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介護職の専門性 後編

 

 前編では、重度障害者が自宅で受けられるヘルパーさんのサービスについて、特に【重度訪問介護】というサービスのこと、その「働き方改革」的な新しい捉え方のことを書いてきました。

 後編では、障害者支援での介護職員の方の働き方やその課題と向き合っていくために社会に何が必要かということ、より優しい社会にしていくために介護職に求められる知識技術や専門性について少し考えてみたいと思います。


 平成12年の介護保険法施行以降、訪問介護事業所(ヘルパーステーション)はデイサービスなどとともにたくさん増えました。ヘルパーの資格も主婦が少し研修すれば取れると人気で、免許を取得する方が急増しました。そして訪問介護事業所さんの中から障害者の訪問支援もしようと手を挙げてくださる事業所さんもずいぶん増えてきました。それはとてもありがたいことです。

 ですが、同じ介護職であってもケアマネジャー(介護支援専門員)などの厳しい免許更新制度や研修体系とは違い、ヘルパーなど介護職員の職能団体活動はそれほど活発ではないようです。我が市ではヘルパーの現任研修の機会はおろか同じ職能の人同士の交流の機会さえとても少ないと聞いています。忙しすぎて交流する時間さえ取れないのかもしれません。

 だから、他の事業所の方との知識の共有もないので情報収集もなかなか思うようにいきません。事業や制度の正しい知識も持たないヘルパー事業所も実はたくさんあります。結果、障害福祉事業の見かけ上の報酬単価の低さにしか目がいかず、制度の仕組みや目的・その業務への理解がいただけず、障害者支援に及び腰になっている事業所が多いとお見受けします。これらの理解を深める研修会の機会というのが希薄なのだと思うのです。もっと介護職能の方々に【重度訪問介護】や【障害者支援】というものを正しく知っていただきたいですし、ちゃんと目的や意義を知っていただければ事業所参入も進むのではないかと思うのです。

 また、高齢者介護・障害者介護という専門性の問題もあります。

 いうまでもなくヘルパー(介護職員初任者研修修了者)の資格があれば高齢者支援も障害者支援もできます。でも、高齢者の訪問介護でいくら大ベテランのヘルパーであっても、高齢者の支援と障害者の支援はずいぶん違いますので、障害者支援では新人さんです。障害者支援は、その方の年齢に応じた発達課題が重要になってきますし、障害の理解も必要になります。行動障害のことも対処法も学習しなければ絶対に対応不可能なことも多いのです。私は、看護大学などでお話しさせていただくときには、先生方や学生さんたちに、『【障害看護】は、【成人看護】【老人看護】【小児看護】【認知症看護】【地域看護】【がん看護】などのように一つの学問体系としてぜひ系統立てて学習していただきたいほど専門性が問われる学問です』とお話しし続けています。

 何より、『前編』でも書きましたように、なっちのような若いエネルギーで最大の力で抵抗すれば、少しお年を召したヘルパーさんなら力負けしてお互いに転倒してケガをすることもあります。男性の障害者だったら尚更です。なっちの担当ヘルパーさんが、とても身体を鍛えているとは思えない60代後半~70代の女性だった時はさすがに我々がヘルパーさんの身体を心配しました。なっちもヘルパーさんもお互いに「怪我させました」じゃ済まないですからね。

 また、【行動障害】の知識が不十分で、本人の病気や人格のせいにしたり親の育て方のせいにしてしまう支援者など論外です。ですから、同じ【ヘルパー業務】であっても、障害者支援に携わるときには相応の現任研修・追研修はしっかり受けていただきたいですし、障害者支援のスキルや、障害者のための制度もきちんと理解したうえで専門性を発揮していただきたいと切に希望します。

 難しいことを、偉そうに、そして贅沢を言っているように聞こえるでしょうか?

 じゃあ、ちょっと例を挙げてみます。

 私は看護職だったので例えがつい看護や医療になってしまうのですが、言ってみれば、こどもや新生児の看護に長けた看護師がいくら大ベテランでも、大人の胃腸や肺や心臓の外科手術後の急性期ケアを満足いく手法でしてもらえる安心感はありますか?または、眼科や耳鼻科の医師も全身を診ることができますが、骨折や脊椎のヘルニアを整形の医師と同じくらいに診てもらえる気がしますか?ってことと同じように、【専門性】があると言っているんです。

 私たち障害者やその家族は、高齢者支援しか知らないヘルパーさんだと、実はとても怖いのです。知識技術もですが、『わかってもらえない怖さ』があるのです。

 新人さんでも構いません、これから一から学んでいこうとさえして下されば。でも意外と多いのが『ワタシ経験豊富なんです』というベテランさんの慢心が見える支援なのです。


 もう今は、高齢者介護も障害者支援も『してもらっているだけで感謝しなさいよ』というような乱暴な発言をされる時代ではなくなったと信じて、あえて私見である率直な意見を書きました。

 その職に責任や誇りをもって専門性を追求して一生懸命に支援してくださっている支援者さんがどれだけ素晴らしいかを身をもって体験し、その専門性に救われ、ありがたいことと感謝しない日はありません。だからこそ、受ける側も「してもらえるだけでありがたい」のではなくて、もっと質や中身に言及してもいいような気がします。

 介護職の皆様方には、素晴らしい仕事ぶりにもっと誇りを持っていただきたいし、ご自身の職能としてどんどん高め合っていただきたいと思います。ひいては職能の価値を高め、それが社会的な認知度に反映され、高報酬につながる日も近い将来来るかもしれません。

 今はそれなりの社会的地位を確立している職種がはじめは虐げられていたなんてよくある話です。看護職だってそうだったはずです。私の母(昭和一桁生まれ)の時代があり、私(昭和40年代生まれ)の時代がある。ナイチンゲールだって看護など貧しい家の娘のする仕事と言われていましたし、母の時代、日本もまだまだそんな時代で看護は身分の低い者がする仕事だと父親(私の祖父)に反対されたと聞きました。私の時代には専門職として一定の認知度はありましたが、それでも、乳飲み子を保育園に預けて三交替勤務するナースを、社会の中ではまだまだ冷たい眼差しで見ていました。看護職が今の社会的地位と収入を得られるようになるための歴史は並大抵ではなかったはずです。(今も十分ではないかもしれませんが、それでも賃金は格段に改善されましたよね)看護職が医師の小間使いと虐げられ3Kとも8Kとも言われた暗黒の時代に、誇りと笑顔で越えてきた先人たちの向上心や努力があってこそ、今があると私は思っています。

 だからこそ、今、世間の認知度的にはまだまだ虐げられているとしても、介護福祉職のみなさんに、今の低賃金や社会的地位の低さで投げやりになったり仕事の質を下げてほしくないのです。

 『まさか、そんな。ケアの質を下げるなんて!』と思われるかもしれませんが、実際、高齢者支援ならばケアマネや本人・家族からの苦情を恐れて真面目に仕事をするけど、障害者支援ならば売り手市場でもあり本人が苦情も言えなかったりしますので、遅刻やドタキャンがまかり通ったりする事業所が結構な割合で存在します。残念なことです。

 でも、ほとんどはそんな方達じゃないのです。障害者支援をしてくださっている方々の素晴らしい仕事が間違いなく社会を支えている。誇り高き魂に、笑顔に、心意気に、生きる力をもらっている人たちがいます。支援いただくことで彩られている人生があります。そして人生が彩られた障害者本人のピュアな笑顔はまた、巡り巡って社会の方々の豊かな生産性に繋がっているはずなのです。

 専門技術職の方には、見かけの報酬に目を奪われることなく、仕事の意味や目的、その業務の遂行のために必要な知識を自ら得ようとしていただいて専門性を高め、ご自身の得意分野でその力を如何なく発揮していただけたら嬉しいです。

 そして行政や政治、職能の地位向上のための団体活動をされている皆さんには、専門技術職の自己研鑽や向上心を支える研修システムや仲間同士の交流の場の構築・提供をしていただきたいですし、それら自己研鑽や向上心をもつ専門技術職者に対し、正当な評価や報酬が支払われるような仕組みを本気で考えていただきたいなぁ、と、心から願っています。


 まだまだ同世代の方の平均賃金も得られない現実にあって、この職で笑顔で働いてくださっている方に、衷心より感謝申し上げます。

笑顔が増えるための活動をしています。 いただいたサポートは、稀少疾患であるアンジェルマン症候群の啓蒙活動、赤ちゃんから高齢者まで住み慣れた地域で1人でも多くの方が笑顔になるための地域活動の資金として大切に使わせていただきます(^^)