『THE FEARLESS FLYERS 解体新書』(1)どこよりも詳しいフィアレス・フライヤーズーー僕らの3度目のライブ会場は、マディソン・スクエア・ガーデンだった
KINZTOのDr.ファンクシッテルーだ。今回は「どこよりも詳しいVulfpeckまとめ」マガジンの、30回目の連載になる。では、講義をはじめよう。
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今回は――フィアレス・フライヤーズ(THE FEARLESS FLYERS)について、どこよりも詳しく解説していく。
全2回の更新、今回はバンドのメンバーやサウンド、ライブについて。次回は全アルバムや、動画の解説を行う。
フィアレス・フライヤーズとは?
フィアレス・フライヤーズ(THE FEARLESS FLYERS)とは、4人編成のファンクバンドである。
「ミニマル・ファンク」と「バリトンギター・ファンク」をサウンドの核に持り、後述するがどちらも非常に特徴的なものとなっている。
Jack Stratton率いるVulfpeck(ヴォルフペック)の、サイド・プロジェクトとして2018年に結成された。3枚のスタジオアルバム、そして1枚のライブアルバムをリリース。
過去に行われたライブは3回だけ。
バンド名は「勇敢な飛行士達」という意味。その名前をコンセプトにして、パイロットスーツを着て演奏したり、PVに戦闘機が登場したり、ライブでは空軍の軍歌を流して登場したりしている。
演奏メンバーはCory Wong (gt)、Joe Dart (b)、Mark Lettieri (gt)、Nate Smith (dr)の4名。
CoryとJoeはVulfpeckの参加メンバーでもあり、後述するが方向性もVulfpeckを受け継ぐものであるため、Vulfpeckファンにとっては自然と聴ける内容になっている。
メンバー紹介
まず、メンバー紹介からスタートしていきたい。フィアレス・フライヤーズは、世界のトップ・プレイヤーが集結した奇跡のようなバンドである。
・Cory Wong (gt) コリー・ウォン、正しくはコーリー・ウォン
Vulfpeckに参加するギタリスト。現代最高のファンク・ギタリストの一人。2021年グラミー賞ノミネート。
ミネソタ州ミネアポリス出身。プリンスのバックバンド「NPG」の創設メンバーに認められたことで、ファンク・ギタリストとしてのキャリアをスタートさせる。正確無比な16ビートのカッティングが得意。
フェンダー社から、自身が愛用するストラトキャスターをモデルとしたシグネチャーギターをリリースした。
フィアレス・フライヤーズにおいては、ライブ中のメインMCも務める。
・Joe Dart (b) ジョー・ダート
Vulfpeckのベーシスト。現代最高のファンク・ベーシストの一人。
ミシガン州ハーバースプリング出身。アーニーボール社から自身のシグネチャーベースを2本リリース。21世紀にファンク・ベースの概念を再構築した、不世出のプレイヤー。
Coryが80年代的なイーブンなグルーヴを得意とするのに対し、Joeは70年代的な粘り気のある、ハネたグルーヴを得意とする。わずかに特徴が異なるこの二人が一緒に同じ曲を演奏するとき、異次元のグルーヴが誕生するのだ。
・Mark Lettieri (gt) マーク・レッティエリ
Snarky Puppy(スナーキー・パピー)のギタリスト。Snarky Puppyにて、グラミー賞を4回受賞。PRSギター社から自身のシグネチャーギターを2021年にリリース。
バリトンギターという、ギターとベースの間の音域を持つ特殊なギターを使い、新しいファンク・サウンドを生み出している。それはこのフィアレス・フライヤーズにおいても、非常に重要な役割を果たした。
カルフォルニア州出身、現在はテキサス州ダラスを活動拠点にしている。ジャズ、ファンク、そしてロックに対して深い愛情があり、それらを高度に融合させたプレイを得意とする。エリカ・バドゥのツアーなどにも帯同。
MarkはSnarky Puppyの、有名なこれらの演奏にも参加していた。👇
Nate Smith (dr) ネイト・スミス
今、世界的にもっとも注目されるドラマーの一人。ジャズ出身だが、さまざまなジャンルのトッププレイヤーと共演。そのテクニックはファンクにおいても、驚異的な実力を発揮している。
フィアレス・フライヤーズにおいては、メンバー紹介で「エースの中のエース(Ace of Aces)」という紹介をされている。これはNate Smithの卓越したテクニックを賞賛した呼び名であると考えられる。
ヴァージニア州チェサピーク出身。2003年にDave Holland(b)のバンドに参加したことで一躍有名となり、Daveの作品と、自身のソロアルバムで、計3度のグラミー賞ノミネートを果たしている。
作曲やプロデュース活動も行い、Micheal Jacksonのアルバム、「Invincible(2001)」では「Heaven Can Wait」をMicheal、Teddy Rileyらと一緒に作曲・プロデュースした。 イントロのシンセはNate Smithが作った部分であり、本人のツイートでそれが明かされている。
・Jack Stratton (producer) ジャック・ストラットン
そして5人目のメンバー。Vulfpeckのリーダー、Jack Strattonである。
フィアレス・フライヤーズは誰のバンドか?と聞かれたら、私は即答したい。これはJackのバンドである。
彼は演奏には参加していないが、実際にバンドを牽引しているのはJackであり、リリースにおいても全てJackが業務を担当している。
フィアレス・フライヤーズは、まさに彼の作曲スタイル(ミニマル・ファンク)の集大成であり――Vulfpeckの別の世界線の姿だったかもしれないのだ。
では、次にそこを解説していこう。
フィアレス・サウンド解説:①究極のミニマル・ファンク
フィアレス・フライヤーズのファンク・サウンドは、大きく分けて2つの要素から成り立っている。
①究極のミニマル・ファンク
②バリトンギター・ファンク
まず、①究極のミニマル・ファンクについて。
フィアレス・フライヤーズのファンクは、短い。とにかくシンプル、徹底して「引き算」の思考で作られている。
まず、このバンドの方向性が完璧に表現された「Ace of Aces」を観ていただきたい。
動画の時間わずか2分17秒。
10小節の繰り返し、コード進行の展開なし。初めて聴くと、全てがテーマのようなソロのようなソロでないような、掴みどころのない演奏に聴こえるかもしれない。しかし、2度3度聴くと、これが「とにかくグルーヴだけを徹底的に詰め込んだプレイ」だということが分かるはずだ。
グルーヴを最優先にして、他の要素を極端に薄める。テーマのようなそうでないような、ソロのようなそうでないようなフレーズを弾き、どの瞬間を切り取ってもグルーヴのみが溢れかえっている――そんなファンクである。
(正確には、この曲はリズム・ギターによるテーマA→同じくテーマB→リズム・ギターソロ→ベース・ソロという順番で演奏されている)
この「グルーヴ以外を引き算する」ファンクは、「ミニマル・ファンク」と呼ばれ、もともとVulfpeckでJack Strattonが追求してきたスタイルだった。
「ソロを引き算」したり、「テーマを引き算」したり、とにかくファンクからグルーヴのみを残し、「最小限(ミニマル)なファンク」を演奏するスタイル。
JackはVulfpeckの結成された2011年から一貫して、自分の作る曲ではこのスタイルを追求。それは世界的に支持され、多くのファンを生み出していた。
しかし、Vulfpeckは最初はミニマル・ファンクバンドだったが――私は途中で、その姿を変えた、と今では思っている。現在、Vulfpeckはミニマル・ファンクバンドでもある、と考えている。
では何バンドなのか?
Vulfpeckは多くのジャンルをボーダーレスに演奏するバンドになった。引き算の思考が働いたミニマル・ファンクだけでなく、一般的なソウル・ファンク、さらにファンキーなポップス。
正直、Vulfpeckのアルバムジャンルをひとことで表すことはかなり難しくなってきた。昨今は「ファンクバンドのVulfpeck」という表現が増えてきたが、私はこれはより正確にバンドの姿を捉えていると考えている。
「Vulfpeckはミニマル・ファンクバンド」と言い切ってしまうと、それ以外の曲――「引き算の思考」で作曲されていない曲について、説明が成されていないように感じてしまうのだ。
ではなぜ、Vulfpeckがミニマル・ファンク以外も演奏するようになったか?
これは単純で、Jackが他メンバーに自由に作曲させたり、仲間の曲を演奏したりしているからである。
つまり、バンドの持続可能性のために、メンバーやファミリーの意思を尊重し、バンドのジャンルを限定していないのだ。
「Back Pocket(2015)」「Running Away(2017)」などはメンバーのTheo、Joeyが作った曲で、これらはシンプルなポップスとソウルの曲だ。
これらはJackには作れないような曲で――Theoが得意とするポップなセンス、またJoeyが得意とするマーヴィン・ゲイのようなソウルのセンスが存分に発揮されている。
Vulfpeckは、複数の才能ある作曲家たちの曲が詰め込まれた――「Vulfpeckファミリーの発表の場」として機能しているのだ。
初期はミニマル・ファンクしか演奏していなかったVulfpeckだが、バンドの成功などに伴い、初期の方向性から柔軟にそれを変化させてきた、というわけである。
これはリーダーとしてのJackの舵取りであり、ここに彼の組織運営のセンスを感じないわけにはいかない。
結果的に2017年のVulfpeckのアルバム、「Mr. Finish Line」においては、全10曲中、Jackのミニマル・ファンクはわずか2曲であった。
しかし、Jackはミニマル・ファンクへの情熱を失ったわけではなかった。
Jackはどのアルバムにおいてもミニマル・ファンクの楽曲はしっかりと作り、初期の思考のまま、引き算でレコーディングを行ない、それらの曲をアルバムに忍ばせていたのである。
そんな状態で2018年に結成されたのが、フィアレス・フライヤーズだった。Vulfpeckのジャンルは自然とボーダーレスになったが、今度はJackはそうならないよう、徹頭徹尾、ミニマル・ファンクという「コンセプトを追求したバンド」を作り上げたのである。
というわけで――フィアレス・フライヤーズの1stアルバムは、Jackの「引き算の思考」が最大限に発揮され、Vulfpeckがリリースするアルバムとは異なった、「究極のミニマル(最小限)ファンク・アルバム」となったのである。
全6曲、わずか15分。
Vulfpeckとは違い、すべての曲がミニマル・ファンク。
ドラムも「3点」と呼ばれる「最小限(ミニマル)」なセット。ソロもわずか、テーマもわずか。とにかくカットできるものは何でもカットしてしまえ――ただし、グルーヴだけは残す。
グルーヴだけは残して他を極力、引き算することで、グルーヴを一層際立たせよう。これまでのVulfpeckの曲よりも――さらに、さらに。
そして生まれたのが「Ace of Aces」である。
これこそ、かつて世界のどこにも存在しなかった、「究極のミニマル・ファンクバンド」だった。
私は考える。これは、Vulfpeckのもうひとつの未来――こうだったかもしれない未来の姿だ、と。これは別の世界線のVulfpeckだったかもしれないのだ。
もしJackが、Vulfpeckメンバーに強制的にミニマル・ファンクだけを演奏するバンドの姿を押し付けていたら――ソロ活動を行いたいメンバーは脱退していき、Vulfpeckとは違うメンバーでミニマル・ファンクを体現するバンドになっていたかもしれない。
しかし、Jackはどちらも両立させた。Vulfpeckはジャンルを限定せず持続させ、フィアレス・フライヤーズはジャンルを限定して新しく作り出す。
ひとによっては、これはどちらかひとつしか手にできないものかもしれないが――Jackは両方の未来を掴み取ったのだ。これが組織運営の手腕でないとすれば、何だろう?
フィアレス・サウンド解説:②バリトンギター・ファンク
続いてサウンド解説その②、
②バリトンギター・ファンクについてである。このサウンドを徹底して前面に押し出したファンクバンドは、フィアレス・フライヤーズが世界初となる。
実はフィアレス・フライヤーズの楽器編成は、他のバンドではあまり見ることができないものだ。
・ギター
・バリトンギター
・ベース
・ドラム
この4名による編成である。
バリトンギターとは、ギターとベースの中間の音域を持つ弦楽器で、見た目はかなりギターに近い。弦もギター同様6本で、ギターよりもネックの長さが少し長くなっている。
バリトンギター・ファンクの例として、フィアレス・フライヤーズの「Under the Sea / Flyers Drive」の動画を取り上げよう。「Under the Sea」はディズニーのカヴァーなので、はっきりとしたメロディが存在し、聴いたときに理解しやすい。
画面左、Coryが弾くメロディが通常のギター、その右側でMarkが弾いている赤いギターがバリトンギターだ。
Coryの弾くメロディに対して、バックで別のフレーズを弾くMark。ここで、もしMarkが通常のギターを持っていたら――ふたりの音域が被ってしまうかもしれない。2本のギターの音がぶつかって、響きとしてはあまり面白くなくなってしまう可能性がある。
バリトン・ギターは、この問題を解決する。
ギターよりもさらに低い音域が出せるため、CoryとMarkが同時にプレイしても、音域が被らず、音がぶつかることがないのだ。
さらにバリトン・ギターの下の音域にはベースが存在し――3本の異なった弦楽器がそれぞれ別の音域でファンクしている、というサウンドは、実はこれまで演奏されておらず、斬新で――単純に、非常にカッコよかった。
(2本のファンク・ギターを活用したのは、Earth, Wind & Fireが有名。これも音域的にはかぶらないように弾いているが、もし1本がバリトンギターだったなら、もっとファンキーなグルーヴだった可能性もある)
このバリトンギター・ファンクが完成したのは、Jackのアイデアと、それを実現できるプレイヤー、Markの登場によるものだった。
以下、Coryのインタビューである。
「何年か前からジャックがコンセプトを持っていて」と語られているが、我々はその証拠を入手した。
こちらは2014年にJackがひとりで作った動画だが、すでにギター、バリトンギター、ベース、ドラムの4名によるサウンドを作り上げている。
この段階ではファンクではなかったが――それは当然かもしれない。バリトンギターはロックやメタル、もしくはアンビエントなど、低音の弦楽器の独特な「響き」を聴かせるジャンルでよく使われていた楽器だったのだ。
しかしミニマル・ファンクを追求していたJackであれば、このバリトンギターをファンクに落とし込むというアイデアが生まれるのは自然なことだったと思われる。2014年ごろ、まず、Jackがバリトンギター・ファンクの可能性に気付いた。
ところが、バリトンギターは特殊な楽器であるため、これを実現させるためには、バリトンギターの演奏に長けていて、さらにファンクが得意なプレイヤーが必要になる。もちろん、当時、そんなプレイヤーはいなかった。
しかし、状況はある男の登場で一変する。
2016年にバリトンギター・ファンクに目覚めた男、Mark Lettieriだ。
Snarky Puppyの「Jefe(2016)」は、冒頭からバリトンギターの低音によるファンキーなギターでスタートしている。
非常にクールなサウンドであり、途中もバリトンギターと通常のギターが両方鳴っている瞬間があるが、うまく音域が分かれており、音楽的にも優れた印象を与えていると言えるだろう。
その後すぐ、2016年末から、Markは自らのSNSやYouTubeでバリトンギターによるファンクのデモ・セッションを公開。これは「Baritone Funk」シリーズと名付けられた一連の作品となった。
この「ポジティブなものばかりじゃない反応」が、まだバリトンギターによるファンクというものが「全く新しいアイデア」だったということを象徴している。
ここで面白いのは、まったく別の場所にいたふたりが、同時期にバリトンギター・ファンクバンドの実現に動き出していたという点だ。
Jackは、Markの「Baritone Funk」シリーズを見たのだろう。Jackは思ったに違いない。
これこそ求めていたプレイヤーだ!
バリトンギター・ファンクを実現するのに、世界中にMark Lettieriより最適なヤツがいるか?
JackはCoryともバリトンギター・ファンクの実現に向けて話し合っていたので、Coryを介して、Markと連絡を取る。Coryも、Markは適任だと考えたらしく、その行動は早かった。
Coryのメールに、Markは笑いながらもOKし――
2018年に、世界初の、全曲にバリトンギターを入れたファンク・バンドが誕生したのである。
(👆「Ace of Aces」では、バリトンギターを弾くのはMarkではなく、Cory。しかしそれ以外の曲は全てMarkが弾いている)
すべての映像を確認してきたが、フィアレス・フライヤーズで使われているバリトンギターは、赤いギターと白いギターのみである。Coryは常に青いギター(ストラトキャスター)を使っているので、色で確認すればすぐに判別できる。
しかも、映像では必ず、左側がギター、真ん中がバリトンギター、右側がベース、そのさらに右にドラム、という順番で楽器が並んでいるので、楽器の並びでも、どれがバリトンギターなのか分かるだろう。
(👇これはCoryがバリトン・ギターを弾いている唯一の曲、「Ace of Aces」。楽器の位置は変わっていないので、ちゃんと左がMark、真ん中がCory、右がJoe、という順番で楽器を持っている)
自らの「Baritone Funk」シリーズでバリトンギター・ファンクを模索していたMarkの参加により、フィアレス・フライヤーズではさまざまなバリトン・ギターファンクの実験が行われることになった。フィアレス・フライヤーズは①Jackのミニマル・ファンクと、②Markのバリトンギター・ファンクの融合であると言えるだろう。
(もちろん、Cory、Joe、Nateの素晴らしいプレイなくしてはこのバンドは成立しないが――根幹のコンセプトに大きな貢献をしたのは、この2名だと私は考えている)
例えば、「Flyers Direct」では0分40秒からのリフをベースとバリトン・ギターがユニゾンで弾いているが、バリトン・ギターが通常のギターよりも低い音域で鳴らしているため、これまでのファンクバンドでは出せなかった面白いサウンドが生まれている。👇
もちろん構成は最低限なミニマル・ファンクであるため、これこそまさにJackとMarkのサウンド・コンセプトが一体化した姿だと言える。
他にも、バリトンギターはメタルと親和性の高い重低音の響きも得意としているため、Markはそのサウンドもフィアレス・フライヤーズに取り入れた。
(👇「Ambush」を最初に聴いたときは、このメタル的なサウンドをフィアレス・フライヤーズで演奏する理由が分からなかったが、「バリトンギターのサウンドを追求するバンド」という視点で考えると理解ができる)
Markはさまざまな場所で、このバリトン・ギターファンクへの情熱を語っているが、ここではギターマガジンから引用させていただこう。
ここのインタビューでも最後に語られているとおり、フィアレス・フライヤーズでバリトンギター・ファンクを実現した後、Markは自らもバリトンギター・ファンクのアルバムを作り上げた。それが、2019年と2021年にリリースされた、「Deep: The Baritone Sessions」シリーズだ。
こちらではフィアレス・フライヤーズでのミニマル・ファンク的な要素はなく、幅広いゲストを迎えてMark独自のファンクを演奏している。
フィアレス・フライヤーズでは鍵盤楽器を入れないのが裏コンセプトとなっているが、Markのアルバムではシンセサイザーなども入っており、そういった意味でもサウンドの違いを楽しめるだろう。
Snarky Puppyからも多数のゲストが参加、さらにNate Smithや、Adam Deitch、Steve Lukatherなども参加している。かなり骨太なファンク・アルバムになっているので、是非ともMarkの「Deep: The Baritone Sessions」も聴いていただきたい。👆
以上が――フィアレス・フライヤーズのサウンド解説だ。
わずか3度のライブ
フィアレス・フライヤーズの登場は、世界に衝撃を与えた。
まったく新しいミニマル・ファンク、まったく新しいバリトンギター・ファンク。
しかし、これだけ革新的なバンドだったにもかかわらず、まだたったの3回しかライブが行われていない。
しかも、その3回目は――なんとMadison Square Gardenだった。
ここでは、最後にそのMadison Square Gardenライブまでの流れを解説していこうと思う。
1st Live /// North Coast Music Festival After Party /// 2018年9月2日
レコーディングを終えてアルバムをリリースしたフィアレス・フライヤーズは、いよいよデビューライブを迎える。場所はシカゴのConcord Music Hall。
実はこのライブ出演はJackが急に持ち掛けられた話で、いきなり決まってしまったライブだと語っている。
これは、2018年のNorth Coast Music FestivalにVulfpeckが出演していたことから起こった話だ。
North Coast Music Festivalは昼間のシカゴで開催され、夜になると街のライブハウスを貸し切って、アフターパーティと称してライブやセッションを繰り広げることが常だった。
そこに出演したVulfpeckに、アフターパーティを盛り上げる仕事が舞い込んできた、というわけである。
まずVulfpeckが昼のフェスに出演した9月1日。この日の夜は、Cory Wongがセッションホストリーダーを務め、複数のバンドメンバーが合流したセッションライブが開かれた。
ここには同じフェスに出演していたJamiroquaiのリズム隊が参加。Vulfpeckのメンバーも参加しながら、Vulfpeckの曲をJamiroquaiのメンバーが演奏することになった。以下はその夜のセッションについての、Coryのインタビューである。
(Jamiroquaiのリズム隊、Cory、JackでVulfpeckの「Outro」をセッションしている動画👇)
そしてそのセッションの翌日、9月2日夜のアフターパーティーでは、急遽フィアレス・フライヤーズのデビューライブが決定。
CoryとJoeはすでにシカゴにいたので、後は残りの2名――MarkとNateがやってきて、サプライズのデビューライブとなったわけだ。
しかも、Coryのインタビューにあったように、このフィアレス・フライヤーズのデビューライブは、Jamiroquaiのリーダー、Jay Kayがゲスト出演するという超常現象が発生した。
Jay Kayは既にVulfpeckのファンだったので、昼のフェス出演を終えた後、この奇跡のコラボレーションが実現したというわけである。
この日は「Bicentennial」のセッションからJay Kayが参加し、Jay Kayが得意とするセッション曲、「Sunny」へと演奏が流れていった。
当日の全曲は、こちらで聴くことができる。👇
セットリストはこちら。👇
この日はプリンスの「Controversy」、James Brownの「Cold Sweat」などのカヴァーも多く披露された。急に決まったライブだったため、カヴァーが多いステージになったと考えられる。
Vulfpeckでお約束となっているカヴァーの「I Want You Back」も演奏され、Vulfpeck同様、Theo Kaztmanがヴォーカルを務めた。
2nd Live /// Red Rocks Music Festival /// 2019年5月9日
ここから、フィアレス・フライヤーズはVulfpeckと一緒に登場するようになる(この日は、Vulfpeckの演奏が終わった直後に、フィアレス・フライヤーズが現れた)。
2019年の5月9日、Red Rocks Music FestivalにVulfpeckが出場したことが、この2度目のフィアレス・フライヤーズのライブが行われるきっかけとなった。
Vulfpeckは珍しくこの日は衣装を揃え、OOSCのスキーウェアを着て登場。
そしてフィアレス・フライヤーズはいつものフライト・ジャンプ・スーツだった(この日はかなり寒かったのか、Coryは息が真っ白になっている)。
セットリストはこちら。
この日はVulfpeckの直後ということで全体の曲数も少なく、直前の3月にリリースしたばかりの2枚目のアルバムから曲を選んでいる。
フィアレス・フライヤーズのライブは基本的に「やれるときにやる」というスタンスで行われているため、Vulfpeckのライブと抱き合わせになったり、メンバーの都合に合わせ、出演頻度が非常に少ない。
この5月のRed Rocksの後、Vulfpeckは8月にフェス「Lockin'」に出演。ここではメンバーの都合が合わなかったのか、フィアレス・フライヤーズは出演しなかった。
3rd Live /// Madison Square Garden /// 2019年9月28日
というわけで、いきなり、3度目のライブがMadison Square Gardenになってしまったのである。
このフィアレス・フライヤーズの出演は、Vulfpeckが結成から9年間という長い年月をかけて達成した、悲願のMadison Square Gardenライブの「前座」として行われた。
Madison Square Gardenは「世界でもっとも有名なアリーナ」として知られている。
マイケル・ジャクソン、エルヴィス・プレスリー、マドンナ、プリンスなど…Madison Square Gardenは本当に「世界を制した」アーティストのみがステージに立てる、名誉あるアリーナ・スタジアムなのだ。
どんな形であれ――結成3度目のライブが、Madison Square Gardenだったなんていうバンドが果たしてこれまで存在しただろうか?
VulfpeckはこのMadison Square Gardenライブで音楽の歴史を大きく変えたが――実はフィアレス・フライヤーズも、歴史に挑戦するような偉業を達成していた、というわけである。
レーベル無し、マネージャー無しで掴んだVulfpeckのMadison Square Gardenライブ。この夢のような瞬間に立ち会おうと、
全米、いや世界からVulfpeckとフィアレス・フライヤーズのファンがニューヨークに、続々とMadison Square Gardenに集まってきた。
そこで14000人の観客を前にして――フィアレス・フライヤーズは前座として、ステージに上がる。
空軍の軍歌が鳴り響き、割れんばかりの歓声とともに入場する、フィアレス・フライヤーズ。楽器を手にして、いざ――ライブスタート!!!
なんと、開始から3秒でスティックを飛ばしてしまうNate Smith!!!!!
この大事件がどうなったか――など、
Madison Square Gardenライブの詳細や、他の動画の解説は、次回の記事👇で行う予定だ。
以上が、『THE FEARLESS FLYERS 解体新書』(1)となる。今回も最後までお付き合いいただき、ありがとう。是非次回もお楽しみに。
◆著者◆
Dr.ファンクシッテルー
宇宙からやってきたファンク研究家、音楽ライター。「ファンカロジー(Funkalogy)」を集めて宇宙船を直すため、ファンクバンド「KINZTO」で活動。
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