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Vir Biotechnologyと新型コロナ治療薬開発

感染症治療薬を開発する米Vir Biotechnologyは、サンフランシスコに本拠地を置き、2016年に創設されました。ソフトバンクGのビジョンファンドや、ビル&メリンダ・ゲイツ財団、シンガポールのテマセク・ホールディングスなどが出資しています。2019年10月、ナスダック市場にIPOし、約154億円を調達しました。目論見書によると、B型肝炎治療薬は第2相試験、インフルエンザ治療薬は第1相試験の段階ということですが、最近の注目は新型コロナウイルス治療薬・ワクチンの開発に参入していることで、その発表後、株価は急騰しています。ソフトバンク・ビジョン・ファンド(SVF)は、バイオテクノロジー分野に関しては、Guardant Healthや10X Genomicsなど、より良い成績を収めています。

CEOはGeorge Scangos Ph.D.

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CEOは、米製薬企業Biogenの元CEO、George Scangos Ph.D.が務めています。コーネル大学で生物学の学士、マサチューセッツ大学で微生物学の博士号を取得。1987年までは、ジョンズホプキンス大学の生物学教授、それ以降1996年までバイエル・バイオテクノロジーCEO、1996-2010は創薬開発企業ExelixisのCEO、2010-2016はBiogenのCEOを務めました。

Vir Biotechnologyの株価

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2020年3月に新型コロナの治療薬・ワクチン開発のニュースで60ドル付近まで急騰しましたが、現在は30ドル付近で落ち着いています。

Vir Biotechnologyの強み:モノクローナル抗体プラットフォーム技術

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Virは、感染症に罹らなかった人、または感染症から回復した人に自然に起こる免疫応答を利用するための方法を確立しました。この方法は、患者の血漿中の細胞や記憶B細胞から分離された、病原体への広範な中和抗体を使用します。

これまで、インフルエンザウイルスやエボラウイルスでこの方法の有効性が発表されてきました。

つまり、Virは、ウイルスから回復した人の血漿中の細胞、記憶B細胞を網羅的に解析し、ウイルスに効果のある希少な抗体を同定し、そして、発見した広範な中和抗体を工学的に構築し、治療の可能性を高めています。

この技術に世界中の製薬企業も注目しています。2020年4月に、英グラクソ・スミスクライン(GSK)は、Virに2億5000万ドルを出資し、新型コロナウイルス肺炎を治療・予防する複数の医薬品とワクチンを共同開発すると発表しました。今回の提携により、両社はさまざまなアプローチで医薬品を開発します。Virは、SARS完治患者から抗体(SARS-CoV-mAb)を確保して治療薬を開発しており、候補のモノクローナル抗体VIR-7831、VIR-7832は非常に有望とされています。これらは、FDAから、新型コロナ治療候補物質のファーストトラックの承認を受けており、数ヶ月以内にPhase2の臨床研究を実施する予定です。また、新型コロナウイルスが細胞に感染する際に使用するタンパク質を特定するため、VirのCRISPRスクリーニング技術を活用する見込みです。他にもGSKのワクチン技術を組み合わせたり、コロナウイルス全般へのワクチン開発も視野に入れているようです。

さらにVirは、2020年4月10日、韓国のバイオ医薬品大手Samsung Biologicsと、前述のモノクローナル抗体を受託生産する契約を約400億円で結びました。2020年2月には、中国のWuXi Biologicsと前述のモノクローナル抗体の臨床研究のための開発と製造についての契約を締結しています。医薬品として承認を受けた場合、WuXi Biologicsは中国での、Virは中国を除く世界での商業化の権利を持ちます。

モノクローナル抗体とは?

モノクローナル抗体について分かりやすく解説すると、モノクローナル抗体は、B細胞が産生します。ウイルスに付いている特定のタンパク質を目印として、それにくっつきます。モノクローナル抗体がくっついたウイルスは免疫細胞に食べられてしまうため、それ以上増殖が出来なくなります

siRNAを用いた新型コロナ治療薬開発

また、RNAiを利用した核酸医薬品開発企業の米Alnylamとは、2020年3月4日、両社の既存の提携関係を拡大し、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の原因ウイルスであるSARS-CoV-2を標的とする RNAi治療薬の開発と実用化も共同で行うと発表しました。具体的には、Alnylamの持つsiRNAの肺への送達技術とVirの持つ感染症の専門知識と能力を合わせ、治療薬開発を前進させます。Alnylamはこれまで、現存するSARS-CoVおよびSARS-CoV-2のすべてのゲノムを標的とする350以上のsiRNAをデザイン・合成してきました。これらの中で有力なsiRNA候補薬についてVir社が抗ウイルス作用をin vitroおよびin vivoで評価し、開発候補薬を選定するといいます。

siRNAとは?

siRNAについて分かりやすく説明すると、siRNAはsmall interfering RNAの略です。人の体は、諸説ありますが、60兆個の細胞でできています。ウイルスはそれらの細胞の一部に感染し、その細胞の機能を利用し、自らを増殖させます。ウイルスが増殖するためには、タンパク質を作ったり、自分自身を複製しないといけません。タンパク質を作るために、細胞はDNA→mRNA→タンパク合成という道筋を辿りますが、この途中のmRNAを標的に作用するのがsiRNAです。ウイルス増殖に関係するmRNAを特異的に破壊することで、ウイルスが増殖をすることを防ぐわけです。

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