見出し画像

対談後記 - エッセイ的起業の息吹を祝福する

GOZENがプロデュースする連載"ソーシャルM&Aという人生戦略"4人目のインタビュイー、TOKYO LOLLIPOPファウンダー髙橋史好さんとの対談後記。

考えても考えても自分が楽しいからこの事業をしているだけでしたし、言ってしまえばもう起業家という職業への憧れとか、インドで見た生活への憧れだけだったので、昔はコンプレックスを感じていました。
(中略)
最初から大志や「自分の人生のテーマとしてこれを解決する」みたいなものがなくても続けていたり、誠実に一個一個向き合っていれば、結果そういう尊いフィードバックが返ってくる。それによって満たされてきてからは、あまりコンプレックスを感じることはなくなりました。

インドでJKが見たかっこいい大人像は「起業家」だった / 髙橋史好×GOZEN布田対談(前編)

新しい起業のプロトコルが出てきたなあと感じる。自分が社会人になった2010年代、起業は大きな物語だった。日本からGAFAを超える。途方もない社会課題と真正面から格闘する。地方創生。ロード・オブ・ザ・リングのような壮大な叙事詩的ナラティブが正とされ、原体験やミッションといったワードが跋扈していた。

髙橋さんの起業は、エッセイ的だと思う。M&Aしたyoutube事業に加え、現在のガラスリング、デザイナーズだるまとテーマは散文的、叙情的で、軽快に移ろう。自らの身体性を起点に、好きなこと・健やかと思えることをする。でも読了後に心に残るエッセイのように、どこかに普遍性があって、インバウンドや伝統工芸といった大きな社会的文脈と接続する。それが強力なビジネスエンジンになる。

個人の感性を活かした事業創造は私小説的で、それゆえに「小商い」「スモビジ」になりがちという社会意識があるけれど、髙橋さんは社会的文脈との接続も活かして、M&Aできるほどのスケールと事業の自立性、EXITを志向する。愛読しているという村上隆さんの『芸術起業論』の主張のように、今までの「スタートアップ」「スモビジ」「儲かること」「好きなこと」という既存のコンテクストが孕む二項対立を止揚しようとする起業スタイルは、起業というビジネスカルチャーに新しい概念と価値を提示しうる。叙事詩でも私小説でもない、エッセイ的な起業。

自分は10年代にエシカルファッションをやっていたけれど、異国で貧困の惨状を目撃したことも、人生を支配されるほどのトラウマも、何もなかった。金儲けをするとメビウスの輪のように社会貢献になる、ソーシャルビジネスという概念と回路に美しさを感じて取り組んでいただけで、それを話すとなんともいえない表情をされることも多かった。起業界隈にいたけれど、自分の物語は叙事詩ではなかった。

物語のプロトコルが合わないのは、コミュニケーションしていて苦しい。自分は紆余曲折を経てM&Aという空中戦の極地のような事業ドメインに引っ越し、抽象度の高い美意識を気持ちよく表現することができるようになったけれど、尊いフィードバックを糧に、大きな物語に自分を同化させず、複数の実業をスキップしながら起業家ライフを楽しむ髙橋さんのスタイルはより一般性があるし、凛々しい。

GOZENのテーマは美しさと正しさでメイクマネーだけど、その一つのやり方は、エッセイ的起業だろう。このスタイルはおそらくGOZENのM&Aフィールドのローカルベンチャーやソーシャルビジネス、クリエイター起業とすごく相性がいい。今回のFocus Onの連載で、触発される人が一人でもいたらとても嬉しい。

よく人生の最後に人が後悔することの一つが「仕事のしすぎ」だと言われる。でも、エッセイ型の起業を断続的に続けていったら、あまりそんな風に思わないかも、と思ったりする。起業を幸福なものに、そしてその幸せが一周回って叙事詩的なメイク・ザ・ワールド・ベタープレイスにつながるように。エッセイ的起業の息吹を祝福する。

インタビュー本文は画像をクリック↓

この記事が参加している募集

仕事について話そう

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?