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自転車に乗るとお尻が痛くなる理由

自転車に乗るとお尻が痛い...!

スポーツバイクに乗った人であれば、どんな人でも経験したことのあるのがお尻の痛み。深刻な場合、自転車を辞めてしまう原因になるほどです。男性の方であれば、サドルに長時間乗ると勃起不全(ED)や前立腺がんになるという噂を耳にした方もいらっしゃるでしょう。今回はお尻の痛み+サドルが我々の健康に及ぼす影響について大真面目に解説していきます。

長時間の圧迫は皮膚トラブルを引き起こす

そもそも、自転車に乗っているとなぜお尻が痛くなるのでしょうか。

自転車に関連するお尻の痛みの原因は、大きく分けて筋肉由来皮膚由来かの2つに分けられます。

筋肉由来で痛みが発生するのは、ポジションの問題で股関節周辺の筋肉が酷使された結果です。この場合、動かすと痛い、というのが特徴になります。筋肉由来の痛みの場合、ポジションの修正とトレーニングによって改善します。

皮膚由来の場合は、サドルとの摩擦と会陰部への加圧が原因で、初心者でも上級者でも発生するのが特徴です。動かさなくてもじんじんと痛みが残り、皮膚表面に傷や潰瘍が認められる場合は、この皮膚由来であるといえるでしょう。

では、なぜ圧をかけると皮膚に痛みが出るのでしょうか。

それはお尻の血管の位置が関係しています。

サドルと当たる部分は医学的には会陰部と呼ばれる部分です。会陰部には、周辺の皮膚に栄養を運ぶ血管が集中して走行しています。サドルに座ると、自分自身の身体とサドルでこの血管を挟む状態になります。この状態が長時間続くと会陰部周辺の血流が低下し、皮膚に栄養が行き渡らなくなり皮膚潰瘍が生じるのです。

これが痛みが現れる要因の一つです。長時間圧迫による皮膚潰瘍は寝たきりの患者さんにもよく見られる症状で、褥瘡と呼ばれます。褥瘡は寝具と自分自身の身体で血管が圧迫され、血流が乏しくなったことによる皮膚障害で、一般的には床ずれとも呼ばれています。自転車に乗っていると、床ずれならぬサドルずれに悩まされてしまう、ということです。

長期圧迫は神経障害も引き起こす

皮膚表面には問題がなくとも痛みが生じるケースがあります。この場合でも、神経がサドルと身体にはさまれて圧迫されることが原因と考えられています。下記に会陰部の神経解剖図を示します。ちょうどサドルがあたる部位に神経が集中しているのがわかります。

会陰部の解剖イラスト。参照より引用。サドルがあたる部分に神経が集中しているのがわかる。

痛み以外の健康問題も圧迫でおきうる

痛み以外にもサドルの長時間圧迫は様々な問題を引き起こします。

例えば会陰神経麻痺です。会陰神経は、会陰部から肛門周囲にかけての感覚を担当している神経です。この神経に長時間の圧迫がかかると、麻痺や異常感覚が生じることがあります。

また、尿道狭窄も男性の自転車乗りに多くみられる自転車特有の疾患です。これは尿の通り道である尿道が狭くなり、尿の出が悪くなる病気です。股座を強打する騎乗型外傷が原因で発症しますが、会陰部および陰茎への長時間圧迫でも発症し得ると報告されています。男性は尿道が長く外に出ているため、サドルからの圧迫が女性より起こりやすくなっているのです。

このほかにも、慢性前立腺炎、前立腺の石灰化、嚢胞形成、尿路感染症など、長時間圧迫と泌尿器疾患との関連が指摘されています。

根本解決はフォームとサドルの見直し

対策は、会陰部への圧迫を軽減することです。

最も手っ取り早い具体的な手段は、ライド中にダンシングの時間を増やすことです。実際にダンシング時間がライド中に増えるほど、会陰部のトラブルや自覚症状は軽減すると明らかにされています。

さらに根本的な解決方法としてはポジション改善サドルの変更が挙げられます。エアロポジションのような前傾の深いポジションは、シートへの荷重が増え会陰部への圧迫が強まります。また高すぎるシート位置や低すぎるハンドルポジションも同様に圧が強まります。レース志向の方でも試合以外の練習中はハンドルを少し上げて、少しでも会陰部の圧力負荷を軽減してあげましょう。ご自身でベストなポジションがわからない場合はフィッティングサービスを受けるのも手です。

今回の記事内容まとめです。

  • お尻の痛みは皮膚由来か筋肉由来

  • 皮膚由来はサドルによる圧迫が原因

  • 長時間の圧迫は神経も損傷しうる

  • 対策は自分の骨格に合ったポジションとサドル

参照文献:
Mohannad A. Awad et al. Cycling and male sexual and urinary function: results from a large, multinational,cross-sectional study The Journal of Urology 10 October 2017

Jensen, Magnus Thorsten; Holtermann, Andreas; Bay, Hans; Gyntelberg, Finn (2016). Cardiorespiratory fitness and death from cancer: a 42-year follow-up from the Copenhagen Male Study. British Journal of Sports Medicine, bjsports-2016-096860–. doi:10.1136/bjsports-2016-096860

Bergengren O, Pekala KR, Matsoukas K, Fainberg J, Mungovan SF, Bratt O, Bray F, Brawley O, Luckenbaugh AN, Mucci L, Morgan TM, Carlsson SV. 2022 Update on Prostate Cancer Epidemiology and Risk Factors-A Systematic Review. Eur Urol. 2023 Aug;84(2):191-206. doi: 10.1016/j.eururo.2023.04.021. Epub 2023 May 16. PMID: 37202314.

ネッターイラスト解剖学 第3版


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