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がたん、がたん、電車

あこがれの 電車についに 乗りにけり
よろこびの歌 とめどなく溢る

我が息子、おもちくん。
気管切開とともに生活する、医療的ケア児である。

今年の春先、晴れて日中呼吸器を離脱し、酸素チューブのみで生活できるようになり、おでかけも大分身軽にできるようになったおもちくん。お散歩は毎日のように行くし、新型奴が落ち着いているタイミングには、電車を使ってかなり遠くまで遊びに行けるようになった。

で、おもちくん、子鉄、すなわち、「子供の鉄道ファン」である。

踏切に行けば、必ず「だん、だん、だん(がたんごとん、の意)」と言い、渡らずに何回か開閉を見るようご所望になるし、おもちくんを連れて踏切散歩をしているおかげで、母は近所に子鉄スポット(電車好きの子供たちが何人も電車を眺めている線路脇の場所)があることを知った。

そんな子鉄なおもちくんを、電車に乗せてみたいと思っていた。

そして、春。
初乗車の日。

初めての駅のホーム。
駅放送とアナウンスのあとに、間近に迫る電車。

「わぁー!だん!だん!」
興奮するおもち。

おもちの目の前で止まる電車。開くドア。
ベビーカーが、ゆっくり電車の中に吸い込まれていく。

「ママ?!ママ?!(これ乗るの?!)」
目をまんまるにしながら、何度も振り返り、母の顔を見るおもち。

閉まるドア。動き出す電車。
息を呑む、おもち。

「······だん!だん!」
パタパタし始める足。
拍手するもみじの手。

おもちの中で、電車が「眺めるもの」から「乗りもの」になった瞬間。
大好きな電車に乗れた喜びを、幼いなりに全身で表す。

私は、もしかして、素晴らしくかけがえのない瞬間に立ち会えてしまったのではないか。

息子おもちくんの大きな瞳に映る車窓の流れる風景を眺めながら、
じんわり広がる感動に浸っていた。


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