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産みの苦しみを味わって

産みの苦しみ。妻の出産を間近で見た僕は、妻の頑張りに本当に頭が下がる思いでいっぱいです。つわりから出産、その後に至るまで思い返すと、本当に尊敬します。

実は、楽曲を世の中に出すことも、これと似た大変な苦労があるのです。

今回は、楽曲にまつわる「産みの苦しみ」について述べていきます(紛らわしくてすいません)。

1.作曲の神は本当にいるか?

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よくミュージシャンの中で「音楽の神が降りてきて曲が書けた」みたいなことを言う人がいます。

そうしたことを公言して、「そうなんだねえ」と僕が納得したのは、マイケル・ジャクソンくらいです。

確かに、僕の場合はドライブをしているときに、メロディラインが思いつくことがありますが、実はこれは神が降りてきたからではありません(笑)。

作曲しようと思い続け、あれこれ自分の好きなメロディを何度も口ずさみながら出てきたものです。

つまり、作曲しようという明確で意図的な作業の中で生まれたものです。

僕は、凡人なので、マイケルのように天から降りてきたという経験が全くありません。でも、いつかはマイケルのようになれたらいいなあという願望を生意気ながらもってはいますが(笑)。

作曲の神とご対面したことはないので、自分でひねり出すしかないのが今の僕の現状です。

2.メロディーは寝かせて待て

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「おっ!これは良いメロディだな!」と思い、iPhoneに録音。

じっくりとギター伴奏に合わせて歌ってみます。

「なんだ、やっぱりいいじゃん!」

そう思って、安らかに睡眠。翌日、作曲活動に本格的に取り組みます。

「あれ・・・?」

不思議なことに、昨日はあれほどよかったメロディラインが、なぜかあまりよく聞こえてこない。

何度も繰り返すうちに、どんどんドツボにハマってくるように、気に入らない(笑)。

「こりゃ駄目だな・・・。」

このように、一時いい感触だったメロディーは、時間を置くと、生ものを扱うかのように新鮮さが失われ、「気に入らない」となるんです。

これは、あくまで僕の経験上の話ですが、こうしたことが結構起こるんです。そうなると、一旦積み上げたピラミッドを壊すということになります。

そのメロディーラインにこだわって作ろうとしても、どこかで「リセットしたい」となるのです。

一つの楽曲を生み出すために、僕は何度もこの過程を経験します。

ため息が出ますよね。

逆に、数日たっても気に入っているメロディラインが、自分にとっての最高の楽曲になり得るものだと分かっています。

だから、一旦できたメロディラインや楽曲は、即決せず、少し寝かせることにしています。

3.バンドで再現する作業から本格的に苦しくなる

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楽曲をある程度形にしたら、次はそのイメージを再現する練習に入ります。

昔は、こだわりなく、「まあ、こんな感じでいいんじゃね?」ぐらいでバンバン進めていました。それはそれで効率がよく、ライブもすぐにできてよかったのですが、聴くとやっぱりクオリティに問題が見つかります。

現在は、一曲一曲を再現するまで、かなりの時間を要すようになりました。

やはり、自分のこだわりもそうなんですが、お客さんのことを思うと、自分たちの納得のいかない中途半端な作品を提供することはできないという思いが先にあるからです。

そうした思いで楽曲を練り上げていくのですが、楽曲のテコ入れには、たくさんの視点からアプローチをしていかなければなりません。

例えばイントロを考えるとします。

・各パートごとの絡み方をどうするか(一斉に入るか、少しずつ音を足していくか、静かに入るか、強いアタックではいるか・・・など)

・曲全体とのつながりはどうか。

・Aメロへのつながりはどうか。

・鳥肌ものか。

・雰囲気は作れているか。

など、後半はかなり抽象的な内容だけど、ロジックと感覚的なものを混ぜ合わせて時間をかけて作ります。

イントロだけでこの調子なので、完成までには相当な時間とアイディアを投入するわけです。

曲以上に歌詞は時間がかかることもあります。

納得がいくまで繰り返し、時には苦しくなってしまうこともありますが、出来上がりをイメージすると、何度でもトライしたくなります。

4.体験は他のアーティストへのリスペクトに繋がる

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こうして、曲作りの大変さを味わうと、世の中で名曲を生み出しているアーティストには、本当に尊敬の念を抱きます。

有名無名関係なく、心にグッとくる曲には、作り手の努力が感じられるのです。

バンドスコアを見ながら、様々なアーティストの曲を練習した時期がありましたが、その当時はそこまで考えていませんでした。

しかし、同じ土俵に立つために、四苦八苦して曲を作り続けてきた体験を何度も何度も味わうことによって、その過程を経て完成した曲やアーティストの努力に対してリスペクトの念は尽きません。

「どんな思いで作詞・作曲したのだろうか?」

「ここに行き着くまでどれだけのアイディアをスクラップビルドしたのだろうか?」

「不安要素をどうやって解消したのだろうか?」

など。

5.最近のカバー動画飽和状態への疑問

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SNSなどでカバー動画を挙げている人たちが星の数ほどいるけど、「原曲へのリスペクトはあるのだろうか」という疑問をどこか感じさせる場合があります。

もちろん、そのアーティストが好きで好きでたまらないというので動画を挙げている人もいると思いますので一概には言えないのですが、

コメント欄に

「原曲よりもいい!」

何て言葉に出会うと、「本当にそうか?」と疑問に思います。

動画にしてネットにあげても良いとは思いますが、目的が自分のフォロワーを増やすため、自分の技術の高さを誇示したいために挙げているのは、なんか原曲へのリスペクトがあまり感じられません。

確かに、自分の名前を売るための戦略として、誰もが知っている曲をアップし、顧客につなげたいというやり方は理にかなっているとは思います。

しかし、表面的な部分は再現できても、原曲のオリジナリティや作り手のパーソナリティの表出はそう簡単に真似することは難しいと思っています。

そのあたりを自覚するかしないかってとても重要だと思うんですよね。そうでないと、「原曲よりもいいものにしてやろう」みたいな横柄な感じが出ちゃう。

そもそも、その原曲を生み出すためにどれほどの思いとアイディアの時間を注ぎ込んだのだろうかと思うんです。

だから、あたかも自分の曲のように動画にアップするのは、僕には簡単にはできないだろうと思います。

もし、僕がアップするとすれば、それはその曲を作り上げたアーティストに対するリスペクトから発出するものであり、大量生産消費されていく音楽において「是非これからの次世代の人にも知ってほしい」という願いの元で行うと思います。

例えば、僕は、hideの『ピンクスパイダー』という曲が大のお気に入りです。曲の構成や雰囲気、歌詞、歌唱の仕方まで。

自分の周りに張り巡らされた糸。それが形作る世界。その世界がすべてだと思いながら、生きてきたけれど、実は自分の知らない大きな世界があって、憧れはあるけれど、どうにもできない現実が突きつけられている。

hideは、この歌詞のモデルを「自分だ」と言っています。

現実の世界でもがいている自分と理想の狭間で葛藤する自分。

実は、激しい曲調の中に隠れている「憤り」「挑戦」「挫折」「悲しみ」「後悔」などがちりばめられていると僕は思っています。

だから、この曲をカバーし、ネットに発信する場合は、こうした歌詞の世界を理解した上で、hideの名曲を広めたいと思う気持ちで、ネットやライブで披露したいと思うんです。

しかし、あるアーティストが行ったカバーは、その雰囲気をガラッと変えてしまって、別物になっていました。本当に悲しくなりました。

hideが求心力あるアーティストであることを、ビジネスに利用しようとした意図が感じられました。

「作り手へのリスペクトはどこにあるのか?」

「原曲へのリスペクトはどこにあるのか?」

「ファンへのリスペクトはどこにあるのか?」

ただただ疑問でした。

これって、まさにアニメをすぐに実写化しようとする流れと似ている気がします。

6.産みの苦しみは必ず次のステップに生かされる

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一つの曲を生み出す度に苦労した経験は、必ず次の曲を生み出すために、よい経験値となって生かされます。

経験は積み重なって、失敗した過程から、その改善に向けたアイディアを考えることができるようになります。

そして、苦しいけれどもそれを乗り越えた喜びの味を思い出します。やっぱり、苦しさと喜びは紙一重なのだと。

苦しさから逃げて、楽な方に行きたくなるのが人間です。

でも、そこをちょっとふんばって、少し胃の痛い思いをして、何かを創り上げたとき、喜びと同時に確かな経験として残っていきます。

僕は、これまで、バンドを始めてから68曲を思案してきました。決して自慢できるほどの楽曲数ではありませんが、ボツになった曲も、ライブで長年やってきた曲も、すべてが試行錯誤のアイディアを積み重ねてきた経験となっています。

これからも作り手として、産みの苦しみを味わうことでしょうが、過去の作品を乗り越える喜びを味わえると分かっているので、続けていこうと決心しています。

下の動画は、以前のバンド「dredkingz」 のMVです。ライブでは、必ずこの曲を演奏します。お客さんとのコール&レスポンスもあり、一緒に盛り上がれる自信作です。この曲は、2011年に誕生した曲です。ずっと僕にとって大切な楽曲になっています。この曲を手がけるときも、随分と悩み、試行錯誤の時間を投入しました。でも、その分、心に突き刺さる楽曲になりました。是非、僕らの熱い思いを感じ取っていただけたらと思います。尚、この曲は、現バンド「Ground Level」でも演奏する予定です。













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