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#5 エルピスー希望、あるいは災いー(2022)-主人公は「岡部たかし」ではなかろうか?

このドラマが始まる際、期待感しかありませんでした。そして予想通り、いや、予想をはるかに超える重厚感に囚われてしまいました。『正義とは?』という余韻を年末年始引きずったドラマでした。

期待の根拠は『カンテレ』&『脚本・渡辺あや』のコラボレーションでした。月曜10時枠のカンテレドラマは、えん罪、既得権益、いじめなどの裏側を露骨に暴くスタイルが特徴的で、なかでも、井上真央さん主演の「明日の約束」(2017年)は、壮絶ないじめ、家族不和、婚約解消、退職スピーチ、自主転勤などが徹頭徹尾描かれたためか、記憶に残り続ける、報われない低視聴率ドラマとなりました。そのカンテレが政治の裏側を描くにあたって、名作朝ドラ『カーネーション』の脚本を手掛けた渡辺あやさんを起用したと聞けば、期待せずにはいられません。

エルピスではえん罪(幼女誘拐犯)が扱われましたが、謎解きや逆転のプロセスよりも、権力から抑圧される演技がとても印象的でした。長澤まさみさん、真栄田郷敦さん、三浦透子さんによる、引きこもりや摂食障害に苦しむ演技にはまさに「災い」が示唆されており、視聴を断念させかねない効果さえ感じられました。

しかしこのドラマで最も存在感を見せたのは、局のプロデューサーを演じた岡部たかしさんでした。どちらかというと、悪人役を演じることの多かった岡部さんが、このドラマでは、メディアへの諦めと希望の葛藤に苦しみながら、また、都落ちを繰り返しながら、後進に希望を与えるという人間味あふれる役柄を見事に演じられました。このドラマを機に、これ以降のドラマで、深みのある配役が増えたのではないかと推測しています。

個人的には、鈴木亮平さんや六角精児さんをもっと絡ませてほしかったのですが、「展開」よりも「人」を視ることに傾注させられたという点で、稀有なドラマでした。コンプラやBPO審査を通して表現が制約される中、長澤さんと真栄田さんによる「災い」、そして、岡部さんによる「希望」が脳裏にずっしりと刻み込まれる良作でした。


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