#2-2 大人になれなかった俺へ②
時は遡り、約一年前。上暦104年8月某日、例年に比べ気温の上がった夏の日だった。セミは抜け殻だけを残し、何処かへ行ってしまった。太陽は俺を真上から照らし、湖畔沿いのキャンプ前で立ち尽くし警備する俺をギラギラと焼いた。肌は黒くなり、服の中の白肌とコントラストを作ってるだろうと想像していた。
「なんでこんなことやってんだ、オレ……」
侵攻軍の襲撃に備え奴らの方角を向いて監視しているのだが、これが太陽と対面する形で辛い。
そもそも俺はいち高校生だ。高一で彼女ができ、これからだったって時に戦争に駆り出された。もちろん彼女とは引き離された。世には遠距離恋愛って言葉があるが、高校生で、しかも理由が戦争となると堪えるものがある。(というかありえないだろ。)正直目の前の戦況で、彼女のことなど考えていられない。
幸い今の時期はあまり激しくないのでこうして考え事もできるが、それでもあまり連絡は取れていない。戦争と彼女と、って頭が混乱するのだ。思春期というのもあるのかもしれない。そういえばこの前、突然電話がかかってきたかと思えば「最近流行りのクレープ屋が…」って至極今の俺には関係のない話をされてカッとなって言い合いをしたんだっけな。あの後から彼女の連絡は全く来ない。状況が状況とはいえ、悪い事しちゃったな……。
「お疲れ様。おっ、どうしたその顔は。暑さにやられたかって、それだけじゃなさそうだな」
俺に声を掛ける。ヤマザキ隊長だ。とはいえ、この時まで俺は隊長とまともに話したことがなかった。なんせ、俺と隊長はもともと違う団だったからな。この間、俺らの元隊長が大怪我をして、昨日代わりに来たのがヤマザキ隊長だ。
「いえ、大丈夫です。問題ありません」
「いや、ダメだろう。こんな状態じゃここは守れないぞ」
隊長は何を言っているのか。ただ考え事をしているだけじゃないか。そんなに俺の顔が間抜けだったか?
そう考えていた昔の俺を殴りたい。自己管理くらい自分でできなきゃどうしようもないだろう。
バタン!
威勢の良い音と共に、俺は膝から崩れ落ちた。
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