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世に流れる医療情報の信頼性

こんにちは、Dr FJです。

本記事は2020年9月15日の記事の再掲です。つい先日UCLAで准教授に昇進されたという津川友介先生のお話です。

 先日、アメリカのUCLAで准教授をされている津川友介先生が、twitterで今年2個目のNIHの大型研究費、R01を獲得されたと報告されていました。R01は1つ数億円という規模のアメリカっぽい大型研究費で、これを1つ獲得するだけで自分のチームに必要な人を雇って運営することが出来るようになります。また、例えば津川先生が研究に使用されているbig dataもただで手に入るものではなく、特にmedicareのdataは全米の高齢者を詳細に網羅する精度の高いもので、結果その値段も非常に高いということになりますが、こういったものの取得にもこの資金が活用されます。津川先生はR01を2つ獲得され、これにより6~7億円の資金を調達されたとのことでしたが、アメリカの研究者としてはのどから手が出るほど欲しいものですので、非常に高い競争率を勝ち抜いた結果ということになります。

 私がアメリカに留学していた時も、ボスはR01の研究費を1つ獲得していて、ここから統計学者など数人を雇い、さらにmedical schoolに入りたい学生に給与を出して研究に参加させるなんてこともしていました。何をするにしても予算がなければ進みませんし、こういった資金を獲得できなければそのチームは解散せざるを得ない場合もあります。現に、私の友人はアメリカに2年の予定で留学したものの、資金が途絶えてボスがチームを維持することが出来なくなったため、半年で帰国する羽目になりました。

 さて、長々とR01についてしゃべりましたが、今日のテーマはこのことではなく、世に流れる医療情報の信頼性についてです。津川先生は本職ではBMJやLancetなど、超一流のjournalに研究成果を発表されている超優秀な先生なのですが、一方で日本人向けにわかりやすい科学的なevidenceに基づいた医療情報を著書として出版されています。私も何冊か読ませてもらい、結果として我が家の食卓からは白米やうどんが姿を消し、全粒粉パスタやナッツ、オリーブオイルなどを中心とした地中海食が並ぶことが多くなりました。ご自身がhigh qualityのevidenceを作っている立場であるので、逆にどのようなevidenceが本当に信頼するに足るのかという目利きの能力も図抜けて高いのだと思います。

 他方、世の中、特にネットやSNSの世界では、信頼性の点でどうかなぁと疑問符が付くような発信者も少なくありません。そして、そういう人たちは『世の中のmajorityとなっているわけではないけど、実は正しいことが見えているんだゼ』という、評論家のようなpositionをとってコメントしていることが多いように思います。私見ですが、医学に関するコメントで信頼できる発信者の条件は

信頼度の高い医療情報発信者
1. 自分でEvidenceを実際に作って発表した経験が豊富。
2. もちろん英語情報を問題なく読みこなすことができる。
3. 利害関係がきれいで商業的な要素がないか無視できるくらい少ない。
4. デマを流すことによって失うものが大きい。

といったところではないでしょうか。

 1については『論文を読んで解釈できれば十分じゃないか』という人もいるかもしれませんが、これは結構大事なことだと思っています。というのは、私もいくつか研究というものを自分で立案してやってみた経験がありますが、自分でやって初めて世にあふれる論文に書いてあることがなぜ書いてあるのかがわかったということがたくさんありました。サラッと書いてあることを実際にやるのにどのくらいの労力が必要なのか、これが出来ていないからこういう風に書いてあるのか、といった塩梅というものは、実際に手を動かした人にしかわからないと思います。

 2については、世の中には『日本語でもいろんな教科書や論文があるから、英語にこだわる必要はない』という人たちがいたりしますが、これはナンセンスだと思っています。何が悲しくて世界中に溢れる有益な情報を無視して日本語だけで学問をしないといけないのでしょう?英語で情報収集できないという人は、スタートラインに立てていません。

 3については、近年重要性を盛んに言われているCOI以上に、各人の立場というものも考える必要があると思っています。ネット芸人的な活動をしている人たちは、どうしてもキャッチ―な話題をセンセーショナルに伝えたくなるものだと思いますし、もしかしたら自分が関係している活動との関連でbiasが入ることもあるかもしれません。

 4は、これは非常に大事なポイントだと思っています。例えば、厚生労働省や各学会が発信している情報は非常に信頼度が高いです。これは、その組織にとって真実でないことを発信することによるデメリット、失う信頼を考えれば、適当なことは絶対に言えないからです。

 もちろん、だからといって何も持たない一介の個人の発信には全く意味がないということではありません。個人の独自の視点や解釈、理解に共感したり納得したりすることは多いし、自分に近い目線の誰かの意見というものは、それはそれで参考になります。かくいう当ブログもそういうものですし。この記事で言っているのはあくまで『信用できるかどうか』ということであって、『正しいかどうか』ということではありません。根拠はなくても結果として正しいことは山ほどありますし、evidenceとはあくまで過去のdataであり、後日否定されて塗り替えられることもよくあるものです。

 そういう意味では、『医師が勧める…』と銘打った健康器具や胡散臭いダイエット法や食事法だって、効果が示されることがあるかもしれません。科学的に証明されていないこと≠効果がないことですから。もっとも、医師であること以外に取り立ててみるべきところのない人が勧めるものなんて、胡散臭い商売の臭いしかしないので私は絶対に使いませんけどね。そして、津川先生のように、間違ったことを言っても百害あって一利なしで、そんなことしなくても十分成功者という立場の人が善意で教えてくれてるとしか思えないevidenceを大事にしていきたいなと思います。


 まとめ

・津川友介先生が獲得したR01の研究費はすごい。
・医療情報で信用できる発信者の条件は、evidenceを作ったことがある人、英語で情報を取ってこれる人、COIがきれいな人、嘘をつくデメリットが大きい人。
・どんなに信用できる人が言ったことでも間違っていることもあるし、逆もないとは言えないが、真にscienceに造詣が深い人の言葉を信じていきたい。

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