6月/勉強会
梅雨。雨模様で青空の見えない日が続く。空を灰色の雲が覆う。もしかしたら、このセカイの空はもとからこんな色だったかもしれない。
「というわけで勉強会をするわよ!」
しとしとと降る陰気な雨とは対照的な如月さんの明るい声が第二音楽室に響き渡る。空気が固まる。如月さんはどうやら白波先輩に向かって放った言葉らしいが、当の本人はポカンとした顔をしている。そりゃそうだ。如月さんは、なんの前振りもなく突然立ち上がって叫んだのだから。
沈黙を破るように美鈴先輩が口を開く。
「それって、今度の前期中間テストに向けてってことを言ってるの?」
「そうです!私たち一年生にとって初めてのテストだから先輩方に色々教えてもらいつつ勉強したいんです!」
「そういうことなら、私は大丈夫だけど……」
「私は風弥さんに聞いているんですけど」
この人は白波先輩のことになると周りが見えなくなるのだろうか。
「……俺は良いけど、他の人には迷惑かけるなよ」
「やったぁ!」
如月さんが無邪気な笑顔を見せる。彼女はこの笑顔があるから許されている気がする。私だったら一発退部でしょ。
私がそんなことを考えていると先輩が、
「花崎さんは来る?」
「ちょっ、風弥さん」
「いいじゃん。多い方が勉強捗るよ」
「多い方が捗らなくないですか……?」
とは言いつつ、心の中では神輿を担いで踊っている私がいた。先輩からの誘いである(元々は如月さんの提案だけど)。私は勉強会の日を密かに楽しみにしていた。
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楽しみと待ちわびる日は思ったよりも早く、今日は勉強会当日。
勉強会は美鈴先輩の家で行うというので行ってみると、
「えっ、すごっ」
なんて豪華絢爛なこと。実は美鈴先輩はボンボンであったり。
驚きを隠せないでいると白波先輩と如月さんがやってきた(私だけ2人と逆方向に住んでいるのだ。悔しみ)。
「よっ」
「おはー!」
「おはよう」
互いに挨拶を交わす。
「よし、じゃあ行くか」
「うわっ、なにこの豪邸?すごっ!」
如月さんも驚愕のご様子。
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中に入ると大理石の階段がお出迎えする。アニメか漫画でしか見たことがない景色だ。脇には色とりどりの花瓶と知らぬ画家の絵が飾ってある。あ、あの壺高いんだろうなぁ。割ったりなんてしたらいけない。
間も無くこの家の人が顔を見せる。美鈴先輩だ。
「みんな、いらっしゃーい」
「こんにちは!この家すごいですねっ!」
如月さんは先輩の家に来てから落ち着きがない。あれやこれやと家の至るものを見て回っている。
「ありがとう。といっても全てお父様の資産だけどね。部屋はこっちよ」
といって美鈴先輩が案内したのは家を渡り廊下から出た、離れの部屋だった。
「!?」
これには白波先輩も驚いたようで、一同驚愕の嵐だ。
「美鈴の部屋って家の2階じゃなかったっけ」
「ああ、あっちもありますけど離れの部屋もお父様がくれたんです」
お父様、規格外。
何はともあれ私達は勉強会を開始した。
「そう、ここはマイナスで一度括って……」
「ああ、なるほど!」
白波先輩は数学が得意とのことで私はマンツーマンで先輩に教えてもらっている。
「……」ペラ
一方、私の隣にいる美鈴先輩は一人で古文読解に取り組んでいる。先輩は文系で、国語とか社会系が得意らしい。
美鈴先輩の集中する姿は素敵だ。いつか私もあんな先輩になれたら……と思う。黙々と解いているので、隣からは時折紙をめくる音だけが聞こえる。
そして、私の斜め向かいに座る如月さん。
「うぅ……」
どうやら難問のようで頭を抱えているが、理科の問題なので私や美鈴先輩は助け舟が出せそうにない。
かといって、白波先輩も今は私に付きっきりなのと、いろいろ自分勝手なので放置している面もあると思う。先輩も時に小悪魔だ。
如月さんがちらちらとこちらを見てくる。声をかけたほうがいいだろうか。でも、隣の美鈴先輩は集中してるし煩くしたくないなぁ。と私が思っていると、如月さんが突然立ち上がって、
「ちょっと休憩してくる!」
そう言って部屋を出て行ってしまった。顔には血相が無かったように感じた。
「白波先輩、ちょっと如月さんにきつく当たりすぎじゃないですか?」
「うーん、ちょっとやりすぎたかもな。俺、話に行ってくr……」
「私が行きます!」
「……同級生の方が話しやすいよな。任せた」
私は居てもたってもいられず、如月さんの後を追いかけた。心が騒めいたのだ。
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