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15年くらい前に書いた(語源的な意味での)やおい文章を見つけたので苦いスマイルを浮かべながら載せていくスタイル

15年くらい前にほぼ誰にも見せないし見られない、という隠しサイト的な立ち位置で、世界三大他人にとっては興味ない話らしい夢日記もしくは夢を基にした短文などを書いていたことがあって、なんとサイトがまだ残っていたので文章をピックアップして載せていこうと思いました。

これはいわゆる山なし落ちなし意味なし文章であるため、語源的な文脈でのやおい文章だと言えますが、基となった夢は高校の頃の友人(男性)になぜか口づけされる、という内容だったので、実際やおい文章と呼べるかもしれません。そう考えると夢日記という呼称にもボーイズビーならぬボーイズでラブな意味合いが付与されてくるかのようです。なお、描写は割と夢で見た光景に忠実だった筈です。

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砂利砂利した、幅の手頃な道の脇には背の丈の短い草草がぶかっこうに沢山生えていて、空は曇天、白と黒がお互いの存在を主張しあった結果できた色の雲が、さして流れることもなく一面を覆い尽くし、留まっている。

すらりとした長い足のKが、白と黒がこちらはいくぶん控えめに言い争った後にできた色を思わせる顔つきで、道の真ん中に所在なげに佇んでいた。低く覆い被さるように私たちを閉じこめる空から雨はついに降ることはなかったが、Kの眼からは今にも雨が降りそうだった。

Kは学生時代の友人で、会うのはかれこれ五年ぶりになるだろうか。相変わらず、品の良さそうな恰好―――この時は淡いクリーム色をしたスキッパーのニットに、黒いマフラー、茶と黒のチェックが入ったツイードのズボン、手触りの良さそうな茶色のスエード靴だった―――をしていて、それらはKのほそやかな体躯を包んでいた。またKは、元よりなかなか端正な顔立ちであったが、五年の間に、さらに整った、綺麗と言っても申し分ない顔つきになっていた。

少し目尻の下がった、にごりのない深く黒々とした二つのはっきりした瞳、細く尖った顎、その肌はそしてさらに白く、わずかに荒れているが形の良い唇と小ぶりだが通りの良さそうな鼻が彼の顔を構成していた。

彼はしかし、その調度品めいた整った顔を、ひび割れ打ち捨てられるように崩しながら私の名を呼んで話しかけてきた。

「俺さあ」、Kは言う。
「俺さあ」、となおも続ける。
他に何も言わなかった。

俺さあ、と続けながら、Kが私にもたれかかってきた。何かひどく、彼にとって哀しいことがあったんだな、と直感した。そのうちKは、私の背中と腰のあいだ、腕、髪の毛などをさわさわと緩やかに触り、時に強く手を握ってくるようになった。そして私の首筋に、Kの唇が何度となく触れるようになった。

誰か私ではない、他の誰かを思い描いているのだろう。だが、この時は、彼にそうされることに不思議とあまり嫌悪感はなかった。首筋に幾度も口づけられると、まるで自分がKの想い人になったかのような心持ちになり、溶け出すようないとしさが胸の辺りから喉の奥くらいまでに満ちてきた。彼は次第に何の言葉も発さなくなり、ただ、私にしがみついて、唇を首筋に押しつけてふるえている。

顎の辺りにはKの流す涙の感触があった。

だけれど、私は、もちろんその誰かであるはずがなかった。だから何もせず、道の向う、もうずっと向うに見える送電線のたわみと、茶黒ずんだ背の高い電信柱と、草草の一面を見つめていた。彼の気が済むまで、ここに私は立っていようと思った。鈍い空に立ちこめる雲は、やはりあまり動かない。

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