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慢性骨髄性白血病の方の妊娠

慢性骨髄性白血病の治療薬であるチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)は、胎児への悪影響を懸念して、妊婦には基本的に服用させません。また内服中に妊娠しないように説明しています。

どのような影響があるのか、どのようにして妊娠すればよいのかお話します。

慢性骨髄性白血病は若い方でも発症することのある病気であり、これから結婚、妊娠というライフイベントを控えている方にとって、「妊娠は可能なのか」、「どのように病気を持ちながら子どもを授かる」かというのは重大な問題です。

ですので、ナイーブなテーマではありますが、扱ってみようかと思います。

TKIの妊娠への影響

まずどのような影響があるかですが、妊娠への影響に関しては人体実験はできませんので、分かっている範囲のデータをお示ししていきます。

動物実験においては、ラットで胚致死作用及び胎仔毒性、ウサギで胎仔毒性が報告されています。

そのため人においてもできる限り、TKI内服しながらの妊娠は避けるようにするのですが、どうしてもTKI内服中に妊娠してしまう場合というのはあります。

そのようなTKI内服中に妊娠してしまった方たちのデータも収集されており、グリベックとスプリセルでデータをまとめた論文がありますので、そこから紹介します。

グリベック(Blood. 2008; 111:5505-5508))

妊娠とグリベックの内服が被ってしまった125人の方のデータがまとめられています。

半分の63人は問題なく出産できています。

35人(28%)が人工中絶し、そのうちの3人で胎児の異常を認めています。

18人(14.4%)は自然流産となっています。

残りの9人(7.2%)は先天異常を持っての出産となっています。

胎児異常は人工中絶の3人も合わせると、12人の9.6%となります。一般には先天異常を持って生まれる胎児は3%らしく、グリベックの影響で胎児異常が増える可能性が示唆されます。

胎児異常は具体的には、尿道下裂、口蓋裂、多指症、髄膜瘤、頭蓋縫合部早期閉鎖、肥厚性幽門狭窄症などです。

それぞれ1-2例ですから全てがグリベックと因果関係があるかはこの論文からは不明です。

スプリセル(Am J Hematol. 2015; 90: 1111-1115)

こちらの報告はスプリセル内服中の妊娠46人です。

46人の内訳は、15人が正常出産、18人が人工流産、8人が自然流産、5人が異常妊娠です。

これらの内、7人で胎児異常を認めています。(胎児水腫、尿路異常、髄膜瘤)です。

流産となった胎児の血中のスプリセル濃度を調べた例があり、胎児の中にもスプリセルが検知されています。スプリセルは胎盤を介して胎児へ移行することの証明となっています。

胎児水腫は胎児の強い貧血で起こるので、スプリセルにより胎児の血球減少が原因になっているのかもしれません。

46人のうち42人が妊娠した時にはスプリセルを飲んでいる方でした。残り4人は妊娠してからスプリセルが始まったことになります。

32人が妊娠のはじめの3ヶ月に内服を中止しています。

こちらの報告では、男性がスプリセルを飲んでいる時の妊娠についても書かれています。

スプリセルを内服中に妊娠された33人についての妊娠経過のデータが載っており、30人が正常出産で、2人が自然流産、1人合指をもって生まれています。

33人だけですから、一般的な確率と比べて、自然流産や合指が多いかは判断できません。男性の場合は、スプリセルが妊娠にものすごく影響があるわけではなさそうです。

どう妊娠するか

上で書いてきたようにTKI内服しながらの妊娠は胎児へ悪影響となる可能性があります。

内服中はしっかりと避妊する必要があります。

慢性骨髄性白血病の治療中の方が妊娠するためには、TKIを中断する必要があります。

最近、ISが十分低く、MMRを維持できている方の中にはTKIを中断しても、その後進行なく経過する人がいることが分かってきています。

これまでの治療で十分慢性骨髄性白血病が抑えられている方に関しては、TKIを中止してみるという方法があります。

もう一つの方法としては、インターフェロンと呼ばれる薬への治療へ切り替える方法があります。

TKIが登場する以前に使われていた薬です。妊娠への影響はないとされており、妊婦にも安心して使えます。

ただ、TKIよりは効果が劣りますので、妊娠中の短期間のみの使用にした方が良いです。

TKIをやめてから妊活をして、妊娠、出産を終えた後は、インターフェロンからTKIに戻して、人工乳で育てることをお勧めします。

効いているTKIを中断すること、インターフェロンに切り替えることは、慢性骨髄性白血病が進行するリスクを伴います。

妊娠を考えられている方は、妊活開始前に必ず主治医へご相談ください。

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