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球団ヒストリー54.九州制覇、選手の声

九州制覇、全国へ!

北九州大谷球場での記念撮影!

ここまで2話にわたって第37回全日本クラブ野球選手権大会九州予選優勝について書いてきた。
球団ヒストリー52ではスコアブックから読み解き、ヒストリー53では報道された記事を紹介させていただいた。

改めて、この大会の結果は以下の通りだ。

初戦:2012年8月4日(土)
○ 3ー2 福岡ベースボールクラブ

二回戦:2012年8月5日(日)
○ 6ー5 BAN BASEBALL CLUB

準決勝:2012年8月6日(月)
○ 4ー2 宮崎ゴールデンゴールズ

決勝:2012年8月6日(月)※ダブルヘッダー
○ 2ー1 ビッグ開発ベースボールクラブ

生の声

そして出場選手からリアルなお話をお聞きすることができた。
前年に入団し、就職斡旋もあってチームの核となった捕手、北迫太樹さんだ。

この大会4試合すべてにマスクをかぶりフル出場した北迫さんは、マウンドに立つ投手の球のキレも、相手チームの打者の大きさも、すべてを間近で見てきた。

特に決勝、ビッグ開発ベースボールクラブ戦について詳しく話してくださった。

無双状態

試合前に対戦相手であるビッグ開発に対して感じたのは「こんなに小さかったっけ?」ということ。

この約2か月前に都市対抗予選で対戦し敗退したときにはそうは感じなかった。
でもこの日はずいぶん小粒に感じられたそうだ。

さらに「普段ならバッターボックスに立つ相手バッターの顔って覚えてるんです。でもなぜかこの日は覚えてないんですよね」。
それどころかみんな同じように見えたそうだ。「なんならパワプロ(野球のゲームソフト)のキャラクターみたいに見えた」んだとか。

最初からそんな無双感があったこの決勝。

他の選手も遠からず感じていたようで、この日の先発である松元亨輔さんはこれまでで一番よく、「良すぎて点を取られる気がしない。見たこともない球が来ていて捕球しづらいくらいだった」というから、ゾーンに入っていたのかもしれない。

そういえば、この日の3番打者田上幸司さんも「負ける気がしなかった」と話しておられた。

3回に先制を許すも、「1点なら取り返せる」という不思議なほどの自信があったそうだ。

案の定、6回に2点返して逆転。

この時点で2ー1という最少得点差だが、北迫さんは「今日の(松元)亨輔なら1点あれば十分」と思っていたそうだからすごい。

当の松元亨輔投手は「8回から急に力が入らなくなった」そうで、ベテラン竹山徹選手と交代するが、試合はそのまま逃げ切り優勝。

伏線

もちろんただこの試合だけがよかったわけではない。
この決勝をこれほどまでに落ち着いて進めるための伏線があった。

対戦するビッグ開発は機動力のあるチーム。
1塁に出ればすかさず次の塁を狙ってくる。

「お前のセカンド送球が鍵だな」
そう言われていた捕手の北迫さんは、ダブルヘッダーだったこの日の一戦目(第二試合)、強肩を見せつけ盗塁を阻止している。

第一試合で決勝進出を決めていたビッグ開発の選手は、スタンドでそれを見ていたことだろう。
刺される可能性が高いと踏んだのか、決勝で盗塁を仕掛けてくることは一度もなかったという。

つくづく野球って心理戦。
そんな決勝前の伏線もあっての優勝だった。

号泣のベテラン陣

優勝の瞬間、喜びを爆発させた鹿児島ドリームウェーブ。
しかしその後の様子はベテランと若手で全く違ったようだ。

大エース竹山さん、主将である芹ケ野拓さん、中軸の中馬翼さんなど、ホワイトウェーブ時代からチームを支えてきたメンバーは号泣していたという。

精神的支柱でもあった2期メンバーの大内山渡さんは、無双感のあった若手に対して「そこまでの自信はなかったですね。なにが起こるか分からないと最後まで思っていた」と話しておられた。

多くの試合を経験してきたからこその緊張感。
おかげで浮き足立つこともなく最後まで集中力は切れなかった。

そして優勝。
解散の危機を乗り越え、このメンバーで勝ちたいと願い、続ける選択をしたからこその涙だったのだろう。

あぁ、その場に立ち会ってみたかった。

バランスのいい、まとまったチーム

かたや北迫さんは「涙は出なかった」という。
「この人たちなら勝って当然だと思って」。

北迫さんはこう続けた。

「ホワイトウェーブ時代からずっとチームを支えてくださっているベテランが揃っていて精神的に支えてもらえたことで、自分たちは野球に集中できました。
頼りになる先輩方と、がむしゃらな若手。
すごくバランスのいい、まとまったチームでした。
恐れるものはなにもなかったですね」

この年に新加入した投手の松元さんも当時のことを「とにかく楽しかった」と表現しておられたのは、つまり”野球に集中できた”ということなのだろう。

「これなら毎年でも全国に行けそうだ」
そんな気持ちにすらなったらしい。

感動写真の裏話

感動的な話で着地したところだが、これぞリアルという裏話を伺ったので記しておきたい。

8月6日、真夏のダブルヘッダーだったこの試合。
どれほど暑かったかは想像に難くないところだが、その熱さの影響をプロテクターを着け続けている北迫さんは特に感じていた。

それはなんと”股ずれ”!
1試合目の後半から痛みと戦っていたんだとか。
「擦れるところ全部擦れてました」

実はこの決勝戦のお話、ほとんどすべてにこの股ずれのネタが絡んでいて爆笑し続けていた。

マウンドで抱き合う竹山さんと北迫さんはじめ選手たち

そしてこの感動的な優勝の瞬間。
「ほんとは僕、抱き合ってちゃダメなんです。
最後の打者は内野ゴロだったからファーストのバックアップに走ってなきゃいけないんだけど、痛くて走れなかった」

この最高の写真にそんなオチがつくとは!
しかしこれぞ現場の話。
そんな痛い思いをしながら、2試合で計4時間13分もの間、プロテクターを身につけ続けていたわけだ。

その日のシャワーはさぞ痛かったのではと尋ねると「いや、気持ちよかったです!」
優勝の余韻は、全身の擦れた痛みも凌駕するものだった。

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