文系数学の最大値最小値。三角関数の合成と平方完成の共通した目的

「算数の方が数学よりもひらめきや思考力が求められる」という人がいる。
これはxなどの文字を使わないなど知識が少ないという制約がある中で、いかに工夫して問題を解くかがより求められるからだ。
実際数学ⅡBの分野でlogや三角関数の式いじりをやるだけの問題が出題されるが、ここにはひらめきや思考力はほぼ必要なく、知識を習得した人に点数を与える分野になっている。
試験を実施する上で特にマーク式だと、計算知識のうえにさらに思考力まで問うと、「知識も思考力もないから得点できなかった人」と「思考力だけがなかった人」との間に差がつかなくなってしまうから込み入った問題は出さないのだと思われる。
裏を返せば、知識が少ない中で試験をやるとき、そこではいわゆる思考力を問わざるを得ないのだ。

実は文系数学と理系数学もこの関係にある。
文系数学で微積分の使用は多項式の形をした式に限られるが、理系数学では三角関数や指数対数関数、分数関数に対しても使える。

微分とは平均変化率の極限、つまり微小部分にスポットライトを当てたときの平均変化率だからそれが正ならば関数は増加していて、負ならば減少している。そして正から0を経て負となるときが極大値(注目した点近辺の微小区間における最大値。イメージとしてはめちゃくちゃ小さい山の頂点。ゆえに正→0→正のときは0のときが頂点とはならず極大値ではない)、負から0を経て正となるときが極小値となることはご存じだろう。
今述べた理屈は微分可能でさえあれば、どんな関数に対しても言えそうだ。「増え方が正か負か」を考えているだけなので「特定の◯◯関数じゃなきゃ使えない」ということがないのだ。つまり汎用性が高い。
それに対して例えば平方完成は二次関数の最大最小を求めるのに使うが、これは「二乗した実数は0以上である」という事実に依存している。よって見かけが4次関数だとしても置き換えして二次関数になるもの(例えばy=x^4+x^2+1のようにt=x^2≧0と置くと二次関数になるもの)にしか使えない。その代わり軸の右側もしくは左側は単調な増減をすることがわかりきっているので、最大最小を考えるのは易しい。
ただ二次関数も実際は微分でも最大最小を求めることができる。普段やらないのは今話したように、平方完成するだけで増減が明らかだからだ。

というわけで微分の汎用性の高さから理系数学では微分は「何も考えないで」使えるツールなのだ。
逆に文系数学では道具が少ない中で最大最小を求めるのに一工夫しなくてはならない場面がある。
代表的なのは分数関数x/(x^2+1)(x>0)のようなものだろうか。分母分子をxで割れば相加相乗が使える。これも理系範囲の微分でできてしまうし、別に理系生が相加相乗を使ってももちろん差し支えない。これは言ってしまえば、相加相乗が思い付かなくても微分で乗り切れるということなのだ。
これは、xを使わずに小学生は解かされるが、それだと解けないときxを使って方程式を立てれば解けるのと同じなのだ。

さてタイトルにある、三角関数の合成と平方完成の共通した目的とは何だろうか。
ここでxを全実数とする。
y=sinx+cosxの最大最小は?
と聞かれれば文系生も最大が√2、最小が-√2と正しく答えられるだろう。このとき合成を使って
y=sinx+cosx=√2sin(x+45°)と変形してsinの部分が-1~1なので答えが出る。ちなみにくどいようだが、これも微分で答えることができる。
y=x^2+xの最小も
y=x^2+x=(x+1/2)^2-1/4とすれば最小値-1/4となるのがわかるだろう。

合成と平方完成が共用する狙いは何だろうか。
それを考えるにあたって次の質問に答えてみてほしい。
y=sinx+cosxの最大値はsinxの最大値は1、cosxの最大値も1なのでyの最大値は2である。
この主張の間違いはわかるだろうか。

「sinxが1になるxの値とcosxが1になるxの値が異なるから、言い換えると同時に1とはならないから」である。
もっと踏み込むとsinxとcosxが連動しているから同時に1になるか確認しなくてはならず、同時に1にならないなら最大値は2にはならないだろう。
例えばsinx+cosyはxとyが無関係に全実数を動くのならば最大値は2としてよい。

平方完成においても実は同じで
0~x^2~∞、-∞~x~∞なのでこれらの和の最小値はx^2=0、x=-∞だから答えは-∞は間違いだ。
この二つの等号は同時には成り立たないからだ。
やはりx^2とxは連動しているのであり、x^2+yで、xとyが無関係ならxが0、yが-∞とすることができる。

そうすると三角関数の合成と平方完成は結局のところ何をしていたのか、それは

連動した変数が2ヶ所に登場したものを、1ヶ所にした。動く場所を1ヶ所に束ねた。

これが結論だ。
y=sinx+cosx=√2sin(x+45°)と変形することで、動く場所は1ヶ所となった。
同様にy=x^2+x=(x+1/2)^2-1/4と変形することで(x+1/2)^2(x≧0)の部分1ヶ所だけが動く。

そして実は分数関数x÷(x^2+1)の分母分子をxで割るというのも、分子は1という定数となり、分母だけにxが登場する形に変形しているのだ。分子も分母も連動しながら動いていたのを分母だけが動く形にしたのだ。
分子の部分がxではなく2x+1などに変わっても、やはり2x+1で分母分子を割ればいいことに変わりはない。計算は汚くなるが、式の骨格は変わらない。
分母が二次式÷一次式なので相加相乗が使える。

今回の記事で伝えたかったのは、解法を覚えるにしても、とのような「戦略」で解答を進めているのか意識しようということだ。
式の見た目に反応して、「分母分子をxで割る」という「反射神経」も試験には有効だが、それだけでなく、今回で言えば「変数を1ヶ所にするため」の式変形なのだと意識して解法を覚えておくようにすると応用が効きやすくなるだろう。

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