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『THE FEARLESS FLYERS 解体新書』(2)どこよりも詳しいフィアレス・フライヤーズーーYouTube動画&全アルバム解説

KINZTOのDr.ファンクシッテルーだ。今回は「どこよりも詳しいVulfpeckまとめ」マガジンの、31回目の連載になる。では、講義をはじめよう。

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前回と今回では、ファンクバンドのフィアレス・フライヤーズ(THE FEARLESS FLYERS)について、どこよりも詳しく解説している。

前回は、バンドのメンバーやサウンド、ライブについて。今回はYouTube動画や、全アルバム解説を行っていく。


YouTube動画の魅力

フィアレス・フライヤーズの大きな魅力に、彼らのYouTube動画がある。

Vulfpeckもそうだったが、昨今、映像がこんなに面白いファンクバンドの動画があっただろうか!?

まずここでは、彼らのYouTube動画の魅力を、いくつかの要素に分けて解説していきたい。

フィアレス・フライヤーズはプロデュースをVulfpeckのリーダー、Jack Strattonが行っているため、これらのセンスはすべて彼のものである。

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Jack Stratton / 画像出典:https://www.youtube.com/watch?v=kH1ZxoEkv84


①サムネイルが雑!

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画像出典:https://youtu.be/72_zXigcOrA、https://youtu.be/AYk4VTZIaIM、https://youtu.be/ogcmBogwVqU

まず、非常に独特、一発でフィアレス・フライヤーズだとわかる、このサムネイル。基本的にはVulfpeckのサムネイルと同じ仕組みで、「Vulfコピー」を使って「わざと雑に」作られている。


背景カラーがバンドを示していて、Vulfpeckが水色背景(#9cbfdf)だったのに対し、フィアレス・フライヤーズの背景はピンク色(#db8e84)になっているのが特徴だ。


しかもVulfpeckのときはコピー回数が控え目だったが、フィアレス・フライヤーズでは画面の端から端までコピーして、画面の外まで行ってしまっているのが面白い。

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Vulfpeck / 画像出典:https://www.youtube.com/watch?v=AWBUnr0F3Zo

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フィアレス・フライヤーズ / 画像出典:https://youtu.be/72_zXigcOrA


②楽器がマイクスタンドに固定!

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画像出典:https://youtu.be/72_zXigcOrA、https://youtu.be/9TYbw6FWMPs

フィアレス・フライヤーズでは、なぜか、楽器がマイクスタンドに固定されている。

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後ろ側はこのようになっている 画像出典:https://youtu.be/kH1ZxoEkv84


これについてはメンバーも知らされていなかったので、レコーディングで集まった時にスタジオで驚いたとMarkが語っている。

Mark:「え?マイクスタンドでギターを弾くんだ?」って思いました(笑)。(出典:https://www.youtube.com/watch?v=l45jdozfSII&t=53s


おそらく、左側からギター、バリトンギター、ベースという並びで楽器の位置を固定することで、楽器の配置を視覚的に分かりやすくする意図があると思われるが――

それ以上に、3本の弦楽器が同じ角度で並んでいるのは非常にシュールだ。


しかもこれはライブでも再現されている。

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画像出典:https://www.youtube.com/watch?v=eqSb7rFU9S0


③衣装は必ずフライト・スーツ!

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画像出典:https://youtu.be/eqSb7rFU9S0、https://youtu.be/rAi8YcCuVnk

フィアレス・フライヤーズは、必ずフライト・ジャンプ・スーツと呼ばれる、オールインワンの飛行服と、ブーツ、サングラスで衣装を固定している。


楽器もマイクスタンドに固定、衣装も黒づくめの飛行服、と、ビジュアルは完全にシュールだが、どこか笑えてしまう。

これはバンド名が「勇敢な飛行士達」ということで、空軍のエースたちのバンド、というコンセプトに沿った衣装だと考えられる。

Jack:コンセプトを持ったものを作るのが好きなんだ。今回のバンドも、コンセプト・バンドと呼んでいる。本当にシンプルで、楽しいし――ミュージシャンにとっては、少ない制約でセッションをするだけの、自由なスタイル。そして皆でドレスアップ、さ。
(出典:https://www.youtube.com/watch?v=2FLmIvY_aHE&t=677s)


このフライト・ジャンプ・スーツは「ロスコ(Rothco)」の製品で、普通に買うことができる。日本でも、Amazonで販売している。

なんとお値段7200円(21年9月8日時点、Amazon)。思ったよりずっと安かったのでこれについてはかなり驚いた。

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この衣装の話についてはMarkのインタビューが面白かったので、翻訳して引用させていただきたい。

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インタビュワー:では、フィアレス・フライヤーズの話をしましょう…ガソリンスタンドの制服のような衣装のバンド。

Mark:ああ、そうだね(笑)。Rothcoのフライトスーツだよ。あそこのブランドの商品なんだ。
(中略)
私とNateは、フライトスーツを着るとは知りませんでした。CoryとJoeは「当然だろ?僕らはもう着たよ。さあ、さっさと着ようぜ」みたいな感じ。私達は「え?」っていう状態です(笑)。
(中略)
そこでフライトスーツを着て、ブーツを履いたんだけど、ブーツがまだ合わないんです。ライブを続けるなら、ブーツを買わないといけませんね。足に合うやつを買わないと(笑)。

インタビュワー:あのフライトスーツはビデオだけじゃなくて、ライブでも使ってますね(笑)。

Mark:まだ2回しかライブをしていませんが、ずっと同じものを着ています。Coryが僕のスーツも一緒に家に持って帰って、彼の妻が洗濯しています(笑)。すごいことですよね。DIYのような、面白い雰囲気があります。(出典:https://www.youtube.com/watch?v=l45jdozfSII&t=53s


以上がフィアレス・フライヤーズの動画におけるポイントだ。Vulfpeckと違い、フィアレス・フライヤーズは常にこれらのビジュアルを守っているのがさらに動画を面白くしている。


1st Album /// The Fearless Flyers

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Produced, Mixed & Mastered by Jack Stratton
Engineered by Ryan Lerman
Nate Smith — drums, composer
Joe Dart — bass, composer
Cory Wong — baritone guitar, guitar, producer, composer, co-producer
Mark Lettieri — baritone guitar, guitar, composer
Blake Mills — guitar
Sandra Crouch — tambourine
Elizabeth Lea — trombone
Jack Stratton — sibilant announcer
クレジット 2018年3月23日リリース (出典:https://vulf.bandcamp.com/album/the-fearless-flyers)

では、アルバムの解説を順に行っていきたい。


まず、2018年にリリースされた初のアルバムから。

1枚目にして、ミニマル・ファンク、そしてバリトンギター・ファンクというコンセプトを完全に体現した名盤。個人的には、「2010年代のファンクにおいて、もっとも時代を象徴したアルバム」だと考えている。

SNS、YouTubeの発展において、2000年代の「長いファンク」は飽きられていた。

そして入れ替わるように出現した「短いファンク」「SNS映えするファンク」という流行を完璧に掴み、さらにバリトンギター・ファンクという、まったく新しいファンクも融合してみせたのだ。



レコーディングの経緯や時系列に関しては、Coryのインタビューに書かれている。

僕、ジャック、ジョー・ダートで実現に向けて話し合っていたけど、僕は去年の秋までツアーで忙しかったから、じっくり時間をかけていた。で、僕はネイトとマークに”こういうコンセプトで、(筆者注:2018年の)1月には録音をする予定だ。君たちは来られるかな?”ってメールを送ったんだ。そしたら、”もちろんさ!”という答えが返って来て、レコーディングは予定どおり1月に、3日間のスケジュールで毎日2曲ずつ録って、アルバムは4月にリリースとなった。
(出典:ギター・マガジン2018年11月号)


レコーディングが行われたのは、ロサンゼルスにある、Ryan Lerman所有の個人スタジオ。

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写真2枚目:Ryan Lerman / 画像出典:https://youtu.be/72_zXigcOrA、https://youtu.be/QOSybwPoLHY


Ryan Lermanは、ロサンゼルスのファンクバンド、スケアリー・ポケッツの発起人だ。

スケアリー・ポケッツだけでなく、Vulfpeckや、友人のレコーディング&撮影などに、広くこのスタジオは使われている。

Vulfpeckファンとしては、Madison Square Gardenのライブ映像を撮影したのもRyanである、という情報も外せないだろう。他にも、RyanはVulfpeckで作曲・ギターも担当した。

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画像出典:https://www.youtube.com/watch?v=Nq5LMGtBmis



ミニマル・ファンク、バリトンギター・ファンクの融合として、1曲目の「Ace of Aces」がこのアルバムにおいては非常に重要な役割を果たしている。演奏時間わずか2分5秒。

この曲のみ、バリトンギターはCoryが弾き、ライブでもそれは同じように再現されている。


また、Vulfpeck関連の選曲としては非常に珍しく、ディズニーの「リトル・マーメイド」から、「Under the Sea」がカヴァーされている。

僕らのバージョンの「Under the Sea」や、「Introducing the Fearless Flyers」は、僕がここ数年サウンド・チェックのような場面でよくプレイしていたリフがベースとなっていて、The Fearless Flyers以前から僕のソロ・アルバム用に一度は録音したものだったんだ。
ジャックと僕とでこのプロジェクトにマッチしたものになるように思案して手を加え、僕のソロ・アルバム用にもアレンジし直して使うことにしたよ。(Cory Wong / 出典:ギター・マガジン2018年11月号)


他にも有名な曲のカヴァーが選ばれた。スティービーワンダーの「Signed, Sealed, Delivered, I'm Yours」である。


これは、Jackが大ファンである「Stuff」が1970年代に行ったカヴァーのアレンジを、そのまま拝借した演奏となっている。

フィアレス・フライヤーズで曲名の表記が、「Signed, Sealed, Delivered」と少し略した名前で表記されているのも、Stuffが同じように略して表記していたからだろう。

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画像出典:https://www.hmv.co.jp/artist_Stuff_000000000011941/item_Stuff-Live-At-Montreux-1976-Ltd_3680087


さらにこのアルバムには、重要なゲストが2名参加している。

まず、ギタリストのBlake Mills

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画像出典:https://www.youtube.com/watch?v=kH1ZxoEkv84


Blake Millsは過去にも、Vulfpeckの「Rango Ⅱ」でゲスト参加していた、ロサンゼルスのミュージシャン仲間の一人。

さらっと参加してくれているが、ボブ・ディランのアルバム「Rough and Rowdy Ways(2020)」にも参加した著名ギタリスト・プロデューサーだ。


そして、もう一人。Sandra Crouchである。

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左側の女性 / 画像出典:https://www.youtube.com/watch?v=kH1ZxoEkv84

Sandra Crouchは、ソウル黄金期にタンバリン・プレイヤーとして、モータウンの珠玉の名曲たちのレコーディングに参加した人物だ。

Jackson5の「I Want You Back」でタンバリンを叩いた女性。

と言い換えてもいい。


これは120%、Jackの人選である。Jackはソウルの、モータウンの大ファンであり、「I Want You Back」のヘビー・リスナーであり、

さらにソウルにおけるタンバリンの解説動画を作り、そこでSandra Crouchを一番目に紹介するほど――筋金入りの大ファンだった。

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画像出典:https://www.youtube.com/watch?v=DULaE0Xnq0Q


Sandra Crouchはゴスペルシンガーとしても高いキャリアを誇り、1984年にグラミー賞で「Best Soul Gospel Performance, Female」を受賞している。そのキャリアを知りながら、2018年に、タンバリンで彼女を起用する人物は、世界中にJack Stratton以外にありえない。

これはJackの熱意が実現させたゲスト参加なのである。

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画像出典:https://www.youtube.com/watch?v=kH1ZxoEkv84


また、このアルバムではVulfpeckの「Barbara」をセルフ・カヴァーしている。

「Barbara」は2012年のセカンド・アルバム「Vollmilch」に収録された曲で、作曲はJack。当時からミニマル・ファンクとして作られた曲で、これが6年後にバリトンギター・ファンクとして生まれ変わったというのは、なかなか感慨深いものがあると言えるだろう。


フィアレス・フライヤーズはこの1stアルバムをリリースした直後、9月2日に初ライブを行ない、その後はまたスタジオに入って新たなるレコーディングを行なうことになった。



2st Album /// The Fearless Flyers Ⅱ

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2019年5月3日リリース
Produced, Mixed & Mastered by Jack Stratton
Engineered by Ryan Lerman
Nate Smith — drums, composer
Joe Dart — big guitar, composer
Cory Wong — medium guitar, guitar, producer, composer, co-producer
Mark Lettieri — medium guitar, guitar, composer
Joey Dosik — alto sax, composer
Chris Thile — small guitar, composer
(出典:https://vulf.bandcamp.com/album/the-fearless-flyers-ii

続いて、2019年にリリースされた2枚目のアルバムでる。

このアルバムはほぼ前作の内容を引き継ぐもので、レコーディング・スタジオや、メンバーも大きな変化はなかった。

このアルバムで重要な点は2つ。①新しいゲスト参加と、②Madison Square Gardenライブの直前のリリース作品である、という点である。



①新しいゲスト参加

このアルバムで、ついにマンドリン奏者のChris ThileがVulfpeckファミリーのアルバムに参加することになった。

Chris Thileはグラミー賞を4回受賞している、世界的に有名なマンドリン奏者。マンドリン界の王、と言っても良いくらい、圧倒的なテクニックと知名度を持ち、各界のトップ・プレイヤーと共演している。



Chris Thileは自身の音楽番組「Live From Here」で、Vulfpeckの「Fugue State」を2017年のOP曲に選ぶなど、もともとVulfpeckのファンだった。


そして2018年、実際にVulfpeckを「Live From Here」に呼び、共演したのである。このときの映像はVulfpeckファンの心を大きく掴み、ファンはChris Thileがアルバムでも正式に共演するのを楽しみにしていた。そんな矢先のフィアレス・フライヤーズへの参加だったのである。


また、Vulfpeckでサックス&ヴォーカルでおなじみの、Joey Dosikの参加も話題となった。

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Joeyが参加した曲「The Baal Shem Tov」はJoeyが作曲したものだ。珍しくサックスにエフェクターをかけて、ワウのかかったサウンドを披露している。曲はファンクだけでなくアフロビートのような雰囲気もあり、フィアレス・フライヤーズとしては面白いグルーヴになっている。

(曲名の由来はハシディズムの創始者とされる、イスラエル・ベン・エリエゼル氏の活動名から。)


②Madison Square Gardenライブの直前のリリース作品

そして、後述するMadison Square Gardenライブが9月に行われる直前というタイミングでのリリースになったことで、このアルバムではMadison Square Gardenライブで演奏される曲が多く含まれることになった。

Madison Square Gardenライブでは、Joeyがフィアレス・フライヤーズのステージに参加しなかったので、彼作曲の「The Baal Shem Tov」以外はすべて演奏されている。


「Hero Town」「Daddy, He Got a Cessna」はVulfpeckで以前レコーディングされた曲のセルフ・カヴァー。

(「Daddy~」は、原曲は「Daddy, He Got a Tesla」。「テスラ」が「セスナ」になっているのは、フィアレス・フライヤーズのコンセプトが空軍だからだと思われる)


また、「Swampers」はJackが作曲したオリジナル曲だが、同名のリズム・セクションが命名の由来となっていると思われる。


「Simon F15」は、Coryが2016年にリリースした初のソロ・ファンクアルバムに収録されているオリジナル曲「Simon」が元になっている。

「F15」は戦闘機の名前。これもやはりコンセプトが空軍であるためだと考えられる。



この後、Vulfpeckとフィアレス・フライヤーズはMadison Square Gardenライブを成功させ――そして、さらにその後にレコーディングされたのが、次の3枚目のアルバムである。


3rd Album /// Tailwinds

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2020年7月24日リリース(出典:https://vulf.bandcamp.com/album/tailwinds)


このアルバムについては、以前に別に詳細な解説noteを書いたので、詳細についてはそちらをご覧いただきたい。ここでは簡単な解説に留める。

このアルバムは、①スタジオが変わった、②メンバーが追加された、という2点が大きな変更点である。


①スタジオが変わった

スタジオは、カリフォルニアのSound City Studiosに変更となった。それにより、背景ビジュアルが大きく変化した。ニルヴァーナの「Nevermind」を録音した有名なスタジオである。

ドラムセットも、これまでのミニマルな「3点」ではなく、複数のタムを設置した巨大なセットに置き換わった。

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画像出典:https://www.youtube.com/watch?v=ogcmBogwVqU


②メンバーが追加された

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画像出典:https://www.youtube.com/watch?v=ogcmBogwVqU

今回は、「Delta Force」と呼ばれるホーン隊が特別に参加することになった。これによりミニマル・ファンクらしさが少し失われ、より豪華なサウンドへ舵を切ったアルバムだと言えるだろう。別の表現をすれば、より一般的に聴きやすくなったアルバム、とも言える。

メンバーは右側から、Alekos Syropoulos (as)、Kenni Holmen(ts) 、Grace Kelly (bs)。(やはりロスコのフライト・スーツを色違いで着用)

Kenni Holmenはプリンスのバックバンド「NPG」のホーン隊、「Hornheads」のメンバー。さらに今回は「Hornheads」でホーンアレンジを担当していた、Michael Nelsonがすべてのホーンアレンジを担当している。

Michael Nelsonがアレンジ、「Hornheads」が演奏するファンク、というのは、2017年以降のCory Wongのアルバムではお馴染みの光景。今回のフィアレス・フライヤーズでそれが実現したのは、実は今作でCoryがプロデューサーに就任したのが理由である。

これはフィアレス・フライヤーズのアルバムでもあり、Coryのソロ・アルバムの延長線上の作品でもあるのだ。


選曲としては、ホーン隊を入れてフィアレス・フライヤーズやVulfpeckのセルフ・カヴァーを行なったり、新曲を作ったり、低音を利かせた「バリトンギターらしいバンドサウンド」の開拓などを行っている。それぞれのメンバーがアイデアを出し合ってさまざまな実験が行われたアルバム、だと言えるだろう。


👇セルフ・カヴァー

👇新曲

👇バリトンギターの新しいサウンド開拓



4th Album /// Flyers Live at Madison Square Garden

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Nate Smith
Joe Dart
Cory Wong
Mark Lettieri

Produced by Jack Stratton
Mixing and Mastering — Caleb Parker
Recording and Front of House — Jake Hartsfield
Monitors — Austin Brucker
クレジット 2021年7月1日リリース(出典:https://vulf.bandcamp.com/album/flyers-live-at-madison-square-garden)


ちょうど3枚目のアルバムがリリースされた直後から、悪疫の影響でVulfpeckとフィアレス・フライヤーズは活動が止まってしまった。

そんな中、Jackは少しずつ、撮りためてあった作品をリリースしていった。そしてついに、2021年7月1日、フィアレス・フライヤーズのMadison Square Gardenライブが全面的にYouTubeとサブスクで配信されたのである。

VulfpeckのMadison Square Gardenライブにおける前座としてフィアレス・フライヤーズが出演したことは既に情報が出ており、ファンが撮影したライブ映像もYouTubeに上がっていた。


だが、Jackがこの記念すべきライブを記録していなかったはずがない。

いつか必ず、公式の映像が解禁になる――そう思い続けて約2年。ファンとしては待ち望んだ作品であった。


アルバムの解説に移ろう。

場所はニューヨーク、Madison Square Garden。

「世界でもっとも有名なアリーナ」として知られ、最高のキャパは約2万人と言われている。今回はVulfpeckとフィアレス・フライヤーズの単独ライブで、客席やステージの配置から、席数は約14000人となった。もちろん、チケットはソールドアウト。


アルバムのジャケットや、YouTubeの動画は、古き良き「ビデオテープ」をテーマにしている。

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画像出典:https://vulf.bandcamp.com/album/flyers-live-at-madison-square-garden

「もし80年代にこのライブがあったら?」とでもいうような「VHSビデオテープ」のデザインだ。(もちろんこれは架空のデザイン)

YouTube動画を再生したときのオープニングも、いかにも80年代と言わんばかりのテロップ、フォントになっている。

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以降画像出典:https://www.youtube.com/watch?v=eqSb7rFU9S0&t=451s


ライブの参加メンバーは、基本の4名。Cory Wong (gt)、Joe Dart (b)、Mark Lettieri (gt)、Nate Smith (dr)だ。今回は新しいゲストが参加しているが、これは後述する。



1曲目はバンド入場の曲なので、会場に流れたSEが収録されている。アメリカ空軍の軍歌である、「Wild Blue Yonder」だ。


この曲を流しながら、フライト・スーツにサングラスで、大真面目に入場してくるメンバー。この時点でかなり面白い。

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最後にドラムのNate Smithが現れ、メンバーが揃う。

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いよいよ1曲目スタート!!!


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開始3秒でスティックを飛ばしてしまうNate Smith!!!!!


14000人を集めた念願のMadison Square Gardenライブの最初の演奏でまさかの痛恨のミス。しかし、


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そこからわずか4秒(2小節)で復帰するNate Smith!!!!!


たった4小節のドラムイントロの中に、スティック落として復帰するという壮大なドラマがあったわけだが――メンバーは誰もドラムを見ていないし、慌てていないため、他の3人はこの大事件に気付いていない。Nate Smithのプロとしての姿が印象付けられた瞬間となった。


そして始まる、「Ace of Aces」。👉動画リンク

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2018年のスタジオ版と同じ、非常にミニマルで最低限なファンク。演奏時間2分5秒。なんと、スタジオ版とまったく同じである。

テンポは最初にスタートしたNate Smithのドラムで決まっているため、Nateの超人的なタイム感がよく理解できる演奏となった。

Nateはスティックを落としたことをまったく感じさせない冷静なプレイで、このライブではとにかく彼のスゴさが垣間見える瞬間が多い。


基本的には曲は1st、2ndアルバムから選ばれ、アレンジもほぼ一緒だったが、少しライブならではの新しい要素もあった。そこを紹介しよう。

まず、Vulfpeckのセルフ・カヴァー「Lost My Treble Long Ago」が初めて披露された。👉動画リンク

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この曲はVulfpeckの「Hill Climber(2018)」に収録された曲だったが、リリースが2018年末。

そこからMadison Square Gardenライブまであまり時間がなかったため、ほぼライブで披露されたことがない曲だった。(こちらのサイトによれば、2018年末のヨーロッパツアーでのみ演奏された曲で、アメリカでは一度もライブ演奏されていない。)

そんな貴重な曲がまさかフィアレス・フライヤーズのほうで演奏されたので、ファンとしては非常に喜ばしい選曲だったと言えるだろう。内容もJoeのベースを聴くための曲であり、もともとCoryがギターでレコーディングしいるものなので、フィアレス・フライヤーズで演奏されるのはとても自然なことだった。

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また、新たなゲストとして、サックスのEddie Barbashが参加している。👉動画リンク

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Eddie BarbashはVulfpeckの曲やライブにも参加しているプレイヤーで、彼らとは「Live on The Late Show With Stephen Colbert」で知り合った仲である。


Eddie Barbashは今回のライブでは、「Bicentennial」「Hero Town」の2曲に参加した。

フィアレス・フライヤーズの単発ゲストはフライト・スーツの衣装を着ないことになっているので、今回のEddieもフライト・スーツを着ていない。

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Eddieはこのフィアレス・フライヤーズの直後、VulfpeckのほうのMadison Square Gardenライブには出演がなかったため、この日にイベントに参加していたことはあまり知られていなかった。

Joey DosikがEddieの代わりに吹くこともできただろうが、このあたりは仲間を大事にするJackらしいセレクトだと考えられる。


そしてライブ最後の曲は、1stアルバムにも収録された「Signed, Sealed, Delivered」。👉動画リンク

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スタジオ版と同じくStuffと同じアレンジ、高速ファンク。この演奏は彼らのMadison Square Gardenライブの中でも特に印象に残る曲となった。

ミニマムな「3点」のドラムセットで、非常に表情豊かで、かつスピード感、ドライヴ感のあるグルーヴを叩くNate Smith。

特に、途中のドラムソロで見せるテクニックが人間離れしている。両手をバシャバシャしているだけにしか見えないが、すべてが正確にポケット(叩かれるべきポイント)に入っている、圧倒的なテクニック。

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そのドラムソロに被せるように入ってくる、Cory Wong、Joe Dartのプレイも素晴らしい。

2人の正確無比、かつ微妙に異なったグルーヴ感が見事に混ざり合った、ライブ全体のハイライトとなっている。

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そして、そこからバリトンギターでソロを弾くMark Lettieri。

Coryが高音で和音によるカッティングをしているため、中~低音を駆使した単音によるソロを展開する。これも、バリトンギター・ファンクとして適切な音はこびであり、ここの展開はまさにフィアレス・フライヤーズとしての魅力が遺憾なく発揮された瞬間となった。

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――以上が、フィアレス・フライヤーズの2021年段階でのすべてのアルバムの紹介であり、これをもって、今回の「解体新書」の記事は終了となる。

まだVulfpeckの活動が再開していないため、フィアレス・フライヤーズの再開も未定となっているが――必ず、彼らは帰ってきてくれる。

いまは、その時を一緒に待とう――「勇敢な飛行士たちの帰還」を。




◆著者◆
Dr.ファンクシッテルー

宇宙からやってきたファンク研究家、音楽ライター。「ファンカロジー(Funkalogy)」を集めて宇宙船を直すため、ファンクバンド「KINZTO」で活動。


◇既刊情報◇

バンド公認のVulfpeck解説書籍
「サステナブル・ファンク・バンド」
(完全無料)


ファンク誕生以前から現在までの
約80年を解説した歴史書
「ファンクの歴史(上・中・下)」


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