しがない演劇人の備忘録。

*この記事はコロナに関する記述を含みます*

私は小劇場と呼ばれる、小さな芝居小屋の端っこで、役者や脚本家やらをやっていたしがない演劇人であるが、2020年2月の半ばに、新宿の小劇場で自分の脚本、演出にて主宰の公演を行った。

公演が終わってから3日後、安倍総理の会見が行われ、それ以降ジェットコースター級の勢いで、商業小劇場問わず演劇の公演は軒並み中止となり、公演が終わってから、一ヶ月過ぎた頃には、私が公演を終えた頃と、まるで世界は違っていた。

話が少しそれるが、私は「演劇ユニットSPOON」というユニットを立ち上げ、そこの主宰として計3回の公演を行ってきた。
劇団のような形はとらず、私が上演したい作品があったり何かしたいことがある時に、私の考えに賛同してくれる人を集めて、不定期に公演を行うという形態だ。
今年の2月の公演も、そのように始まった。私は自分のしてきた演劇活動の一つの区切りとして自分の脚本、演出でどうしても舞台がしたくて、この公演を企画したのだった。

結果として、役者、スタッフのみんな、そしてお客様は私が思っていた以上に作品に向き合ってくださり、私は演劇が、自分のライフワークだと確信した。どんな状況であっても、自分の周りの環境がどんなに変わっても、私がどういう立場になろうとも、ずっと演劇と関わり、創造していく。演劇をやめる、という選択肢は取らない。

もちろん厳しい意見も紆余曲折もあったが、それは私の実力不足だなと痛感したし、これからその課題をクリアにしていく為にもこれから色んなことに挑戦していきたいーーーと思っていた、矢先であった。

いやもう、本当に月並みな言葉で申し訳ないが、すごく悲しい。演劇はやめない、もちろんやめない。けれど、私の好きなものたちは、なんだかすごく遠くに行ってしまったように感じる。二ヶ月前には、すぐそばにあったのに。

劇場の独特のしんとした匂い、役者たちの声、客席から見る誰もいない舞台
家で体感出来ない全身で浴びる音、シーンによって彩られる明かり、非現実も現実にしてしまう舞台セット

その瞬間は演劇をするためだけの、そしてそれを見る人のためだけの空間。

リモート演劇やZOOM演劇が今は当たり前になりつつあって、それ自体は全然賛成だ。出来ないことを嘆くより、やれることをするしかない。ネットなら、劇場に足を運ぶことの出来なかった人たちの入り口としては、もしかしたら良いかもしれない。

間口が広がるのはすごく良いことだと個人的には思う。今までオンラインでのコンテンツを活用しなさすぎだったのだ。映画も、家でテレビやサブスクのサービスで見てから、映画館に行きたいと思う人もいるだろう。DVDもさくっと借りれるし、映画やドラマは生活のすぐそばにある。

演劇はその点では劇場に行かないとほぼ見られない。(WOWOWはステージチャンネルがあるけれども)そうなると、やはり少し敷居が高い。とにかく劇場に行ってみないと親しめない、というのは、やはり観劇人口が少ないことの要因の一つだった、と思う。

私が自分の団体に掲げていたコンセプト

《 食事をとるように、あなたの生活に演劇を 》

は、もっと様々な演劇があって、人々にとって演劇が近しいものであって欲しいと思い、その思いから生まれたものだ。なので、生活に密着しているネットで作品がたくさん生まれる今は、それに近いのだろうか、などと考えたりもした、が。

でも・・・でもやっぱりそれは、劇場で安心して舞台が見られるという土台ありきなんだな、と思ったりも。舞台の空気を家で感じてもらうには、舞台の存在は不可欠なのだ。あと観客との距離より、役者側が離れていてしか触れられない、ということが大きい。私も自宅で、ホームシアターを作ったり、人と接触せずに面白い作品を作れぬものかとうんうん唸っているけれど、考えれば考えるほど、誰か一緒に作ってくれる人の存在が重要なのだなと思い知らされるのだった。

とはいえ、私は予定していた公演をとりあえずは終わらせ、様々な人に見てもらえた。それだけで、幸運なのだろうなと思う。
公演中止になってしまったカンパニーの皆様の経済的損失、そして心労、心痛はいかばかりか・・・計り知れない。そしてそういったカンパニーは増え続けている。関係のない、いち演劇が好きなファンとしてだけでも、こんない悲しい。

でも、生活の基盤を立て直すとなった時に、演劇が必要になる時が必ず来る。今も、必要としている人がいるかもしれない。それを糧にするしかないのだな。

もう今は、正直どの業界も産業も大変だ。大変なんてちんけな言葉で片付けられない。お店が回らなくなって自死してしまった飲食店の店主のニュース、台風の影響で大変な損害を受け、それでも諦めずリノベーションして再度経営を始めた矢先だった旅館、どれも見るたびに心が痛い。当事者でないのに、その過程を想像するだに、痛い。

どの業界も、盛り返して欲しいし、それぞれに必要としている人がいる。
それは、飲食も観光も演劇も、他のどの産業もすべて。

だから、演劇にも助成をお願いしたい、という趣旨のことを訴える必要もあるのだが、訴え方は大切だとも感じている。世の中が不安定すぎるからだ。
どう気をつけても、変な受け取り方をする人もいるけれど、みんなが綱渡りみたいな精神状態でいる今、伝え方は考えなければ。

苦しい時に、演劇があってよかった、と思われるように。
それが後々に、きっと花開く。

それを信じて。

また必ず、劇場で。


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