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医療大麻と一言に言っても

※ 過去のブログ記事を改定し転載しました

ツイッターで医療大麻についての議論を見ることがあり、時々医療者と大麻開放論者の議論が行われている。しかし、その議論は往々にして噛み合わず、しばしば両者が感情的となり後味の悪い結果となる。今まで接点があまりなかったところ、対話が行われるようになってきたのは有意義なことであり、出来れば建設的な議論が行われて欲しいと思う。

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なぜ議論が噛み合わないのか、その大きな理由として、医師が考えている医療大麻と大麻開放論者(非医療者)が考えている医療大麻にズレがあるのではないかと考える。
医療大麻とは、、、大雑把に言えば病気の治療や症状緩和目的で大麻を使用すれば全て医療大麻だろうが、その中にも色々なものが含まれる。それを上の図のように分類した。

A. 医療機関で処方される医療大麻
病院で処方される処方箋医薬品の様に使われる大麻、狭義の医療大麻といっても良いだろう。
例えば、難治性てんかん、多発性硬化症、神経障害性疼痛と言った専門的な治療が必要な疾患に対して、医者が診察して処方することを想定した大麻の使い方である。

B. 民間で入手される医療大麻
医療機関ではないところで使用者が入手して、主に自己治療的に民間療法薬として使われる大麻、これも医療大麻と言えるだろう。広義の医療大麻とも呼べる。
この利用法は医薬品として区分すると一般医薬品、すなわち町の薬局で購入できる薬となる。例えば、ガスターやロキソニンなどは町の薬局でも買えるが、病院に行くまでもないちょっとした不調の場合はよく利用する人もいるのではないだろうか。
これと同様に、ちょっとした不眠、痛みなど、病気とまでは言えない不調に大麻を利用することも想定できる。
嗜好目的の使用と合わせて、大麻の個人使用とまとめることもできるだろう。

c. 緩和ケアでの大麻
緩和ケアにおける大麻は少し特別な点があると考える。緩和ケアは良い最期を迎えるためにサポートする医療と言える。身体的な症状緩和とともにその人の精神面やスピリチュアルな面のケアも重要なのである。その点で緩和ケアでの大麻は痛み、不眠、食欲低下などの身体症状を緩和する目的だけではなく、より人間らしく暮らすために大麻の精神作用を利用する目的も持つだろう。ここは医療大麻とレクリエーション大麻の境界が曖昧な部分である。分かりやすくアルコールの例を出すと、例えば最期に好きなお酒を飲みたい、という患者の希望に対して、身体的にはむしろマイナスかも知れないが、より人間らしく過ごしてもらうケアの一環でアルコールを適量飲むことを許す場面がある。大麻でもその様なことが想定されるだろう。

さて、ということで、なぜ 医師 vs 大麻開放論者の議論が噛み合わないのかに戻る。
それはズバリ、医師は「A. 医療機関で処方される医療大麻」を想定し、大麻開放論者は「B. 民間で入手される医療大麻」を想定し議論しているからと考える。言い方を変えると、医師は自分が患者に処方することを想定し、大麻開放論者は自分が使うことを想定しているのである。

A. 医療機関で処方される医療大麻 について議論するのであれば、まず重要なのはその効果、その次が毒性である。その薬が処方箋薬として認可されるためには、臨床研究に基づいた効果の証明が必要である。いわゆるエビデンスに基づいた医療が重要となる。ツイッターでの議論では医師は大体においてエビデンスを持ち出す。1つの論文だけではなく、システマティックレビューやメタ解析も参考にして、本当にこの薬が効果的なのかを吟味する。既存の標準治療があればそれと比較する。また、医療機関で管理するので、毒性があっても利益が上回れば良いのである。

B. 民間で入手される医療大麻 について議論するのであれば、毒性や社会への害が最も重要になる。それを一般に売っていいのか?が重要なのである。これは嗜好目的大麻の議論と大部分オーバーラップするだろう。
医療目的で使用する根拠はエビデンスに基づく吟味ではなく、自己決定権や自己治療の権利である。ちょっとした不眠や落ち込みに大麻を使用して楽になった経験があり、害も大きくなく誰にも迷惑をかけていないので、自由に使わせて欲しい、という訴えなのである。
もちろん効果についてのエビデンスの蓄積も重要であるし、いわゆる素人判断の自己治療で重要な疾患の治療が遅れて悪化するリスクもある。ただし、メインの議題は害が許容範囲か否かなのである。

イメージしている医療大麻が違うも議論の上での論点が全然違ってくるのである。これでは建設的な議論は出来ないだろう。お互いがどの様な使用法を想定しているのかをイメージすれば、論点は一致させていける。

その上で私個人の見解を簡単に述べる。

A. 医療機関で処方される医療大麻
ある程度エビデンスがある疾患としては 多発性硬化症、難治性てんかん、神経障害性疼痛、次点としてはがん緩和医療 が挙げられるだろう。
エビデンスベースで考えれば、1st lineで用いるべき疾患は少なく、2nd line以降の治療として有用だろう。追記:難治性小児てんかんに対するCBD治療について本邦でも臨床試験が行われており有望な治療である。

B. 民間で入手される医療大麻
日本国行政機関は大麻に対して「ダメゼッタイキャンペーン」を行っており大麻の毒性や社会への害を強く主張しているが、科学的エビデンスと照らし合わせれば政治目的で誇張されていると言わざるを得ないだろう。
北米やヨーロッパを中心に規制緩和している国や地域が増えており、絶対的に危険なものとは言えなくなっているのだ。規制緩和した各地域の今後の動向に注目すべきである。害についてのエビデンスも蓄積されていくだろう。

米国やヨーロッパでは個人主義の考えが強く、医療においても自己選択権、自己決定権を大切にする。大麻は代替医療の一つであり、患者の権利として規制緩和が主張され、認められてきた経緯がある。
一方日本では、お医者さんに任せる、という風潮がいまだに強く、また、国民皆保険制度で質の高い医療が受けられるため代替医療があまり一般的ではない。しかし今後は日本も医療費の逼迫などから保険制度の見直しがなされるであろうし、個人主義化も年々強くなっていることから、自己治療の権利が主張されていくことと思う。

注意すべきこととして、大麻の効能について過度に期待するあまり効果を誇張したり、標準治療を否定したりする場合があり、そのようなことは避けるべきと考える。極端な場合はオカルトやニセ医療となっている場合もある。そうなると社会との対話は出来なくなるだろう。

C. 緩和ケア領域については、人はどのように生きどのように死ぬのか、人間らしく生きるにはどうすれば良いのか、幸せに最期を過ごす権利について、といったスピリチュアルな議題が多くあるだろう。個人的には緩和ケアのスピリチュアルケアに大麻の精神作用を利用していく方法もあると思う。
また、どうせ長くないのだから好きな大麻を吸いたいという人の権利をどう考えるべきか。私自身はそれを止める理屈が「違法であるから」以外に見つけられない。


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