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タイムスリップした日の珈琲の香り

 2017年にブログで書いていた記事を引っ張り出してきてnote用に再掲してみました。保健室Caféが生まれたきっかけの一つになったかもしれない3年半前の体験です。

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 話は、私が中学高校生だった頃に遡ります。

 私の父が勤めていた会社(川崎重工神戸本社)が神戸駅北側の日本生命ビルにありました。(今は買収されてJRビルらしいです・・・)
 1968年竣工の、白いタイル張りの外観が美しいビルです。

 私立中学に通っていた私は、父の車で父と一緒に家を出て通学すると神戸に早くに着きすぎて、父によくこの本社ビルの近くの喫茶店に連れてきてもらっていました。

 早朝から開店していたその喫茶店で、父はいつも、マスターが都度淹れてくださる珈琲と、フロインドリーブのハードトーストを私にも頼んでくれました。

 私にとっては、今でもフロインドリーブのハードトーストは、このお店で食べさせてもらった厚さなのです。
 それほど鮮明に記憶に残っている光景です。

 時は移り、神戸駅の南側にはメリケンパークやハーバーランドができて賑やかに華やかに栄え、駅の北側はむしろ弁護士事務所などが多く、少し落ち着いた穏やかな雰囲気になりました。

 父の会社も今は別の場所に移りニッセイビルに来ることもすっかりなくなってしまいました。

 その後父は定年を迎え、私も学校を卒業し、神戸や三宮の街を歩く事はあってもこの静かな駅の北側をゆっくり散策することはなくなってしまったのです。

《あの喫茶店はその後どうなったのだろう》

 その喫茶店は、折に触れて私の記憶をくすぐりに脳裏に現れるのだけれど、それを確かめるために足を向ける機会はないままに30数年が過ぎてしまいました…。そんなに遠くに住んでいたわけでもないのに…。

 今日(12日)と明日(13日)、違う種類の研修がたまたま二日続きとなり、夫と息子の理解もあって神戸駅の近くのビジネスホテルに泊まることになりました。【※2017年10月当時の研修です】

 だから。
 ずっと心に住み続けていたあの喫茶店を探してみたのです。

 ニッセイビルの記憶も曖昧。
 まして、この喫茶店の名前もわからない。
 場所の記憶も曖昧。
 30年の時が流れているのです。もうないかもしれない、と思ったりもしました。

 でも。
 あったのです!

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 店内の雰囲気の記憶だけは鮮明なので間違えようがありませんでした。
 吸い込まれるようにお店にお邪魔してみました。

 マスターはお若くみえるので、あの頃の方とは違います。
 でも、静かで柔らかであたたかな物腰の気さくな方。

 一見するとbarのような、薄暗くて雰囲気のある奥行きのある細長いお店。カウンターと2テーブルのみ。種々のこだわりの珈琲とトーストとチーズケーキなどしかありません。
 軽食もない『珈琲館』。
 値段もあの頃のまま、なんと珈琲350円。


 『このお店、もうここでされて長いんですか?』と、尋ねてみました。
 するとマスター、お父様の代からで、来年で50年になると教えてくださいました。

 あぁ、間違いない。
 フロインドリーブのハードトーストの話も、ニッセイビルも、朝早くから開いている開店時間も。

 フロインドリーブはお店が移転してしまって、今はもうここのトーストはフロインドリーブのハードトーストじゃないそう。でも、マスターは懐かしそうにその頃の話をしてくださいました。

 そして、まだ開発前だったハーバーランドにステキな煉瓦造りの『オールドスパゲティファクトリー』というアメリカンスパゲティのお店があってね!と言うと、それはまだありますよ!と目をキラキラさせて教えてくださいました。

 父は美味しい珈琲と美味しいパンには目がなかったので、きっと私と一緒じゃなくても毎朝のように通っていたのでしょう。

 マスターは私とひとつ違い。同世代の方でした。父とマスターのお父様はおそらくやはり同世代だったのではと思います。だから、それほど喋らずとも気が合ったのかもしれないなぁ、と思いました。

 亡き父に会えたみたいに嬉しく、同世代のマスターと同じ記憶でたくさん話せたことが嬉しくて、2人で『30年前にタイムスリップしたね』と、閉店時間を30分過ぎてしまっていることも忘れてたくさんたくさんお話をしました。

 この記事を始めて書いたのが2017年。それから3年と少しの月日が流れました。今でもこの時のことを思うとほんのり心があたたかくなる風景と記憶です。

 あまりにも素敵なひとときだったので、しばらく足が遠のくとついまた行きたくなります。

 私が、保健室cafeを開き、美味しいコーヒーをお淹れしてお客様をおもてなししたいと思ったきっかけは、この時この珈琲館に再会し、想い出のコーヒーの香りに魅せられたのも一つのきっかけだったと思うのです。

 また久しぶりに行ってみたくなりました。

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