生後7日の息子へ まだ会えていない父親より
こんにちは、初めて手紙を書きます。僕は君のお父さんです。
今日でお母さんのお腹から出て1週間だね。
お母さんの外の世界はどうだろう?
毎日たくさんミルクやおっぱいを飲めるようになったそうだね。
お母さんは君のことをたくさん可愛いと言っているよ。
僕もLINEで写真や動画を送ってもらって、君のことをいつも見ています。
毎日少しずつ顔が変わっていて、いつもとても可愛いです。
お父さんは、東京というところに住んでいます。
東京は君がいるところからはずいぶん離れた場所なんだ。
いま、東京や他の大きな街では「ころな」という厄介なやつが流行っています。
僕たちが「ころな」にかかると多くの場合は風邪ぐらいで済むんだけど、時々命に関わるような重症になる人もいて、特に持病がある人やお年寄りの人たちは重症になりやすいと言われているんだ。
ここからが大切な話。
この年末年始、お父さんは君に会いに行くことを楽しみにしていたんだけど、「ころな」のせいで君には会えないことになりました。
理由は、東京で「ころな」が流行っていて、万が一そっちにいる君やお母さん、おじいちゃんやおばあちゃんに僕がうつしてはいけないと思うからなんだ。
特におじいちゃんは、たくさんのお年寄りをみているお医者さんだから、もしおじいちゃんが「ころな」にかかるとお年寄りが危険な目に遭うかもしれない。
君が生まれた12月21日、僕は必ず君に年末には会おうと思っていたんだ。
だけど、東京の今の状況やおじいちゃんのことなどを考えて、今回はお父さんは君のところに行かないことにしました。
「行かないことにしました」という文字を読むと、鼻の奥がつんとする。
誰よりも君に会いたいのに、会えないことが辛いんだ。
だけど、必ず君を迎えに行くから、その時まで待っていてほしい。
お母さんやおじいちゃんおばあちゃんの言うことを聞いて、いい子にしているんだ。
男同士の約束だよ。
あと、君の周りの人の中には年末年始に東京など他の地域から帰ってくる家族もいるだろう。
一人ひとり、それぞれにいろんな事情があるし、中にはもう少しで亡くなってしまう家族に会いに帰る人だっているかもしれない。
だから、その人たちだけずるい、なんて思わないように。
お母さんが撮ってくれた君の写真を、今日もコンビニでプリントして部屋に飾りました。
生まれたばかりの君に会えないことが辛く、寂しく、申し訳ない気持ちでいっぱいだけど、遠く離れたところに君を思う父親がいることをどうか知っていてほしい。
明日も明後日も、来週も再来週も、君が元気に過ごせることを願っています。
また手紙を書きます。
元気でね。
父より
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