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Miles Davis – Bitches Brew Live (2011)

 戦後からジャズを革新し続けていたMiles Davisは、1960年代の後半にはすでにロック・ファンにも広く崇拝されるほどの存在となっていた。本作はフュージョンとファンクの懸け橋となった名盤『Bitches Brew』録音期の周辺に当たる彼のライブ音源を収録したもので、これまで未発表だった69年のニューポート・フェスと、70年のワイト島フェスにおける40分弱の伝説的なパフォーマンスがまとめられている。特に後者では60万人を超える若い観衆の熱狂もリアルに伝わってくる。
 ワイト島のステージに立つ直前に、どの曲をやるのかと訊かれたDavisが〈Call It Anythin'〉と答えたのは有名な逸話だ。71年にCBSが出したフェスの3枚組レコードには、17分間に編集されたの彼らの演奏に対してずばり「Call It Anythin'」とだけタイトルがつけられている。実際彼らの当日のプレイはほとんどが即興演奏であり、「Directions」をはじめとしたおなじみの曲はそのメインテーマがさわりだけ飛び出す程度だ。演奏にはかつてないほどの緊張感が満ちており、来るべき名盤『On The Corner』のファンクネスにも通ずる重量級のグルーヴが次々に飛び出してくる。
 Keith JarrettとChick Coreaの二人のキーボードが織りなすメロディは完全にフリー・ジャズの域に入っており、Jack DeJohnetteのタイトなドラムとDave Hollandのベースは骨太で安定したファンクのリズム(「Spanish Key」のグルーヴは特にすさまじい)を生み出す。そこにAirto Moreiraのパーカッションが絶妙な演出を施している。満を持して登場するDavisの突き刺さるようなホーンがたちまちステージを支配するが、気鋭のGary Bartzも負けじとスピリチュアルなブロウを聴かせる。
 ニューポート録音は「Miles Runs The Voodoo Down」を含む3曲で、バンドはワイト島のメンバーをピアノ、ドラム、ベースという最小限の構成におさえた体制で行われている。だが演奏の勢いに関してはフィルモアの名演にも迫るものだ。