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観戦記【井上vsバトラー】で見えた課題と井上第三章への期待

試合が終わりました。
試合内容と今後について、つらつらと雑感を書いてみたいと思います。

(ゴング前)

対照的な2人の顔


照明のせいもあるが、井上の顔色が悪いような。左目の下も腫れていて、海外合宿でも同じような症状があったはず。体重の回復も良くなかったようで、もしかして疲れが取れないのか…
確かに、調子は良くなさそうだが、それでも何とかするはずだし、これまでもざまざまな「隠れピンチ」を克服してきたキャリアもある。
逆に、白人のバトラーは日焼けして精悍な表情だ。



(序盤:1〜4ラウンド)

逃げるバトラー、追う井上


井上、パンチを出さないままプレッシャーを強め、ガードの上からでもお構いなしに、強打を見せつける。いわゆる「カマし」で精神的に圧して、自分のペースを握ろうとする作戦だ。
バトラー、頭だけでなくボディまでうまくブロッキングし、ディフェンス能力の高さを見せる。過去の敗戦者から、まずは「序盤にもらわないこと」を徹底しているようだ。

試合は基本、バトラーがサークリングし、井上が追いかける展開。
追い打ちの際に、たまに井上がバランスを崩す場面も。足がついていかないのはやはり本調子じゃない証拠だ。

井上、強いジャブを起点に、ガードの間を割る左フックや、ガードの向こう側を打つ右フックなどを散らす。
バトラーの堅いガードをどうこじ開けるかがKOへの鍵だが、無理打ちしてテンプルなどで拳を痛めないかがちょっと心配。それほどの凄まじい打撃音だ。
時折、打ち終わりに左フックを合わせるバトラーだが、井上はスウェーやブロックで対策。このパンチ力なら多少もらっても大丈夫だろう、という見切りもあったはず。

(中盤:5〜8ラウンド)

トリッキー←→オーソドックス


ガード一辺倒のバトラーに対して、トリッキーなノーガードやサウスポーへのスイッチなどで誘う。それでも乗ってこないバトラー。
挑発する井上の表情は、これまで見たこともないような不敵な顔をしている。照明のせいか、まるで「鬼」の形相に見える瞬間も。

確かに、バトラーは専守防衛すぎるが、煽って相手が乗ってくるほどボクシングは単純ではないだろう。
途中、ジャブを起点にしたオーソドックスな攻め方に切り替える井上。
そうそう、相手のリズムでやらせて打たせた方が、スキはできるはずだ。


(終盤:9ラウンド〜)

ボディへのダメージ蓄積


9ラウンド以降も、トリッキー/オーソドックスと切り替え、さまざまな攻め方でバトラーのスキを伺う。
ジャブに被せる右クロスを狙いたいところだが、なかなかタイミングがつかめない。バトラーは、過去のニエベス以上に打ってこない相手で、ニエベスよりも我慢強いようだ。

それでも井上は、強い右フックやボディをガードごとめり込ませるが、バトラーは意外に打たれ強い

10ラウンドも終わると「確実に負けはないが、判定かな…」のムードが。
そんな空気を感じ取ったか、井上は一気に勝負に出る。
バトラーの堅いガードで唯一空いているボディ左側に、鋭いステップインで右ボディを体ごとぶつける。
右ボディは左(レバー側)ほどダメージングブローになり難いが、このパンチでたじろいたバトラーに、勝負を察した井上がガードを薙ぎ倒すほどの乱れ打ち!
おそらく、この中の左ボディがフィニッシュになってTKOをもぎ取った。

カウントアウト後に体を伸ばすバトラーの姿から、ボディのダメージが蓄積した様子が伺える。


(今後の課題と可能性)

Sバンタムでのリスクと期待


パンチがあまり効かなかったのは、バトラーのガードだけでなく、井上の減量からくる不調もあったのだろう。
おそらくいつも以上に足に力が入っておらず、バトラーが後退し続けるから余計に追い足に忙しく、踏ん張りが効かなくなっていた。

すでに井上は、八重樫トレーナーと一緒に、減量増も覚悟でSバンタム仕様の体作りを進めているらしい。
その中で、より強いフィジカルをベースに、Sバンタム仕様のボクシングを作り上げるはずだ。
ただ、Sバンタムの世界クラスが相手となれば、今回のようにチカラでねじ伏せるのは危険だろう。
長谷川も、ロマゴンも、ドネアも、上のクラスに行くとパンチが効かなくなり、ムキになって強振して、自分のボクシングを見失ったことがある。

さらに、Sバンタムの黒人ボクサーならば、バトラーのようなディフェンシブなボクサータイプでも、ポイントを取りにいけるテクニシャンが現れる。
最大のライバルのスティーヴ・フルトンがまさにそういうタイプだ。

そこで井上はフラストレーションを溜めて、煽ったり、誘ったりするのではなく、あくまで「スマート」な攻め崩し方を遂行してほしい。
前述の通り、打たせたいならば相手のリズムに乗っかる、テクニシャン相手ならば緻密な駆け引きを遂行する、荒々しく来る相手ならば闘牛士のごとく捌く、などなど。

とは言え。

Sバンタムに転向しても、フルトンが相手だとしても、恐らく井上の脅威となるボクサーはいないだろう。

無敵の男にとって、最大の敵は自分自身、己の中にしかない(そこには、体調管理も加齢も含まれる)。

そして、いくら井上が真面目で謙虚な練習姿勢を崩さないボクサーだとしても、パウンドフォーパウンドや4団体制覇という偉業は、大きなプライドと共に僅かな「傲慢さ」を生むかもしれない。

今日の試合で、バトラーの左フックを見事なスウェーでかわしたり、時折かわし損ねていたり、挑発を繰り返していたり……あそこに微かな「傲慢さ」を見るのは、私の杞憂で終わればいいと思うのだが。

確かに、3階級制覇、パウンドフォーパウンド、4団体制覇は素晴らしい。
偉業すぎるほどの偉業で、日本人でここまでの選手はもう出てこないだろう。

しかし、これから無人の荒野に突き進んでいく井上は、一度自らのリセットボタンを押す必要があるかもしれない。
それが無敗街道を続けるための1つのリスク回避だ。

あるいは、リスクを負ってても、たとえ負けたとしても、エモーショナルなファイトスタイルで本場のリングを沸かす道もある。

かつて本人も「一度負けたとしても」と語っていたこともあり、勝ち負けよりも自分の可能性、プロとしての充実感を追求したいのかもしれない。

劣勢になっても、流血しても、ダウンしたとしても、たとえ負けたとしても…。
何度も立ち上がって、熱くファイトしていく本場のリングでの「NAOYA INOUE」の姿を実は、私も一番見たがっている。
負けてからが、心から応援できるボクサーになるのかもしれない(実は、今までの井上は完璧すぎて、なかなか感情移入ができないのだ)。

自らの限界を超えていく。

そこに井上尚弥というファイターの魅力と本質、「鬼」が潜んでいるような気がしてならない。

井上尚弥の第三章に期待!

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