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ショチョガマ @8

まだ夜が明けない薄暗いうちから、ショチョガマに乗ったグジたちがチヂンを叩き、静かに祭りの唄を歌っていた。

グジの後ろには捻りハチマキをした沢山の男たちが中腰でその時を待っている。僕も頭に手拭いをギュッと絞め、おそるおそるショチョガマの隅に乗った。

東の空が少しづつ白んできた。それにつれグジの唄も徐々に激しくなっていく。男たちは静かに東の空を仰ぐ。グジの唄と叩くチヂンの音が村中に響く。

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空が焼けてきた。

稲魂がおりた。

グジたちの唄がピタリと止んだ。

僕は足を踏んばり、藁の下から伸びたらロープを握る。

一斉に男たちが「ヨラ!メラ!」と叫ぶ。その掛声と一緒にショチョガマを揺らす。「ヨラ!メラ!ヨラ!メラ!」と叫び続ける。僕も右足(南側)を踏み込み、ショチョガマを揺らす。

ヨラ!メラ!
ヨラ!メラ!

ロープをしっかり握りショチョガマを揺らす。左足を踏んばり右足を強く踏みしめる。

ヨラ!メラ!
ヨラ!メラ!

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リズムをとりショチョガマを揺らす。 ショチョガマが男たちのそのリズムに合わせて少しづつ傾いていく。

ヨラ!メラ!

そして、下から響く歓声と共にショチョガマが南に倒れた。

いや、
反対方向だったかも・・
興奮してわからなかった。


僕がこの日ショチョガマに初めて参加したのは2年前の2018年9月11日。本当は「見る」ために行ったのだが、いつの間にかショチョガマに乗せられて、見る側から「やる」側になってしまったのだ。今年のショチョガマは残念ながらコロナ禍のため中止になった。


アラセツ

奄美大島のお祭りや行事のほとんどは旧暦で行われる。旧暦の8月最初の丙(ひのえ)の日がアラセツ(新節)になり、奄美の新しい一年がはじまる。この日の日の出と共に山で始まるのがショチョガマで、夕刻には海で平瀬マンカイの祈りが行われる。山と海の神様(稲霊)を招き、五穀豊穣と家内安全の祈願をするわけだ

アラセツから7日後の壬(みずのえ)の日がシバサシ、甲子(きのえね)の日のドンガ、このアラセツ・シバサシ・ドンガの三つを総称して新八月(ミハチガツ)と言われている。

この期間は各集落で豊年祭や種おろし(ヤーマワリ)・浜下り(ハマオレ)等の行事が数多く催される。島っちゅたちは八月踊や六長を踊り、そして七夕の飾りを目印に下りてきた先祖の霊は十五夜の晩に再び天へと戻ってゆくのだ。

秋名で行われるショチョガマと平瀬マンカイはこのアラセツ行事の中のひとつで、国の無形重要文化財に指定されている。

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