Leo Iwamura / After the Rain|
2020/09/11 公開
ラッパー J'Da Skit (ジェイダスキット) とビートメーカー Leo Iwamura によるユニットの楽曲で、9月16日にタワーレコードで先行リリースされる2ndアルバム『MANTRA』からの一曲となっています。
彼らは2年前に、雨をテーマに歌った「Lazy, Rainy 」という曲を発表していて、その曲の続編であり、当時の自分たちへのアンサーソングとなっています。
恐らく、『Lazy, Rainy』と同じマリンバのサンプリングを取り入れたトラックですね。
J'Da Skit は、あふれ出る想いを詩にしたため、詩を聴かせてくれます。最近、2Verseで2分代で終わる曲が多い中、この曲は3Verse、3分49秒を最後まで聴かせてくれます。歌詞というより詩に近くて、いく通りにも曲の解釈できる巧みな表現者ですね。
その歌詞には、「転轍機(鉄道線路の分かれ目につけ、これを切り換えて車両を他の線路に移す装置。)」「残りの猶予」 といった言葉が出てくるので、音楽だけで生活するための与えられてた時間が迫っているようで胸が痛くなりました。皆さんはどう解釈しましたか?
YouTubeのコメント欄にリリックが掲載されているので、噛み締めるように聴いて欲しいです。
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10|BES & ISSUGI / Welcome 2 PurpleSide|
2020/09/07 公開
ー これぞBoomBapの中のBoomBap ー
BoomBapの表現を貫くキャリアの長いラッパー BES と ISSUGI によるJointアルバム第2弾は、騎士が登場するような勇ましいこの曲で幕を開ける。
いつになくタイトなBESのラップは、日本語ラップの系譜を引き継ぎつつ、次のステージへ向かう進行形。ISSUGIのラップは、派手さがないのにリリックが耳に残るから渋いです。
HIPHOPの魅力って、首を縦に揺らし、重力の変化を楽しむところ。カッコいいところが全部つまっています。
(後日談)
MVの0:45〜「Batty Boyはねのけ」というリリックが問題になりました。
Batty Boyとは「同性愛の男性」を意味し、その表現が時代に合わないというものです。おそらくニュアンスとして「軟弱な奴」ということを伝えたかったのだと思います。
ただLGBT運動の高まりから、セクシャルマイノリティも認めていこうという時代ですので、このワードをチョイスすることにより曲が良し悪しが決められるのは非常にもったいないと思いました。現にカッコいいですし。
時代の変化に、リリックも対応しないといけないと考えさせられました。
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11|S-kaine / 明 feat. SILENT KILLA JOINT(prod.OGRE WAVE)|
2020/09/12 公開
リリースが多さにリスナーから苦情がくるほど才能があふれ出して止まらない大阪のラッパー・S-kaine(エスカイネ)。
リリースがどれぐらい多いかというと、7〜9月だけでEPが5枚とシングル1枚発表しています。しかもEPと言っても10曲以上収録されていている物もあって、アルバムと言ってもいいほどのボリュームです。
そんなS-kainêが憧れていたラッパー。それがYouTubeチャンネル・POLINKEY MOVIEのかずきむぎちゃとしても活動する・SILENT KILLA JOINT (以下SKJ)です。
その2人が共作した曲で、Verse1をS-kainêが、Verse2をSKJがラップしています。
SKJは約2年半、塀の中に入っており、出てくるのを待ち続けた後輩 S-kaine に「新たな出会いに祝福を込める」と歌っています。
陽の当たらない社会の闇をあぶり出し、その中でわずかな希望を見出す。後輩の目覚ましい成長を目の当たりにして、自分たちが活躍することが希望に繋がるだろうと言ってるように感じられます。
この2人は、曲をリリースするごとに、表現者としての純度を高めています。10月にも新作を控えているということで、リリースの波は収まりそうにありません。
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12|HekA / KEMURI (Prod by RexxBeats) |
2020/09/13 公開
名古屋の3MCクルーTripRoomの一員・HekA 。インディR&Bや、アシッドフォークなどを経由したクリーミーな歌は、色気があって魅力的。メロディーに歌心を感じます。
この曲では、何かをあきらめて止まってしまった現状と、空に消えゆく煙を重ね、その行方を眺めるだけの自分から、一歩踏み出そうとする姿を描いています。
その歩みはこれからどうなるのか気になるアーティストです。
※実はこのMV、6月12日に公開されたのですが、新しいHIPHOPメディアPRKS9 によって9月13日に再公開されました。これにより、私も知ることができた曲です。
HIPHOPのMVは年々増え続け、2020年は4000本以上公開される見込みです。リスナーに届かず埋もれてしまう曲も多いと思うので、この「週刊DiGG」を含めて多くのメディアが、様々な形で曲を届けられるといいですね。
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13|KZ / I gotta fresh ft. tella ( Prod. by F1REWORKS)|
2020/09/14 公開
R指定が所属することでおなじみの梅田サイファーのメンバーであるKZ。8/22に4thアルバム『GA-EN』 をリリースしたばかりなのに、早くも届けられた新曲。
Mid 90sのHIPHOPを彷彿とさせる掛け声の懐かしさ、tellaの鼻にかかった声、KZのハートフルな暖かさが、張りつめた気持ちを和らげてくれます。長いキャリア中で、いい時ばかりではなく、時に辛酸をなめた事が心地いいメロディとして昇華されています。
HOOKの「年を重ねる度〜」に続く「I gotta fresh!」が力強く、長くやってれば何とかとかなりそうだなと励まされます。
何かに挑戦してて、上手くいかなくて、このままこれを続けても意味あるんかなと迷っている人にぜひ聴いてもらいたいですね。(あっ、著者のことでした;)
夏の終わり〜秋の始まりの過ごしやすい空気にハマります。
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14|STUTS / Mirrors feat. SUMIN, Daichi Yamamoto & 鎮座DOPENESS|
2020/09/15 公開
星野源との仕事で一躍有名になり、紅白にも出演したMPCプレーヤー/ビートメーカー・STUTS(スタッツ)。2年ぶりのEPからの1曲は、過ぎゆく日々とともに移ろいゆく自分と、鏡に写った自分の存在の危うさを歌った作品です。
ベースを入れず、黒人音楽の要素を減らしている分、韓国のシンガー・SUMIN の歌声が消え入りそうなほど刹那げ。
客演ラッパーとして、ジャマイカ人の血が入った黒人特有の低音ボイスが魅力的な Daichi Yamamoto と、ミステリアスさを増す奇才・鎮座DOPENESS がフィーチャーされています。
ビートメーカーが作る楽曲は、アーティストの意外な組み合わせが楽しいです。この楽曲も他では考えられない組み合わせで、いい化学反応を起こしています。ぜひ聴いてみてください。
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15|¥ellow Bucks / Yessir|
2020/09/16 公開
ー Yes sir = かしこまりました ー
¥ellow Bucks は、AbemaTV『ラップスタア誕生!』シーズン3のチャンプとなり、その名の通りスター街道を歩く飛騨高山のラッパーです。この曲は、8月19日に発売された1stアルバム『Jungle』からの1曲となっています。
ドラム以外の音はフルートのワンループのみという構成で、トラックだけ聴くと物足りないと感じるかもしれませんが、その隙間を埋めるように¥ellow Bucksの存在感が曲として成立させています。
むしろ声という最高の素材を生かすため、あえて余計な音を削ぎ落としたと言った方が正確かもしれません。
彼の活躍に裏付けされた自信の表れが「Yessir」の一言に集約されています。Red Bull がキュレートするマイクリレーシリーズでも共演していたEric B Jr.の、アクの強いかすれた声にも注目して欲しいですね。1度聴いたら、誰が歌っているかすぐ分かるほど、声のキャラが立っていますので注目して下さい。
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16|W.O / the WOrld (Prod. by ATSUKI)|
2020/09/16 公開
一筋縄でいかない足立区のクルーVANADIAN EFFECTに所属する W.O のソロ作。
突き放したような声で他人を寄せつけないInner Worldを描いており、ダビーなSAXが作る音像は、密室的でありながら空間的拡がりを作りだしています。
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17|8S Protean / New|
2020/09/18 公開
Human BeatBoxer/ラッパーの 8S Protean が、自分の声だけで完成させた楽曲。自分の息がかかった音で構成されているため、ラップとトラックの一体感と、微妙な機微をとらえたグルーヴ感がスゴいです。
ブレイクでは、トラックと共に声を潜ませ、後半に盛り上げるハイハットの多彩さ。アウトロのボイスパーカッションの遊び心。ストリートで培った目の前の客を飽きさせない手法がギュッと詰まっています。
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18|Tohji / Oreo|
2020/09/17 公開
憤りをTRAPビートの乗せてパンキッシュにシャウトし、若者に絶大な人気のあるTohji。直線的だったTohjiのラップスタイルが徐々に変化を見せています。
kZmと共演した「TEENAGE VIBE」ではフニャフニャと揺らぐフローを披露しTohjiってこんなこんな事もできるのか驚きました。そして前MV「プロペラ」という曲では、ビートこそTRAPですが、発声を聴き取れるかどうか分からない程あいまいにし、言葉の輪郭が無くなっていっていました。
そして、この「Oreo」では、ヨーデルの要素を取り入れてて、音程を上下に揺さぶり、ラップも前作同様あいまいなため、言葉もメロディもつかみどころがないという問題作になっています。
もはやHIPHOPですらなくなっています。現時点でカッコいいかどうか判断つかず保留した状態です。
でもよくよく考えるとアートの世界では、アンディーウォーホールに代表されるように、先駆者たちは、物議をかもす作品を発表しますよね。
“それはアートか?アートじゃないのか?と
同様にこの作品も先鋭すぎて自分がついていけてないだけかもしれません。
これは実験作なのか?
Tohjiの気まぐれなのか?
それともイノベーションを起こす時代を先駆けた作品なのか?
ぜひあなたの耳で確認して下さい!
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19|NF Zessho, JIVA Nel MONDO & Mid-S / Mypace (Remix)|
2020/09/19 公開
東京中野で定期的に開催されているヒップホップイベント「Oll Korrect(オールコレクト)」を冠したコンピレーションEPに収録された1曲。
原曲は、2016年に発表された“JIVA Nel MONDO✖️Sweet William”のコラボALBUM『MONDO CREATE』に収録されており、「Mypace」というタイトル通り、自分のペースで自由にやっていくというラッパーJIVA Nel MONDOの活動スタンスを語る曲でした。
しかし、このREMIXでは、同じビートを使用しているにも関わらず、緊張感がまったく異なります。NF Zessho, Mid-Sというラッパー2人が新たに参加しただけでなく、JIVA Nel MONDOもリリックを書き直しています。
3人が共通して語っているのは、ペースを上げていこうということ。
その象徴として、コンピレーションEPを作成し、言い訳できない状況に自らを追い込んで、意思表示しているように感じます。
原曲と音なのに、ラッパーの気持ち一つでベース音が荒ぶって聴こえるから不思議です。
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20|KOWREE / チャンプロード-REVENGE OF UNDERDOG pt.2-feat JAKE (BoNTCH SWiNGA REMIX)|
2020/09/19 公開
伝説の暴走族向け自動車雑誌・オートバイ雑誌『チャンプロード』をテーマに、ヤンキー魂を全開にした作品。(当時はツッパリとも呼ばれていた)
キャロルに代表されるように、若者のやるせない憤りを代弁していたロックが、今やHIPHOPにとって変わった令和時代。
ヤンキーたちは何を訴えようとしていたのか?という本質をとらえ、HIPHOPに再構築したのは、今だヤンキーカルチャーの残るであろう出雲のラッパーKOWREE(コーリー)と、鳥取のラッパーJAKE です。
原曲はchop the onionによるプロデュースで、太いドラムが腰にくる楽曲でした。そしてこのREMIXは京都のビートメーカー BoNTCH SWiNGA が手がけており、録音技術も確立してなかったガレージロックのノイズの多さをそのまま生かし、荒々しさと空虚感をそのまま曲に閉じ込めています。
子供の頃の感じたヤンキーお兄さんの怖さを思い出し、ドキドキします。
BoNTCH SWiNGA からのコメント
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21|Shiina / Compass|
2020/09/22 公開
大阪の23才、ラッパー/メイクアップアーティストでもあるShiina 。
Dubstep系ベースが先導するDeep Houseにのせ、安室奈美恵がストリート育ちだったら?と想像するほどの歌声。独特の符割り、緩急をつけたフローは、リリックを凝視しても見失ってしまいます。
MVのコメント欄にリリックが掲載されていますので、目で追いながら聴いて見てください。その意味がわかるはず。
これが1st shitとは末恐ろしい。セクシーさも武器になり、今後も目が離せそうにありません。早く次が聴きたい。
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22|ケンチンミン / HiDE IN DA HiGH feat.OLIVE OIL|
2020/09/19 公開
メロディを聴かせる作品が多い大分のラッパーケンチンミン から届けられた新曲は、突然第3の目が開いて覚醒したような鬼気迫る仕上がり。
ケンチンミンが以前から愛聴してたというOLIVE OIL の2008年発表の既発曲「Yellow Apple」のビート起用。息つくスキを与えぬほど鳴り止まぬ鍵盤。高所から突き落とされ制御できない感覚に、叫ばずにはいられません。
ダンサー・Lyosuke Saitohのダンスにも注目です。
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23|SIGEMARU / 文学 Remix feat. Meiso & DJ REiZ|
2020/09/23 公開
曽我部恵一が全編ラップをし、ボサノバをサンプリングするなど、生粋のHIPHOPとは違った文脈からのアプローチが新鮮だったアルバム『ヘブン』。
そのアルバム収録曲であった「文学」という曲を、トラックそのままに、MGFのメンバー& SIGEMARU が、バイリンガルラッパーMeiso とDJ REiZを客演に迎え、REMIXとして新たな息吹を吹き込んだ作品。
「己」をテーマに静かでスゴみあるラップするSIGEMARUと、身近な物に真理を見出し、壮大なスケールでラップするMeiso。2人がまくし立てるVerse3は、異なるラップスタイルがぶつかっており、緊張感にゾクゾクします。
さらにDJ REiZによる荒ぶるスクラッチがかぶさり、物語はクライマックスへ。途中から「文学」が「BoomBap」としか聴こえなくなって面白いです。
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24|OZworld / Vivide-feat.重盛さと美|
2020/09/25 公開
88risingに所属するRich Brianが出発点となり、STAY HOME時に名だたるラッパー達がビートジャックした「TOKYO DRIFT FREESTYLE」。
その中でNo.1の再生回数を叩き出したのは、なんと 重盛さと美 でした。(現在1800万回再生!)
そんな彼女をいち早く客演オファーしたのは、沖縄のラッパーOZworld。身のこなしの早さは、「波に乗っちゃってる」と曲に勢いをつけており、彼の好調さと遊び心を感じさせてくれます。
重盛さと美は、やる気があるのか、ないのか分からないほどの脱力系ラップを披露。おバカキャラなんだけど、ビー玉みたいに澄んだ目のキレイさ。つかめそうでつかめない不思議な魅力が、OZworld独自の世界観に違和感なく溶け込んでいます。
「ラップが下手」と言いながら、「もっとちゃんとしたカッコイイ曲 歌いたいよー」と注文をつけているあたりも笑えますね。
事務所に内緒でノリでラップしたら世界的にバズり、本物のラッパーにフィーチャーされる。なんて楽しいHIPHOPゲームでしょう。いちげんさん、もっとHIPHOPにいらっしゃいませ!
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25|LEX / HAPPY (feat. Young Dalu) |
2020/09/25 公開
メロディアスな曲を軸とし、バライティに富んだ曲で構成された3rdアルバム『LiFE』をリリースしたラッパー LEX 。アルバムの1曲目「SEXY」に続いて流れるのがこの「HAPPY」。
ハードな生い立ちから、一度は自殺を図るほどの絶望を味わったからこそ、今は愛のある人になりたいという。
言葉を最小限にとどめ、このワンフレーズに思いが込められていてます。浮遊感あるCloud Rapが、ドリーミーな多幸感を演出しています。
客演は、Normcore Boyzの Young Dalu もう笑顔がズルいほど素敵でそれだけでHAPPY。
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26|Warbo / Far Way (prod.Michita) |
2020/09/24 公開
Pitch Odd Mansionに所属するラッパー Warbo が、2019年12月に発売したアルバム『Pt.White』より、満を持して公開したMV。
という自分への問いかけが印象的。理想の自分を追い求めた結果、今の自分を見失う。
挫折を味わうことで自分らしさを取り戻していく。まだその過程の段階で、だからそこ葛藤や悲哀があり、ほっとけなくなってリピートしてしまう。そんな心に残る曲です。
そして、音楽の可能性を信じているから「もっと遠くに もっと遠くに」と繰り返す。
このMVを通じて、私はこの曲と出会った。そしてこのレビューを通じて、この曲と出会う人がいるはず。
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27|Normcore Boyz / HOW IS THE WEATHER???|
2020/09/26 公開
好きなものを並べ、その瞬間の楽しさを謳歌した曲「Call I」で2018年にデビューした、お台場を拠点に活動する幼馴染5人組のクルー Normcore Boyz 。
あれから2年のキャリアを重ね、少し大人になった5人の姿がここにあります。平坦ではない道のりを、天気の変化になぞらえ描いた曲。
「晴時々雨 」ではなく、「雨時々晴れ MY WAY」のリリックに代表されるように、曇り〜雨〜嵐など悪い天気が多いのが特徴。ギターの切ないアルペジオに乗せた切なげなメロディは、心にポッカリ穴が空いたように感じられます。
それでも、雷のあとは日本晴れで締めくくっており、しっかりと希望があるのが彼ららしい。
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28|Cookie Plant / Bando|
2020/09/27 公開
お経を取り入れたフローが話題となった楽曲「Ninja Mode」が現在48万回再生され、注目を集めるクルー Cookie Plant 。
彼らのコンピレーションALBUM『CookieTape vol.2』に収録されている曲「Bando」。日本〜東南アジア系の軽快な笛の音が特徴で、フローの節回しも、伝統音楽特有の揺らぎを意図的を作っています。
Trapの新しさと、フローの土着的な懐かしさ。これらが合わさる事で、独特なオリジナリティを醸し出しています。
特にVerse4の Maddy Soma は、低音ボイスなのに重くならず、タ・タ・タ・タと軽やかに言葉を走らせていて不思議な感覚になります。
自分達にしか出せないオリジナリティーとは何か?
世界が求めるアジアのHIPHOPとは何か?
それを突きつめ、世界で戦っていこうとする志の高さを感じます。
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29|Red Eye / Nakid Fact|
2020/09/28 公開
「高校生ラップ選手権」のアーティスト紹介VTRで、コンプライアンスのピー音が止まらなかった Red Eye 。
中学生の時からありとあらゆる薬物試し、「ヨレれた」と回顧するだけあって生い立ちに集まる注目。それを見越したリリックに、思わずうなずいてしまう。
オバードーズに陥ってた過去からラッパーとして成功するまでの軌跡を、コインを裏から表へひっくり返すように、ハスキーボイスで力強く歌う。
当事者にしかわからない用語を用いながら小節ごとに確実に踏む韻。MCバトル同様、LIVEで盛り上がるツボを心得おり、サービス精神に溢れています。
MVでは、CHEHONやMC漢、シンゴ西成などの強面な先輩MCをキャスティング。ラップすると思いきや一言も喋らないことで余計に凄味が出ています。
もしかしたら、彼らがラップするバージョンもあるのかもしれません。楽しみにして待ちましょう。
⬇︎オーバードーズになっていた時期を語るインタビュー動画
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30|BFN DWELLS / SMOKE UP|
2020/09/30 公開
AbemaTV『ラップスター誕生』に出演していたTokyo Trill を擁する足立区のクルー Boof Boys のメンバー BFN DWELLS 。
MVにも映っているスナックを居抜きしたスタジオが彼らの拠点で、息抜きしながら夜通し煙を焚いてる姿が想像できます。
ユーモアがじみ出るメロディ。地声と高音を重ねることで、みんなで口ずさむ感じがして楽しそう。ブレイクではさらに声を重ね、LIVEでオーディエンスも合唱して盛り上がれるようデザインされています。
私はこの曲を聴きながら、メロディの良さとサービス精神から裏RIP SLYMEだなと思いました。何かスター性を感じませんか?
⬇︎BFN DWELLSが、ラッパーTattsrowで紹介されており、Boof Boysが結成された経緯や、クルーの様子が伝わる動画。(3分13秒〜)
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31|ジャパニーズマゲニーズ / NINJA SMOKE|
2020/09/30 公開
京都ラッパー 孫GONG と、大阪クルー竜巻一家の首領こと JAGGLAのユニット・ジャパニーズマゲニーズ。
軽快なギターカッティング、愛嬌のあるボイスサンプリング、冷涼感あるシンセ音が、ドライアイスの煙のように2人をコーティング。曲調にダークさがなので聴きやすく、ジャケットの可愛らしさも手伝って、リリックが素直に耳に入ってきます。
緑の煙を通じて、今を楽しめというメッセージが際立って感じられますね。
この曲がクリスマスに流れたら最高だろうな
と想像して思わずニヤリ。
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⬇︎「週刊DiGG」バックナンバーはこちらから
HIPHOPを広めたい一心で執筆しています。とは言え、たまにこれを続ける意味があるのかと虚無感に襲われます。 このまま頑張れ!と思われた方、コーヒー1杯おごる感じでサポートお願いします。自信をつけさせて下さい。