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Queen – Hot Space (1982)

 『Flash Gordon』と『The Game』というホップ・ステップがあったとはいえ、従来の作風から大きく飛躍した『Hot Space』は少なからぬ議論を巻き起こした。だが、本作に寄せられた毀誉褒貶はFreddie Mercuryの想定内の出来事に過ぎなかった。聴き進めていけば気づくことだが、このアルバムには『Queen II』で完成した音の構築美がなおも息づいているし、『Sheer Heart Attack』でホールを熱狂させたハードロックの血だってしっかりと流れている。本作はこうしたあらゆる要素を含みつつもエレクトロ・ファンクが通底した名盤であり、ディスコの閉鎖的な心地よさも漂う。Queenの新境地を示した作品であることに疑いの余地はない。
 アルバムの冒頭で盛大にブラス・サウンドを展開した「Staying Power」の外連味は、結果としてMercuryの方向性にリスナーがついてこられるか否かを測る試験紙の役割を果たした。辛抱強い男であるBrian Mayは、続く「Dancer」やB面の「Put Out The Fire」で白眉ともいえるギター・ロックを聴かせる。ゲイ的なやりとりを戯画的に描いた「Body Language↑⬱」ではJohn Deaconのベースがディスコ・ミュージックを、「Action This Day」ではRoger Taylorがニューウェーブのグルーヴをそれぞれ見事に表現してみせる。
 お家芸であるアコースティックとエレクトリックの重層的なサウンド、荘厳なコーラスを駆使した「Las Palabras De Amor」や、John Lennonに捧げた「Life Is Real」は、数あるQueenの作品の中でも特に美しいバラード曲だ。「Under Pressure」は、彼らとしては珍しくゲスト・ボーカルを迎えた曲で、ここでは先ほどの緻密なコーラスワークとは打って変わり、MercuryとDavid Bowieそれぞれの力強いボーカルが1:1の様相で見事にぶつかり合っている。
 再評価などという言葉もふさわしくない。『Hot Space』は完成されたサウンドの紛れもない傑作である。