#6 奔流の海(伊岡瞬)
最も残酷で美しい青春ミステリー
いいですね、この書評。かなり暗目の物語なんですけど、終盤の幸せオーラの凄まじさを伝えるには最適の表現だと思いますね。
いわゆる過去⇄現在もの
スタートは過去。突然、現在。そして、またもや過去に戻り、徐々に現在とのギャップを埋め、ミステリーの謎解きを進めるパターン。ドラマに例えると、TBS金曜ドラマ「Nのために」「リバース」「最愛」と同じ感じで、読めば読むほどにリアリティが深まってきます。
謎の源流は虐待
社会現象でしょうか?最近この手の物語が増えました。この小説では、さらに踏み込まれており、乳児のすり替え、父から課せられた当たり屋としての残酷な運命、養護施設での虐待、共感し合えた女性の自死、養父のウラの顔など、さまざまな宿命に翻弄されながらも、それを乗り越えていく登場人物の清廉さに救われます。
ポイントは氏名の変化
ネタバレは避けますが、主人公の氏名の変遷に奥深さが込められています。ぜひ一度、味わっていただきたいと思います。
①有村皓浩
②津村裕二
③坂井裕二
④有村皓浩
⑤清田皓浩
最後はロマンス
前半から中盤にかけては悲壮感が漂いますが、後半から終盤にかけては幸せへの階段を一気に駆け上がる感覚で読むことができます。とりわけ、過去から時流を上り続け、すべての謎を解き明かしつつ、現代の出会い(坂井皓浩と清田千遙)に戻る p.445の描写が秀逸です。そして、残り10ページほどの終章で描かれる幸せな展開は感涙もの。残酷な展開は何処、という感じです。
惜しむなくば
難しいのは重々承知の上で、裕二と生みの母・昭代の再会シーンを見たかった。また、虐待児を救うために犯罪に手を染めた坂井隆の死の真相を膨らませてて欲しかった。あれほどの重要人物の死因を玉突き事故とするのはあまりに勿体無い。それでも次は映像で見てみたい。キャスティングは裕二役を北村匠海、千遙役を岸井ゆきのでお願いしたい。