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Nana Mouskouri – Nana (1965)

 ギリシャのたぐいまれな才能に惚れこんだアメリカ人は、コンサートを共にしたHarry Belafonteだけではなかった。Nana Mouskouriの二度目のアメリカ録音となった1965年のアルバム『Nana』は、プロデュースとほとんどのソング・ライティングを音楽家のBobby Scottが手掛けている。サウンドはポピュラーでありながら過剰に彼女の歌を飾り立てるようなことはなく、どこか牧歌的な雰囲気を湛えた本作の響きはエバーグリーンという言葉がよく似合うのだ。
 トラッド・フォークを下地にした曲の数々は、ヨーロッパの歌手としての個性を際立たせる演出となっているが、一曲一曲のアレンジは非常に繊細で丁寧だ。届かない恋心を歌った「Tiny Sparrow」はアコースティック・ギターのシンプルな音色のみで、一方「Johnny」や「My Kind Of Man」などは美しいオーケストラが古き良きアメリカン・ポップスのように聴こえてくる。
 「If You Love Me (Really Love Me)」はMouskouriが敬愛したÉdith Piafの「Hymne À L'Amour」を英語に翻訳している。ボーカルは自らの透きとおるようなスタイルを貫きつつも確かな熱を感じさせており、これはPiafの力強い歌唱への深いリスペクトによるものだ。
 すでにヨーロッパとアメリカのジャズの分野では知られていたMouskouriが国際的な名声を得るのはもはや時間の問題だった。ジャンルと言語の壁などものともしない彼女は、後に2億枚以上ものレコードを売り上げた。