見出し画像

睡眠と健康

こんにちは、Dr.K(ドクターコージ)です。
「睡眠」は生きていく為に必須ですが、関わる因子が複雑だったり、測定や分析が難しかったり、ということで、未解明なことも多いです。

その様な側面だけでなく、「最適な睡眠」も個人差や環境、年齢による変化も大きいので、研究者自身の睡眠習慣が研究者の仮説に強く影響することも指摘されており、単一の仮説だけで全てを説明出来る訳では無く、偏った内容であることも多いことが分かってきています。

とは言え以前と比べると少しずつ分かってきていることも多いので、最新の研究に基づいた知識をまとめてみました。「眠り」について悩みのある方はぜひ参考にしてみて下さい。

【レム睡眠とノンレム睡眠】

睡眠を語る上で必ず出てくるのが「レム睡眠」と「ノンレム睡眠」です。眠りにつくとまず「ノンレム睡眠」に入り、そこから更に深く眠りに入ります。
ノンレム睡眠はその深さからN1、N2、N3と三段階に分類され、前者2段階が「浅い眠り」N3が「深い眠り」と表現されることが多いです。入眠後平均1時間半ほどで眠りが浅くなり「レム睡眠」となります。脳が活発に働いており、記憶の整理や定着が行われるとされますが、骨格筋は完全に脱力しており体は最も休まる時間です。
「レム」とはRapid Eye Movement(急速眼球運動)の略であり、寝ている人を観察していると眼球が激しく動くことが観察されることからこの様に呼ばれる様になりました。
睡眠初期はノンレム睡眠N3が多く、起床前になるとレム睡眠が増えてきます。以前はレム睡眠はノンレム睡眠より浅い眠り、という捉え方もされましたが、全く違う物でありどちらも健康の為には必要なことが分かっています。

【「1時間半の倍数で起きると良い」は都市伝説】

平均1時間半程度で、ノンレム•レムの周期があることから、入眠後「90分」の倍数である3時間や6時間経って起きる様にすると体に負担なく目覚められると言うことが言われたりもしますが、この周期にはかなりブレがあり、90分の倍数で起こしても周期の区切りが良いところとは言えないことが判明しており、「都市伝説」だと言う認識が良い様です。

【必要な睡眠時間はかなり長い】

一日の睡眠時間が4-6時間程度という方も多いと思いますが、実は慢性的な睡眠不足であることが多いことが分かっています。
健康な人を対象に好きなだけ寝てもらうと言うことを行った研究によると、睡眠不足では無い人は、健康な人間は平均8時間半以上寝られないことが確認されており、睡眠研究の専門家からは、一日8時間から10時間の睡眠が推奨されています。

必要な睡眠時間は生まれつきある程度決まっていますので、同じ年齢でも同じ時間で良い訳でもありませんが、若い時はより長く、歳をとるとより短くなる傾向があります。特に成長期には十分に睡眠時間を取ることで、体の発達だけでなく、脳の海馬の発達も良くなることが報告されています。

何か心身に問題がある場合や慢性的な睡眠不足の場合には長時間寝ることがありますが、一日で慢性的な睡眠不足を解消することは出来ず、3-4日かけて不足を補う必要があり、いわゆる「寝だめ」は効果がありません。そう言う意味で「睡眠負債」と言う言葉が使われたりします。

このことから、誰にも邪魔されない環境で4日間寝たいだけ寝る様にし、各日の睡眠時間を記録すると、4日目の睡眠時間がその人にとって必要な睡眠時間の近似値である可能性が高い、とも言われています。
とは言え必要な睡眠時間は、年齢や環境によってもかなり変動することも分かっていますので、あくまで目安にしておきましょう。

【「朝型」「夜型」は遺伝子で決まるだけで無く年齢によっても変化する】

睡眠時間だけでなく、寝る時間と起きる時間の中央時間が1日でより早い時間か遅い時間かで、「朝型」「夜型」と言う分類があります。
朝型か夜型かは遺伝子で決まることも分かっていますが、年齢により変化することも分かっており、若い頃は「夜型」傾向の人が多く、歳をとると「朝型」傾向の人が多くなりますが、無理矢理コレを変えることは出来ません。
多くの学校は「朝練」や「朝礼」の様なことが朝早くから行われるので、朝型の人は辛くないのですが、若い学生の多くは夜型ですので、睡眠生理学的にはかなり無理を強いている状態だと指摘されています。
また若い人に必要な睡眠時間も8時間半から9時間半とされますが、実際の睡眠時間はかなり短く慢性的な睡眠不足状態であることが指摘されており、実際にナルコレプシー、不眠症、睡眠時無呼吸などの睡眠障害に苦しんでいる若者が多いと言う報告もあります。
米国では始業時間を10-11時などと遅くしたり、頭を使う課題を午後に行う様にすることで、睡眠不足が改善し学習パフォーマンスが上がったと言う報告があり、一部の学校で取り入れられる様になっています。日本の一部の学校でも取り入れられており、良好な結果が得られている様です。
成人の就業環境においても、20-30歳は夜型傾向であることが多く、中高年になると朝型傾向が多くなるので、一律に就業時間を設けるよりは、朝型か夜型かで朝出勤の日勤帯勤務、昼出勤の準夜帯勤務、と言う感じで割り当てるのが良いとされていますが、導入は社会的にまだ難しいのが現状です。
ちなみに自分が朝型か夜型か(専門的には「クロノタイプ)を確認する為には、国立精神・神経医療研究センターが公開している「MEQ-SA」という質問票を使うことで、超朝型・朝型・中間型・夜型・超夜型の5タイプから知ることができます。下にリンクを置いておくので、気になる方はぜひ使ってみてくださいね。

【クロノタイプ診断用MEQ-SA】

【睡眠不足は万病の元】

慢性的な睡眠不足は、仕事や学習などのパフォーマンスを低下させます。一日寝ないで徹夜をするだけで、お酒の酩酊状態と同じくらいの脳機能が低下したり感情抑制が出来なくなります。

一日4-6時間の睡眠時間を1-2週間継続するだけでも、徹夜と同じ状態になると言う報告もありますので、現代人の多くは本来のパフォーマンスを発揮できていないと言えますし、酩酊状態の人と同じ様に、やたらハイテンションだったり、怒りやすくパワハラなどの問題行動を起こしやすいということです。

また「ショートスリーパー」と言う短眠習慣が注目された時期もありましたが、短時間睡眠で十分な人は極めて稀であり、訓練で何とか出来ることでは無いですので、自称ショートスリーパーの99%以上は「無自覚の慢性的睡眠不足」とも言われていますので、無理な短眠はできるだけ避けた方が良いです。

加えて慢性的な睡眠不足は、高血圧、糖尿病、肥満、動脈硬化などの有病率と相関しており、狭心症や心筋梗塞などの心疾患、脳出血や脳梗塞などの脳血管疾患のリスクを高めます。また、免疫機能を低下させるので、感染症に弱くなりますし、発癌リスクも高くなります。

肥満については、慢性的な睡眠不足で、レプチンと言う満腹中枢を刺激するホルモンの分泌が低下し、食欲中枢を刺激するグレリンと言うホルモンの分泌が亢進することで起こる、と言う仮説もありますが、実際の機序は未解明です。
とは言え、一日4-6時間睡眠の人の内臓脂肪が十分な睡眠を取っている人と比較して11%程度多いことが確認されており、逆に肥満の人に対して「いつもより2時間多く寝る様に」と指示するだけで、摂取カロリーが低下し痩せる傾向にあることも分かっています。
「よく寝る子は縦に育ち、寝ない大人は横に育つ」と言うことも言われたりします。
ダイエットの為には、食事調整だけで無く、睡眠の改善も大切だと言うことですね。

【睡眠の質の改善に大切なこと】

まず大前提として、「質を追求する前に十分な睡眠時間を確保する」ことが重要です。如何に質を追求しても睡眠不足であればあまり意味が無いからです。

睡眠の質を下げてしまう大きな原因に、「カフェイン」と「アルコール」があります。もちろん耐性には個人差があるので一概には言えませんが、カフェインを含むコーヒーや玉露茶などは15時以降、遅くても16-17時以降は控えるのが良いです。特にカフェインに過敏で無ければ、煎茶程度ならば大丈夫ですが、夜はカフェインが含まれないほうじ茶などにしておくのが良いです。

アルコールは催眠作用があり、見た目の寝つきは良くなりますが、レム睡眠が減り睡眠の質としては良くないことが分かっています。レム睡眠の割合が1%低下すると、認知症のリスクが9%増えると言う報告もありますので、怖いですよね。睡眠の質をさげるだけでなく、依存症のリスクも高まりますので、お酒を飲む場合にも「寝酒」として習慣的に飲むのは避けましょう。

どうしても眠れない様な場合には、レム睡眠に影響を与えない様な睡眠薬を活用するのも良い選択です。
現在最も処方されているベンゾジアゼピン系睡眠薬は、脳の活動を抑制することで睡眠時間は確保できますが、レム睡眠も深い睡眠も減らしメリハリのない状態にしてしまう上に、依存性が出来、薬をやめると使う前より寝られなくなると言うことが起こります。
脳内で睡眠・覚醒に関与し、摂食行動、報酬系、情動に関わるオレキシン受容体働きかける新しいタイプの睡眠薬(商品名:デエビゴ、ベルソムラ)は、レム睡眠を増やすので睡眠の質を下げることはありませんし、依存性のリスクも低いです。
また睡眠導入剤として使われる抗ヒスタミン薬や睡眠ホルモンと言われるメラトニンなども、自然な睡眠を促し依存性のリスクは少ないです。

また、睡眠時に胃の中に食べ物が残っていると、睡眠の質が悪くなりますし、消化と言う観点からも良くないとされています。可能であれば寝る前3-4時間前までに食事を終えておくのが理想的ですが、やむを得ず何か食べる場合には、胃腸に優しい物を少量にしておくのが良いです。どうしても仕事やライフスタイルの関係で帰ったり食事を食べられるのが寝る直前になってしまう様な場合には、朝食と昼食の二食はしっかり食べて、夕食は早めに間食程度にするか抜く様なやり方も良いです。睡眠時間と合わせて14-16時間程度食べない時間を作ることは、腸内環境を整えたりオートファジーを活性化させ健康にも良いですからね。

睡眠中は自然に体温調節が行われますが、
質の良い睡眠には、「最適な室温」が大切です。暑くも寒くもない温度が理想ですが、薄い掛け毛布があれば、少し寒い時にも対応出来ますし、少し暑い時は手足を出して放熱出来るので、より良いですね。

また夜間に室内の照明を明るくし過ぎないことも大切です。脳を刺激して覚醒させる「ブルーライトカット」が注目されることもありますが、自然光に含まれるブルーライトは睡眠覚醒リズムを整えるのに重要ですので、一日中使う眼鏡をブルーライトカットにするのは逆に良くありません。そして日没後はブルーライトカットよりも照度の方が睡眠への影響が大きいことも分かっていますので、照明だけで無く、テレビやパソコン、スマートフォンなどのディスプレイの照度も夜間は低めにする様にしましょう。
寝る時には真っ暗にするのが良いと言う人もいますが、薄明かりがある方が良い人もいますので、自分に合った照度で良いですが、明るい照明をつけたまま寝落ちしてしまうのは避けましょう。

パソコンやスマートフォンを寝る前に使うと睡眠の質が落ちると言う説もありますが、積極的な判断や操作を求める様なアプリやショート動画の閲覧を避け、リラックス出来眠気を誘う様な音楽や映画の鑑賞や読書であれば特に問題ないと言う専門家もいますので、好みに合わせて使えば良いと思います。

ぬるめのお風呂に入り体温を一時的に上げると言うのも良いのですが、入浴後90-120分後に体温が下がる時に入眠しやすくなるので、帰りが遅くなった場合などにはむしろ体を温め過ぎない様に汗を流す程度にするか、翌日朝に入浴する方が、睡眠の質としては良い場合もあります。

ラベンダーなどの香りが睡眠やリラックスに良いと言うこともよく言われますが、好みによって効果が分かれますので、自分がリラックス出来る香りが分かっている方は、寝室にその様な香を焚いたり、エッセンシャルオイルを使ったりするのも良いです。

睡眠習慣の改善と言う意味では、眠りに入りやすい習慣をルーティーンとしておくことも重要です。いつも同じ様な行動をして寝る様にしておくと、条件反射の様な感じで自然と寝やすくなります。このルーティーンもまた人により千差万別ですので、自分に合う習慣を早めに見つけておきましょう。

以上が、2024年現在の最新の睡眠研究において分かっていることです。この他にも様々な仮説はありますが、まだ検証や確認が必要なことばかりですので、盲信せず参考程度にしておくのが良いと思います。

本格的に健康改善を目指したい方は、ぜひDr.Kの健康顧問医師契約をご検討下さい。事業者さんや経営者の方で、健康診断や特定疾患検診ではなく、病院外での従業員や役員の健康支援の質を高めたい、と言う方からのご相談も受け付けております。
初回相談は無料ですが、2回目以降のビジネス関連のご相談は、11000円/時の相談料を頂いておりますので、あらかじめご了承下さい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?