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David Cassidy – Rock Me Baby (1972)

 1972年、ティーン・アイドルの仮面をかぶり続けることにウンザリしていたDavid Cassidyはついに行動●●を起こす。その年の5月に発売されたローリング・ストーン誌の表紙に登場したCassidyは、コカインをキめて全裸で草に寝転がる衝撃的な姿を全米に見せつけたのである。現在のロック・ファンが見たら〈My Bloody Valentineの『You Made Me Realise』のパロディか?〉と思われそうな写真だが、効果はてきめんと言っていいだろう。アダルト誌よろしく付録のポスターまで付いた号はたちまちマガジン・スタンドから姿を消し、彼はまんまと路線変更にこぎつけることができたのだから。
 そして発表されたのがアルバム『Rock Me Baby』である。バラードで埋め尽くされていた前作『Cherish』とはうって変わって、全編に荒っぽく野性的なソウルが満ちている。これが正真正銘の意欲作というやつだ。
 1曲目の「Rock Me Baby」が始まって10秒かそこらで、Cassidyは生まれ変わったのだと誰もが確信する。力強いビートとカントリー風のサウンドに乗る彼のシャウトには、Mick Jaggerへの憧憬もLittle Richardからの薫陶も感じ取ることができ、彼のオリジナル曲「Two Time Loser」は、やや大仰なアレンジの中にNYらしいスマートさが含まれている。
 以前なら「Soft As A Summer Shower」のような曲はもっとソフトなバラードになるはずだったに違いない。だがここでのCassidyはこれ以上ないほど感情的なボーカルで歌い上げている。カバー曲の選出にもこだわりが見え、The Young Rascalsのヒット・ナンバー「How Can I Be Sure」は、原曲のソウル色を落としてストリングスを交えたサイケ・ポップ風に仕上がった。
 「How Can I Be Sure」のシングルはヒットしたが、Cassidyの新たな門出は特にイギリスで熱く祝福され、同国のアルバム・チャートで最高2位を記録している。