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『日常と非日常を行き来する』参加者レポート(11)

レポート作成者:匿名

「輝くニシンの身をほぐす」

さて、私はそのとき神保町の片隅でにしんそばを食べていた。脂の乗った美しいにしんと、まさに関東といった感じの濃い色のつゆ。左隣と前の席にはその日はじめて会った人。私たちは演劇のことについて話している。私たちはその直前の演劇のワークショップで出会った。

その日の朝、送られてきた会場情報を頼りに知っているような知らないような道を歩いた。私と同じ方向に歩く人、地図アプリを見ながら歩いてる人がみんな、同じワークショップ会場に向かっている人のように見えてソワソワする。若干、道に迷っていた私は、それっぽい人に話しかけようかと思いながらけっきょく手元ばかりを見ていた。
たどり着いた地下の会場は少し不思議な造り。黄色い壁と、白い壁。これは効果があるのか?と思うような貼られ方の防音マット。平場に椅子が円形に並べられ、奥は一段高くなっている。参加の人が来たり来なかったりして、ゆるゆるとワークショップは始まった。

自己紹介。緊張をほぐすシアターゲーム。シーンを立ち上げるワークがふたつ。休憩が一回。

その中で感じたことは、俳優、脚本家、演出家の仕事はシームレスにつながっているんだなという事。特にシーンを立ち上げる際に行うアイデアの交換は、普段自分が俳優として参加しているときに自然にやっていることとも近く、そう考えると俳優の仕事と演出の仕事は相互に影響し合うものなのだと思った。

また、一回完結のワークショップで、どんな風にその場の空気を作っていくかは、それぞれがすごく気を遣っているように感じた。(他の人のことは想像するしかできないが、そんな印象を受けた)。申込時にハラスメントポリシーの共有があったことも、参加者の意識に作用していたかもしれない。少なくとも私には不安をやわらげる要素だった。

いつもそうなのだが、素の時間には緊張し、ワークが始まれば熱中して緊張を忘れた。

それで、にしんそばだ。ワークショップの後に参加していた人に誘ってもらって、昼食をご一緒した。朝、手元ばかりを見ていた私は、昼になってそばを啜りながら演劇の話をしている。それは希望のあることだ。ワークショップの場があればこそ得られた時間で、他の人が食べているレモンスライスも、角煮も、すごく眩しかった。ドラマチック界隈が目指しているものの中に、こういう時間が生まれることもあるのかなって、今ちょっと思っている。


ワークの中で感じたことはまだ消化中のようで、あまり上手く書けませんでした。だからその日、周縁にあった時間のことを書きました。このワークショップでの経験は、長く自分の活動に影響を与えてくれる気がしています。
ご一緒したみなさま、場を用意してくださったみなさま、ありがとうございました。

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