重度知的障害者と選挙

 障害者福祉が福祉職の皆様の弛まぬ努力やお働きお気持ちで成り立っていることは言うまでもありません。

 それでも、プロの皆さんが逆立ちしてもどうしようもないこと、例えば介護報酬のことや制度の施行のことなど、最終的には政治や行政に投げかけて改善をお願いするしかないこともたくさんあります。

 障害者問題は、絶対数が少ないから政治への働きかけはなかなか進みません。かと言って自分たちのことを受け身で人任せにできるほど障害者たちは今日の生活に余裕があるわけではありません。自ら立候補して政治に参加したり、執筆や講演などで活動している障害者も少なくありません。

 しかし、娘のような重度の知的障害者は自分から積極的に行動を起こすことはほとんど不可能です。ですが、彼ら彼女らも自分にできる精一杯の方法で社会参加しているということを今日はお伝えしたいと思います。


 我が家は私たち夫婦、24歳の息子、21歳の娘、全員必ず選挙に行くことにしています。投票日に用事があれば期日前投票に必ず行きます。

 だって、首長さんや議員さんは、私たちが納めた税金の使い道を考える人たちですよ?
 自分でちゃんと選ばなきゃね。

 事前に情報収集してもどうしても入れたい人がいなければ誰の名前も書きません。『白票』を入れに行きます。

 娘なっちも18歳の時に県知事選挙で投票デビューし、これまで4回投票に行きました。

 障害者の選挙については、特に『障害者差別解消法』が施行された現在にあっては『合理的配慮』がなされなくてはなりませんから、選挙事務に当たってくださっている公務員さんの支援で投票できることになっていますが、それにはいろいろと細かい決まりがあります。

 書字ができない知的障害者の場合も、書くという行為については、会場にいる市役所の職員さん二人がついて代筆者になってくださいます。

 ただし、誰に入れるかという意思決定は本人がしなければなりません。
 親がメモを持たせたり、一人の人しか指せないような紙や写真を持たせたりしてはいけません。

 でも、なっちのように読字もできない場合、候補者一覧が全て文字だと、読むことができません。彼女は、せいぜい画像で判別するのがやっとなのです。

 そこで、前もって選挙ポスターの掲示板に行って、候補者全員の顔写真を撮影し、なっち用の候補者写真名簿やカードを作成します。これはOKなんです。

画像1

 その候補者全員の写真と共に、なっちを選管の市の職員さんお二人に託します。
 市の職員さんがなっちにどの人かを尋ねます。
 なっちが二度聞かれて二度とも同じ人を指すことができれば有効票になります。尚、持ち込んだ資料は、ほかの人にも見ることができるような状況で大きく広げることはできません。少し離れたところでこっそり職員さんと見て選びます。(他の人が見てしまって、それがその方の投票行動に影響してはいけないからです。)

 職員さんがなっちという存在に戸惑い、コミュニケーションの取り方が覚束なくてうまく聞いてくれなければ、それだけで本領発揮に至らないかもしれません。投票所の混み方次第では集中力に欠けてしまって誰の言うことも聞けずに走り回ってしまうかもしれません。候補者が多かったらそれだけで2度同じ人を指すのは至難の技です。

 それに、選んだとしても、もしかしたらただのインスピレーションかもしれません。
 でも、それも大切な1票なんです。

 なっちのような知的障害者は、その卓越した感性がありますので、写真のちょっとした表情からでもその人の本質を見抜いているかもしれません。

 会いに来てくれたり、彼女に興味を持って優しく接してくれたり、イベントなどで一緒に触れ合ってくれた議員さんであれば高い確率で選ぶことができます。

 なっちにしかわからない判断基準でちゃんと選ぶんだろうなと思っています。

 もしもうまくいかなくても『白票』なんです。
 『白票』というのは『投票率』に入ります。
 投票しない人よりよっぽど、社会の一員として政治に、そして社会に参加していることになると思っています。

 

 小さな田舎町の小さな投票所で、いつもなっちのために二人体制で根気強くご支援くださる市職員さんに、心より感謝申し上げます。


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最後までお読みいただきありがとうございました。

地域の保健室をしつつフリーランスとしてお仕事している笑顔大好きなつままが、重度障害であるアンジェルマン症候群のキュートな娘との豊かな生活と、医療や福祉について思うこと、日々の小さな気づき・感動などを綴っております。

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