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喜劇 戯曲『Mistero risolto in amore!(恋に落ちた謎解き)』(2幕第12〜13場)

主な登場人物
ベニート 20歳 孤児で教会で育った。男らしい性格だが、頑固でひねくれている。アルバーノの兄。
アルバーノ 17歳 孤児で教会で育った。美しい顔をしているが、小心者。ベニートの弟。                    
イレーネ 20歳 おっとりしていて、恋に恋する乙女。理想が高い。ビアンカとは親友。
ビアンカ 20歳 しっかりしているが、恋などには興味がなく、一人で楽しみたいタイプ。イレーネとはなぜか馬が合う。

第十二場 市場

男 ベニーニョ、アルバーノ。実は、君たちは教会に捨てられた農家の子どもでも、商人の子どもでもない。…王家の王子なのだ。
べ 王子……?
ア 僕たちが?
男 私の国は、滅びた。ベニーニョが生まれる前から、私の弟が力をつけ、軍隊を支配した。妻と私は、自分のお腹の中にいる赤ん坊がいつか危険な目に合うかも知れない。そう考えた。そして、私たちとずっと一緒にいて危険に晒されるより、どこかで生きていて欲しいと。そこで、もし将来離れ離れになってもいつか出会った時目印になるように、私と同じ名前のベニーニョと名付けた。それからの3年間、私の弟がどんどん民衆を苦しめるようになり、それを説得して止めようと試みる時間が続いたが、苦しい中でも幸せな時間だった。ベニーニョの成長を見ることができたからだ。普通の家族のように、過ごせたことが奇跡だったんだ。そして、もう一人の男の子を授かった。
ア それが僕…
男 そうだ。私は自分のような経験を決して息子たちにはして欲しくなかった。王宮の中で比べられ、歪んでしまった私たち兄弟のような…
赤ん坊が生まれると知った私の弟は、何かが狂ってしまったのかも知れない。自分を赤ん坊を投影したのか、自分が育てると言って、私の妻に、赤ん坊が生まれたらすぐ自分に渡すように脅迫した。
イ そんな…ひどい…
ビ 許せないことだわ。
男 そう、許せないことだが私たちには権利も力もなくなってきていた。私たちは考えた。妻が赤ん坊を産んだ瞬間、子どもたちを安全な場所に連れて行こうと。兄弟一緒に、支え合って生きていて欲しい。そして、いつか自分たちが自由になったら迎えに行こうと。妻は、私に子どもたちを王家の力が及びにくい中立な立場の教会に預けるよう頼んだ。遠くの静かな下町の教会に…妻は私の手で預けに行って欲しいと強く望んだ。もう、家来でさえ信用できない状況だったからだ。
赤ん坊が生まれた瞬間、生まれたばかりの赤ん坊とベニーニョを馬車に乗せて急いで国から逃げた。家来の目を遠ざけ、ひっそりと…馬車の中でベニーニョが赤ん坊を”アル”と呼んだ。たったひとりの弟の名前をこれからも呼ぶだろう…。そこから私は、アルバーノと呼んだ。アルバーノ、こうやって、お兄ちゃんが名付けたんだよ。
べ そんなことがあったのか…全く覚えていない。
男 君はまだ3歳になったばかりだったからな…
馬車のなか、私は幸せと不安が入り混じっていた。ベニーニョとアルバーノと過ごせる限られた時間。まだ3歳のベニーニョと生まれたてのアルバーノと別れるのは辛かった…そして、ベニーニョには、すぐ帰ってくる、と告げることしかできなかった…
べ そんな…全く知らなかった…
男 神父様にも真実を詳しく伝えなかった。なるべく早く迎えにいけると妻も私も信じていたからだ。弟を押さえ、国の状態を取り戻し、子どもたちを呼び戻す。そうできるように、計画を立てていた。
ア それで、どうなったの?お母さんは、どうしていたの?
男 (一瞬黙って)王宮に戻った私には絶望的な事態が待っていた。…妻が亡くなっていたのだ。
べ 母さんが、死んでいた…
ア どうして。
男 出産後、急に体調が悪化したらしい。私は嘆き悲しんだ。私の弟は、息子たちを隠した私を責めた。私は息子たちの居場所は教えることができないと告げた。私は弟に捕らえられた。
ア 僕のせいでお母さんは死んじゃった…
べ アルのせいじゃない。
男 アルバーノ、君のせいではない。お母さんはもともと体が丈夫ではなかった。妻が最後に書いた手紙とどこかで息子が健康に生きていること。これだけが私の生きがいだった…17年間、変わりゆく国を捕らわれの身として見ていた。弟の狂った政治に怒り狂う人々…弟は罪のない人々を殺し、絶望的な世界が広がっていった…。弟が生きている限り逃れようがない苦しみの政治が続く…
べ どうして…ここに来れたんだ。
男 17年間かけて人を集め、ついに……弟を殺した。
べ …!
男 分かり合えなかった…。私は国を取り戻したが、たくさんのものを失ってしまった…
べ 父さん…
男 ベニーニョ…!
べニート、父親に静かに抱きつく。
父親、泣き崩れ落ちる。
アルバーノ、2人のもとにしゃがみ込み、父親を覗き込む。
ア 父さん…
男 アルバーノ…
アルバーノ、そしてベニーニョを静かに抱く。
男 私は様々なものを失った。でも、自分の息子だけは、生きていた。今まで、生きていてくれてありがとう。ベニーニョ、アルバーノ。
べ 父さん…!(泣く)
ビアンカ、ベニートに歩み寄る。
2人は抱擁する。
父親、その姿を見て微笑む。アルバーノをイレーネのところに連れて行く。
イレーネ、アルバーノ抱擁する。
ビアンカの父、ベニートアルバーノの父親にうやうやしく礼をする。
男 私は、息子たちを育ててくださったみんなに感謝しています。息子たちが、素敵な方々と出会えた。息子たちを誇りに思います。
父(ビアンカの) さらに深く礼をする。
イ アルバーノのお父さん、みなさん。私の家にいらしてください。全ての謎も、わだかまりも解けました。お祝いをしましょう。
一同、笑顔で顔を見合わせる。
ア うん!行こう!
ベニート、父親、アルバーノをいじりながら、笑顔で、一同はける。

第十三場 教会

2人の新郎新婦が教会で並んで神父の元に立っている。
その隣に、ベニート、ビアンカが見守りながら立っている。

神父 健やかなるときも病めるときも喜びのときも悲しみの時も富めるときも…
アルバーノ はい!誓います!!
べニート (慌ててひそひそ声で)おい!早い!まだだっつーの!
ア えーー、長いよ神父様〜
神父 これが決まりの文句なんじゃ。
べ 昨日練習したろ?全く…
イレーネ はい!誓います!
べ 誓うんかい…
ビアンカ いいじゃないの、2人の結婚式なんだから。
べ でも、「これを愛し」ってとこが1番大切じゃん。
ビ ふーーん。ロマンチックなのね?
べ (慌てて早口で)そういうことじゃねーけど!やっぱり愛し合うってのが大切なんだよ、いや、別に言葉としてな?俺は形式は求めねーから。結婚式だってやらなくたってお互いの…
神父 ベニート、うるさい。
べ はい。
ビアンカ、笑う。
神父 さあ、新郎新婦の誓いのキスを…!
アルバーノ、イレーネ、誓いのキスをする。
イレーネの両親、ベニートアルバーノの父、ビアンカの両親を含めた一同、拍手をする。
神父 では、新郎新婦の希望により、この式は堅苦しくせず、楽しく朗らかに行いましょう。
豪華なケーキが運ばれてくる。
ア わーい!みんな、僕たちが配るよ!
イ 並んで並んで〜!
参列者、嬉しそうに並ぶ。
イレーネの父、ベニートとアルバーノの(ベニーニョ)父に近づく。
イレーネ父 良いのでしょうか、王家のご子息に嫁ぐのに、こんななんというかラフな結婚式で…
父ベニーニョ 良いのですよ。私は、生まれに囚われず、己の愛を育める環境を国の中に作りたいのです。ベニーニョやアルバーノにも王子だからといって何かを強制する気はありませんよ。いずれ、どちらかが国を継ぐことになるかもしれない…。私は自分の考えを、息子たちに伝え続けるつもりです。
イレーネ父 そうですか。立派な国になるでしょう。私にも何かできることがあれば、お手伝いさせてください。娘をよろしくお願いいたします。
父ベニーニョ 任せてください。娘さんを泣かせないようにだけは、目を光らせておきますよ。
二人の父、笑う。
アルバーノ、一切れのケーキを運んで走ってくる。
ア 父さん!父さんのぶんのケーキ…
転んで、ケーキを父にぶちまける。
父ベニーニョ アル……
ア わあああ!ごめんなさい…(笑いが押さえきれない)
父ベニーニョ (笑いながら)アル、イレーネさんをしっかり幸せにするんだよ。
ア うん!僕は父さんと国に戻って、父さんが何をしているか見たいんだ!いろいろなことを教えてもらいたい。イレーネに褒められるような、立派な男になりたいんだ。
イレーネ父 その言葉を聞いて安心しました。さぁ、王様、お召替えを…
3人、笑いながらはける。

イレーネ、ビアンカ、ケーキを食べながら話している。
ビ 綺麗よ、イレーネ。まさかこんなに早く結婚するとはね。
イ ありがとうビアンカ!私、とっても幸せよ…。それに、まさか彼が王子だったとはね。でも、彼が王子じゃなくても、どんな職業の人でも私は彼と一緒にいる道を選んだわ。
ビ あなただったらそうするでしょうね…でもいずれ、彼は王になるかも知れないわよ。そしたらあなたは女王…その覚悟ができてるの?
イ ええ。できてるわ。彼はこれから成長して変わっていくと思う…でも、私もその分彼と一緒に階段を登っていくつもりよ。
ビ それを聞いて安心した。あなただったらなんだってやって遂げるわ。
イ でも、ベニートだって王になるかもしれないわよ?
そこにベニートがやってくる。
べ なんの話?
ビ あなたが王になるかもしれないって話。
べ あぁ。確かになるかもしれないけど、俺はまずはいろいろなことをやってみたいんだ。行ったことのないところに行って、やったことのないことをしてみたい。
ビ つまり、冒険の旅に出るってこと。
イ まぁ!良いじゃない!もちろんビアンカも一緒でしょ?
べ あぁ…
ビ まだその話について返事してないけど。
べ え…一緒に来てくれるよな?
ビ どうしようかな〜砂漠に行って喉が乾いて、北極に行って凍えるのは勘弁だなぁと思って。
(イレーネ、不安そうに二人を見守る。)
べ そんな極端なとこ行かねえよ。まずは、フランスのルーブル美術館とオルセー美術館はどうだ?
ビ フランス…?美術館?
べ 君は小さい頃から絵を描くのが得意だったじゃないか。将来画家になりたいって前行ってたし…
ビ ベニーニョ…行くわ!!
べ 良かった!!
ふたり、抱擁。
イ 良かった…ベニーニョは旅に出た。旅していると見えてく……でもこの旅は、二人の旅になるのね!!
ビ うまいこというのね!
ビアンカ父、母、よってくる。
父(ビアンカ) ビアンカ……行ってしまうのか?
ビ ええ。私、いろんなものをみてみたいの。ベニーニョと一緒に。
父 そうか…。
べ ビアンカのお父さん、お母さん。ビアンカさんと一緒にいさせてください。彼女と一緒に色々なものをみてみたいんです。
母 分かりました。娘をよろしくお願いします。
父 いつでも、帰ってくるんだよ。
ビ えぇ。
アルバーノ、遠くから走ってくる。
ア みんな!そろそろ食事の時間なんだけど…
べ アル、俺たち、一緒に旅に出ることになったよ。
ア わぁ!良かったな、兄さん!どこに行くの?
ビ まずはフランス。
べ 芸術の旅かな。
ア フランスかぁ…イレーネ、僕たちもフランス行ってみたいね!
イ じゃあ、新婚旅行はフランスにしましょう!
ア ナイスアイディア!
4人、笑う。

神父とベニーニョ(父)が出てくる。神父が奥から声をかける。
神父 そろそろ、食事の時間だよ。
4人、笑顔で顔を見合わせる。
イレーネ 行きましょう、アルバーノ。
アルバーノ うん。
2人、歩いて神父のところに行く。
ベニート 俺たちも行こうか。(行きかける)
ビアンカ うん。…あのね、ベニート…
ベニート ん?(振り返ってビアンカのもとに戻る。)
ビアンカ (神父の真似をして)これからも、ビアンカを愛することを誓いますか?
ベニート (少し笑って)はい。永遠に誓います。
ベニート、ビアンカにキスをする。

2人、奥にいる人たちのところに行く。
6人が笑いあっている。照明が落とされ、6人はシルエットになる。

(録音)
過去と現在が交差するとき、忘れていた謎が浮かび上がってくる。
全ての謎が終わった。そう、何かを取り戻したら、また人生が始まる。
これからは、一緒に…


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