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初めての解剖学実習

 今、僕は大学の二年生だ。大学生らしく友達と深夜まで遊び、飲み会にもよく参加し、アルバイトもする。ただ、他の大学生は経験できないことも経験させてもらっている。その最たるものが、解剖学実習だ。解剖は医学生の中でも一大イベントである。親戚のお葬式にすら参加したことがない僕は、ご遺体を見るのも初めての経験だった。

 ちょうど一か月前、解剖学実習が始まった。解剖専門の教室に集められた僕たちがまず目に入ったのは半透明な厚めのビニール袋である。そのビニール袋が4人1グループのテーブルごとに1つずつ置かれていた。解剖教室のテーブルには、特殊な機能があり、テーブルの間から風を送り、気化したホルマリンが生徒に曝露しないようにするためだ。(それでも匂うけど)そんな少し肌寒い教室の中、解剖学実習は始まった。ビニール袋にはチャックがあり、そこを開けるところから始まる。教授の合図でチャックを開けると、布袋にくるまれたご献体があった。(いよいよか。)僕たちは、お顔を隠したままゆっくりと布を剥がした。そこには、痩せた女性の姿があった。肋骨ははっきり浮き出て、お腹はポッコリ凹んでいた。僕と同じ班の女の子が(顔もいく?)というような目で僕を見た。僕は躊躇った。初対面というのは生身の人間であっても怖い。それがご献体ならなおさらだ。それでも僕は頷き、布をそっと剥がすと、目が半開きで歯がほとんどないおばあちゃんの顔があった。やはり人の顔というのは、その人の人生を語るものだ。(このおばあちゃんはどんな80年間の人生を送ってきたのだろう?どんな思いでご献体を提供してくれたのだろう)色々と想像すると、僕はこのおばあちゃんに対して感謝のきもちでいっぱいになり、目が熱くなった。

(僕たちのために体を提供してくれてありがとう。今日もたくさん勉強させてもらいます。)解剖が始まる前と終わりの黙祷では、必ず心の中でそう呟いている。

 今度は、もっと掘り下げていきたいと思う。

ほな また

(サムネの画像は、アイスマンというミイラの画像であり、本当のご献体はもっと肉付きが良く、脂肪もあり、生身の人間に近い。)

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