近年の医学部受験。多浪してでも受かる子と受かりにくい子の見分け方を超簡単に解説。商業主義に踊らされずに合格をつかみとれ。

私は東大在学中から20年近く、私立を中心に医学部受験にたずさわってきた。00年代の初めの頃までと今とでは私立医学部の合格難易度は全然違うということはさすがに常識になってきているようだ。ちょっと前までは「私立なら何とかなるでしょ?」という態度の親御さんもいて、「認識を改めないと二、三浪ではすみませんよ」とたしなめたこともあったものだ。見かけの偏差値はもちろんだが、問題自体の難易度があがっており、式いじりのテクニックをなんとなくで覚えて、なんとなく合格するというパターンはほとんどなくなってしまった。差がつく問題、合否をわける問題はどの科目でも水準があがっているのだ。
さて、多浪してでも受かるかどうかの目安だが、結論を先に言うと「浪人生になっても全科目で基礎から教えてもらわないと学習がままならないかどうか」だ。
全科目の授業をとるなと言っているのではない。ペースメーカーとしての授業、よくわからず暗記していた事柄を違う角度から解説してもらって理解を深めるなど目的がピンポイントになっていれば、プロに習うのはよいことだ。
問題は全科目をイチから個別指導などで教わるという場合だ。高校生のうちに、もしくは一浪目あたりで数学の教科書傍用問題集や英単語帳、英文法問題集を自力、もしくは学校の授業である程度まで理解して習得できる力がないとかなり厳しい戦いになる。そこそこの進学校で、まずまず英語数学の基本の型は身に付いたが、現役では理科が間に合わなかった、数学や物理、理論化学の難しめの問題をうまくとける着眼点を教えてほしい、このようにポイントを絞って個別の指導を求めてくる生徒は浪人してもなんとか合格にたどり着く。英語数学の基礎を自力で片付けることができる生徒が、中堅や下位の医学部まで受けるようになってきている現状では、そのぐらい厳しいのは当然と言えよう。
そこそこの進学校であっても、現役生が苦手科目を「なんとなく」受講しとくとか、浪人することになり大手予備校に「なんとなく」在籍するというのは時間のムダになりやすい。「大手は合わなかった」ということで二浪目三浪目から少人数、もしくは完全個別の医学部予備校に行ったり、もっと年数を重ねてから私のようなプロの家庭教師に頼みこんでくることもある。
さて商業主義に踊らされるなとのタイトルをつけたが、どんなものがあるかをシンプルに言うと「医学部は難化しているから早い学年からウチを受講しろ」とか「過去問の傾向と対策をしている講座をとれ」のあたりだろうか。私は本音では商業主義かどうかは別にどうでもいいと思っている。結果をしっかり出せて、親御さんが払えるなら問題はない。
問題なのは現役生のうちから各単元のポイントを絞りすぎちゃったり、傾向と対策うんぬん以前の問題なのをスルーしたりすることだ。ある程度の問題数を演習するのは自分でやることが必要だし、基礎力なく予備校の傾向と対策とやらで差がつくレベルの問題を解くのは前述の通り厳しくなっている。そして意外にもこのことを本人はウスウス感づいていたりする。しかし、受験の世界での常識やら思い込み、進学校にいたことでのプライドなどのせいで、なんとなくで間違ったことをしていたりする。多浪生に「先生の指導が今までで一番わかりやすい。」「数学や理科への向き合い方がわかった。」などと言ってもらえるのはうれしいのだが、逆に言えばこれまでの数年はほとんどムダなことをしていたということになる。

商業主義ついでに医学部専門を謳う個別指導の講師のレベルを見る目安を業界の裏事情とともにお金の面からシンプルに教えよう。医学部受験に対応できる講師ということで学生ではなく経験ある学卒者がある程度の金額で指導することになっている。中には講師のランク付けをしているところもある。それを参考にするのもよい。家庭教師派遣の協会がそれなりに評価しているからだ。
もっと簡単な目安を教えよう。多くのご家庭は金額が高い方がご利益があるように思っているようだが、「おしい」といったところだ。正確には講師にいくら入るかを調べることだ。大都市圏の社会人講師は多くの派遣会社に重複して登録している。会社に中抜きされて自分の手元に入る額が高いところの仕事をなるべく多く受けようとするのは当然だろう。そしてその仕事を失わないように頑張るはずだ。もっといいのは手前味噌になるが、知り合いのツテだ。政治家や経営者などのセレブリティの横のつながりの中で評判のいい人がいる。彼ら自身は勉強の中身をそこまで具体的には把握していなくとも誰が使えそうなやつかを冷徹に見抜く嗅覚があるようだ。その良し悪しの感覚は似通っているのか、紹介されてミスマッチになることはない。
ちなみに医学部受験についてご相談いただくのは構わないが裏口入学の斡旋などはしていないのであしからず。

現役生は現役や一浪で受かると思っているし、一浪、二浪生も今年こそと思っているが、それゆえにその年度のことだけを考える。それを願うのは、受験生である以上当然だし、受かるという気概をもつことはもちろん大事だ。しかし、そのせいで焦ったり、視野が狭くなって自分や試験内容を客観視できないと非常に厳しい未来が待ち受ける。浪人年数を重ねるうちに「今年もダメなのでは?」と自分を信じられなくなってくる。中学高校受験でうまくいかなかった人にもこのようなメンタリティーは散見されるが、その話はまた別の機会に。
現役生であっても学習の進み具合次第では二浪ぐらいかかるのかもと覚悟をしておく方がいい場合もあるのだ。家庭教師協会などからの仕事をしていた頃、英語数学の基礎ができていないのに「現役合格を希望しているので、理科を急いで詰めてください」とか一次が受かりそうもないのに「二次の小論文も対策してください」とか年明けあたりから言われたりする。気持ちはわかるのだが、状況を客観視して腰を据えた方がいい。
年単位で時間をムダにするのはかわいそうだし、受かればまだしも、浪人生のまま30歳を迎える人を何人も見てきた。自分の懺悔の気持ちもこめて医学部浪人生のリアルを書かせてもらった。参考にしていただきたい。

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