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#141 向こう岸(2024)-生活保護への偏見を打ち砕く意欲作

NHK紹介文

病気の母と幼い妹を抱え、生活保護を受けて暮らす佐野樹希。将来に希望が持てず看護師の夢もあきらめている。そこに、有名私立中学から落ちこぼれた山之内和真が転校してくる。彼もまた、エリート主義の父親からのプレッシャーにさいなまれていた。そんな2人が手にしたのは「生活保護手帳」。大人でも難解な内容だが、和真は果敢に読解を試みる。そして、ケースワーカーや塾教師など、周囲の大人たちを巻き込みながら、ついに発見した起死回生の一手とは? 樹希の夢を取り戻すことができるのか?

主張をまとめると…

社会のタブーにグイグイ食い込むのがNHK流。受信料等の課題はさておき、ドラマ制作の視点には目を見張るものがある。このドラマの主張を要約すると「生活保護は社会からの投資」「生活保護は義務ではなく権利」という感じ。このメッセージがふたりの中学生から視聴者に投げかけられる。何の予備知識もないまま見た私は瞬殺で釘付け。そんな「強い」ドラマでした。

和真(右)、樹希(中央)、アビル(左)

山之内和真の設定

父親の命により父親の出身中高一貫校を受験し合格するが、中学入学後、すでに能力が枯渇していることを自覚。担任からは「このままこの中学で留年するか、それとも、(公立)中学でやり直すか」を問われ、恥ずかしさのあまり、越境して公立中学に転校する。父親からの圧は強く、転校後も、中高一貫校の高等部進学のため進学塾に通うが、模試の結果は常にE判定。自己効力感を失った状態が続く。

佐野樹希の設定

鬱病を患うシングルマザーの母親の存在に鬱屈しながら、幼い妹の世話や家事に勤しむ一方で、看護士になる夢をあきらめきれず、空いた時間は民間で解放されているスペース(喫茶店の二階)で自習している。学校では友人から「生活保護を受けている≒国民の税金で養ってもらっている」という扱いを受け、ケースワーカーからは「受給は高校まで。その後の進学は不可能」との説明を受け、自身の未来に絶望しかけている。

展開の契機(1)

自身の弱みを樹希に握られ、周囲に漏らさないための交換条件として、和真はアビルに勉強を教えるようになる。はじめは上手くいかなかったが、自身がもともと学習への好奇心が強かったことを思い出し、アビルをほめながら分かりやすく教えるようになり、アビルの反応に応じて少しずつ自信を取り戻す。ある日、塾を無断欠席した和真は図書館で「生活保護法」の書籍を探し当て、生活保護が弱者にとっての権利であること、樹希の母親のケースワーカーの解釈の誤りに気づき、樹希に伝えるが、樹希の無力感は解けない。

居場所での個別指導

展開の契機(2)

和真は生活保護法の一節を分かりやすい表現に書き換え、アビルを通して樹希に手渡す。その一方、樹希は、大学時代に社会福祉を専攻し、卒業後ケースワーカーとして働いていた塾講師(山下リオ)から、生活保護法の真実についてレクチャーを受け、ホームヘルパーを雇う権利を行使するよう鬱病の母親(酒井若菜)とケースワーカー(森永悠希)を説得する。また、看護師になる夢をかなえるため、さらに、高校卒業後も生活保護の支援を受け続けられるよう、高校卒業後は法に則り、世帯分離を行うことを決意する。

まとめ

このドラマでは、生活保護への負い目を過度に背負った家族が偏見から解放されるプロセスが丁寧に描かれています。この奇跡を起こした張本人が学問の楽しさに気づいた落ちこぼれの中学生であり、丹念に法を読み解いた結果であったことが、このドラマを際立たせる鍵になっていました。彼らのその後は描かれていませんが、樹希が看護師になり、和真が法学部に進む未来を期待せずにはいられないドラマでした。こんな良いドラマに巡り会えたのは久しぶりです。

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