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喜劇 戯曲『Mistero risolto in amore!(恋に落ちた謎解き)』 (1幕第1〜3場)

戯曲の1幕1〜3場をお送りします。キャラクターの個性や楽しい物語が始まる雰囲気をぜひお楽しみください。


主な登場人物
ベニート 20歳 孤児で教会で育った。男らしい性格だが、頑固でひねくれている。アルバーノの兄。
アルバーノ 17歳 孤児で教会で育った。美しい顔をしているが、小心者。ベニートの弟。
イレーネ 20歳 おっとりしていて、恋に恋する乙女。理想が高い。ビアンカとは親友。
ビアンカ 20歳 しっかりしているが、恋などには興味がなく、一人で楽しみたいタイプ。イレーネとはなぜか馬が合う。

一幕 過去と現在の鍵


第一場 市場

幕が上がる

市場にて、下町の人々で賑わっている。様々な屋台が混在している。
市場の女「いらっしゃい!新鮮な果物はいかが?」
市場の男「ピチピチの魚が入ってるよ!」

市場の階段に二人の男がいる。
1人は兄で1人はその弟である。2人は街の男たちの普段着、動きやすい格好に身を包んでいる。兄の方は長い髪を無造作に一つに束ねている。目には若者らしい輝きがあるが、キュッと結ばれた口元からは未来に希望しかない子どもとはかけ離れていることがわかる。長身だが気怠そうに立って力を持て余しているようだ。弟の方は兄より少し小柄で、白く細い手足が若者らしい輝きを放っている。いわゆる美少年という顔つきだが、どこか不安そうな面持ちで、何年もこの表情を浮かべているのだろうと予測させる顔つきである。
アルバーノ(以下、ア)「やっぱり結婚詐欺の役なんて無理だよお、兄さん」(泣きそうな顔で階段に座り込む)
ベニート(以下、べ)「でもここで何か変わらないと…俺たちは一生このままなんだぞ?」
アルバーノ「それは、いやだ!でも、人を騙すなって神父様にいつも聞かされていたじゃないか」
ベニート「お前は真面目すぎるぞ、アル!確かに、神父様は親なしの俺たちを育ててくれて、なんでも教えてくれた。でもな、俺たちが夢のようなリッチな暮らしをするにはまずは大金がいるんだ!」
ア「(リッチという言葉に反応して)うん!」
べ「まともに働いても俺たちにできるのはせいぜい市場で日雇い仕事程度のことじゃないか。力仕事だけじゃ全然儲からねえ」
ア「そうだよね…うーんでもやっぱりずっとこのままで、教会に住みこむ!」
べ「はぁ…アル…いつまでも神父さんに頼っているわけにはいかないだろう?もう俺たち20と17だぞ?」
ア「……分かった!商売をして、いっぱい儲けようよ!」
べ「いや、だめだ。俺たち計算できないじゃん。」
ア「そっかぁ…」(体育座りになる)
べ「とにかく一回大金を手にしたら、もう後は真面目に暮らせばいいから。」
ア「ああ、神様、うまくいきますように…!」
べ「こんなときに神に祈る馬鹿がいるか!行くぞ」

第二場 カフェのテラス

カフェにて、二人の女性が話している。
1人は明るい髪色が艶やかに光り、綺麗な巻き髪をハーフアップにまとめている。女性らしい柔らかい体つきで、ルノワールの絵に描かれるような柔らかな少女のような女性。着ているものには隅々に配慮がなされている、甘美で上品な着こなし。夢見がちに瞳を輝かせている。それを呆れたようにみているのは、黒髪の少女。艶やかな黒髪はまっすぐ長く伸びてきちんと揃えられた前髪が額を隠している。シンプルな装いから細く綺麗な手足を覗かせて、華奢な印象。しかし、弱々しさより、瞳からは意志の強い光と、口を開けば何かを主張しそうな面持ち。

イレーネ「ああ、神様!素敵な人に早く会わせてください、どうか…!」
ビアンカ「だ、か、ら!神に祈っても意味ないわよ、イレーネ。素敵な王子様なんて、この世に一人もいないのよ。ロミオとジュリエットのような恋愛は本の中だけ。」
イ「どうしてそんなに悲観的なの、ビアンカ!私たち、まだ20歳よ?悲観的な恋愛観を持つのはまだ早いわ」
ビ「いいえ、私は悲観しているのではなく、客観的事実を述べているだけなの、イレーネ。王子を待っていても何にもならないわ。女は…一人でも生きていけるわよ」
イ「そうかしら。恋愛の楽しさや幸せは現実離れしているものよ……きっと。」
ビ「きっと…ねえ。」
イ「この歳にもなって恋愛経験がないなんて恥だわ!ああ、もう泣きそう。」
ビ「いいじゃないの、別に。恋に恋しても意味ないじゃない。」
イ「ああ…じゃあビアンカはこのまま誰にも、何にも恋せず人生を終えていいのね?」
ビ「いいわ…私には絵を描くという趣味があるし…」
イ「へぇ~~~?」(ビアンカの目を覗き込む)
二人、目を見合わせる
ビ「もう!!私だって遊びくらいなら付き合ってあげてもいいけど!」

第三場 イレーネの家の前

町外れの草むらで、良い衣装に身を包んだアルバーノと、ベニートが揉めている。

べ「意外といけてるぞ、アル!いかにも男爵って感じだ!これは女が好きなタイプだろう」
ア「いやだよ、こんな服似合ってる気がしない!(首元のひらひらをみる)それに、僕、なんか、女みたいじゃない?」
べ「男爵ってのはひらひらしてるもんなんだ。それに、そんくらいの可愛い感じの男子の方が受けがいいんだ。さ、お前が求婚者役で、女にいいよる。俺は、ムードを作る係。」
ア「いやだ、絶対無理だよ。兄さんの方が女の子に慣れてるじゃないか。」
べ「慣れてるもんか!…いや、別に慣れてないわけじゃないけど…?俺は人をくっつける方が得意なんだ……さ、目当ての女を探しに行こう!」
ア「いやだぁぁぁぁぁ」(ベニート、アルバーノを引きずって行く。)

兄弟は一つの屋敷を見上げている。
べ「金持ちそうな家だ。」
ア「でっかいな~!ひゃ~!いいな~!」
べ「あがってきたか?はは。ここが噂のお嬢様が住んでる家だ。(メモをみながら)そいつは20歳。代々伝わる財閥の娘。美人。……恋愛経験はなし。」
ア「えー、本当かよ。」(怪訝そうに)
べ「ああ、なんでも知ってる市場のおばちゃんに聞いたんだから間違いはないだろう。さあ、もうすぐ帰ってくる時間だ。いい感じに話しかけて話すきっかけを作るんだ。」
ア「え~?!もう始めるのー?いやだよ、それにいきなり話しかけるなんて不審者じゃん!」
べ「ふん、そうだな。よし、俺がきっかけを作るから、話しかけるんだ、作戦は…ゴニョゴニョ…(耳打ちをする)」
ア「なるほど…でも、どうしよう!もし僕がどじったら…!!」
べ「俺がいつもそばで見てるから大丈夫だ!もし助けが欲しかったら…そうだな、『鳩が鳴いた!』というんだ。それが俺への合図。それを聞きつけたらすぐに対応する!」
ア「分かった…やってみるけど…」
べ「わ!早速来たぞ!あいつだ!さ、頑張れ!」
ベニート、草むらに隠れる。
ア「え、お兄ちゃん…ああ、もうやるしかない…」

目当ての女性が歩いてくる。
草むらからベニートが出てくる。
べ「お嬢さん、こんにちは。ちょっと時間ある?」
女性「い、いえ…もう、帰らなければいけないので…」
べ「そんなこと言わずにさあ…な、俺とちょっとこっちに来てくれよ。」(女性の腕を引っ張る)
女性「いや、やめてください…!」
アルバーノが現れる
ア「や、ヤメローーーー!」
べ「ん?なんだ、こいつ?」
ア「その女性を離せ!い、嫌がってるじゃないかー!」
アルバーノ、ベニートを倒す。ベニート、大袈裟に倒れる。
べ「わーーーーーーー!」(走って草むらの方に逃げる)

ア「だ、大丈夫でしたか?」
女性「え、ええ…ありがとうございました…」
ア「あ、あの、その…」
女性「え、ええ…」
ア「い、いや、なんでもないんです、じゃ、じゃあ…」
アルバーノ、去ろうとする。目線の先に鬼の形相の兄が見張っている。
ア「ひ…!あ、ああ!あの!」(女性を呼び止める)
女性「は、はい!!」
ア「ぼ、僕はアルバーノ男爵です!!」
女性「え、ええ…」
ア「あな、あなたの名前は…!!!」
女性、戸惑う。
ア「あ、ああ…いきなり聞くなんて失礼ですよね…い、いいんです…さよなら…」
女性「あの!」(大声)
ア「(驚いて)はい!!!!」
女性「あの、私の名前、イレーネです…!」
ア「あ、ああ…イレーネさん…あ、じゃ、じゃあ…またどこかで会えたら…」
イ「え、ええ…!また、どこかで…」
二人、別れる。
ア「き、綺麗だった…」
ベニート、草むらから出てくる。
べ「どうだったか?デートの約束でも取り付けたか?」
ア「名前を聞いたよ…(心ここにあらず)」
べ「おう、当たり前だ。…で?」
ア「え、でって…あ、またどこかで会いましょうって…!」
べ「…それだけ?!」
ア「うん…」
べ「お前…この調子じゃ結婚まで一年はかかるぞ!」(呆れる)
ア「え、でもそんなグイグイいけないよ、僕…」
ベニート、呆れながらも、ボーッとしている弟を引っ張って行く。

イレーネの家にて、イレーネとビアンカが話している。
イ「絶対、運命の相手だわ!すごくきれいな顔をして…優しかったの…!私を守ってくれた…」
ビ「本当にそんな漫画みたいなことが起きるのね~。しかも、男爵!!よかったじゃない!それに、あなたが良いっていうなんて珍しい。どこの家の人?会いに行ったらいいじゃない!」
イ「名前は、アルバーノ男爵……」
ビ「…で?」
イ「でって…それで、またどこかで会えたらって…(ときめく)」
ビ「…それだけ?!」
イ「それだけって…それだけでも夢のようじゃない…!運命ならまたきっとどこかで会えるわ…きっと!」
ビ「どこの人かもわからないのに無理よ…」
イ「ん?何か言った?(ルンルンで)ああ、ビアンカ…私幸せよ!今から私の人生が始まるんだわ~!」
ビ「ああ、そうね…まあ、応援するわ…」
ビアンカあきれた顔をする。



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